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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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手紙の謎

 何これ、なんなの?

 疑問が荒波のように押し寄せる。

 いったい誰がこんなものを母宛に送ったというのか。

 こんな手紙を受け取っていると知られたら、母の立場が危うい。

 一発でこの屋敷を追放される。

 いいや、それだけでは済まされないだろう。

 一度目の人生のように聖教会のインチキ裁判にかけられ、公開処刑されるのが目に見えていた。

 手紙もそうなのだが、赤いインクで書かれた魔法陣も不気味だった。

 これはいったい――と、視線を移した瞬間、魔法陣が光り輝く。

 赤く発光した魔法陣から、何か出てきた。


「え、なんなの、これ!?」


 ズズズズズ……と怪しい音を立てながら、短剣の柄のようなものが見えてきた。


「やだやだ、怖い!!」


 椅子から立ち上がり、後退った瞬間、鞘から一気に引き抜かれるように全貌が明らかとなる。


「な、何……?」


 それは刃が血濡れたような、真っ赤な短剣だった。

 柄には血が染みついたような包帯が巻かれてある。

 明らかに禍々しく、触れただけで呪われそうな短剣だった。


 じりじり後退ったが、背後は壁だった。

 どん! と壁にぶつかったのと同時に、短剣が目の前に迫る。


「きゃあ!!」


 刃先が眼前に飛び込んでこようとした瞬間、突然短剣は消えた。

 しーーーーーん、と静寂に支配される。

 短剣自体見間違いだったのでは、と思ったものの、頬を伝ってくる汗は本物だった。

 恐る恐る卓上にあるカードを見てみると、魔法陣は消えてなくなっていた。

 あれはなんだったのか?

 わからない。

 呆然としている場合ではなかった。この手紙をどこかに隠す必要がある。

 今すぐにでも暖炉に放り投げたかったが、呪われそうで恐ろしい。

 地下収納に入れておこう。

 なんて考えていたら、突然扉が開いた。


「ねえヴィオラ、いるの?」


 やってきたのは母だった。

 急いで手紙を手に取り、背中に隠す。

 明らかに怪しい挙動をしてしまったが、母相手なので不審に思われなかった。

 相手がシュヴァーベン公爵夫人だったら、一発で怪しいと見抜かれていただろう。


「ねえ、なんか声が聞こえたんだけれど、あなただったの?」

「いいえ、違うわ」

「でも、メイドが書斎から悲鳴みたいな声が聞こえたて言うのよ」

「イタチじゃないかしら? 前に誰かが屋根裏に出たって話していたわ」

「イタチですって?」

「そ、そう! ヒルディスが人の叫び声に似ているって言っていたの!」


 ヒルディスはそんなことなど言っていない。けれども彼女が言ったと付け加えると、本当のように聞こえるのだ。

 母も「ふうん、そう」と言って納得してくれた。


「手紙の整理は順調?」

「ええ! こんなに書いたわ!」

「あら、すごいじゃない」

「残りは明日するわね」

「ええ。急がなくてもいいから。どうせ半年くらい放置していた手紙だし」


 半年ではなく、一年である。

 指摘すると機嫌が悪くなりそうなので、言わないでおく。


「贈り物のお菓子はどうだった? 腐っていなかった?」

「ええ! 飴とか、チョコレートとか、砂糖細工だったから大丈夫だったわ」

「太りそうなものばかりね」

「でも、とってもおいしそうだった」

「ほどほどになさいね」

「わかっているわ」


 母が気付くようなボロがでないうちに撤退しよう。


「じゃあ、わたしはこれで」

「ええ」


 母は上機嫌な様子で手をひらひら振り、わたしを見送る。

 手紙を胸に抱え、自室目指して走っていたが――。


「きゃあ!」

「うわっ!」


 曲がり角で誰かにぶつかってしまう。

 勢い余って倒れてしまった。


「ごめんなさい、大丈夫?」


 そう言って手を差しだしてくれたのは、美しい美少女。

 女装をし、ヒルディスの取り巻きをしているレンだった。


「あ――!」


 七度目の人生では絶対に彼と絡むまい、なんて考えていたのに、まさかこんなところで出会ってしまうなんて。


「平気よ」


 なるべく冷たく聞こえるように言い放ってから、彼の手を借りずに立ち上がる。

 こんな態度だったら、これ以上関わり合いになろうとしないだろう。

 早くここを去らなければ。

 そう思って走り出そうとしたところに、レンがわたしを引き留めるように声をかけてきた。


「あの、ヴィオラお嬢様、お手紙を落とされているようです」

「あ!!」


 レンにぶつかった衝撃で忘れていた。

 振り返ると、手紙の内容が見える状態で便せんを持つレンの姿があった。


「待って!!」


 奪い取るようにレンの手から手紙を取り上げる。

 胸に押し当てて隠すも、レンは手紙を見てしまっただろう。

 念のため、確認してみる。


「ねえ、見た?」

「その……」

「見たのね」


 レンは嘘を吐かない、正直な子なのだ。

 別に見ようとしたわけではない。二つ折りにしていた便せんが開いていた状態で落ちていたのだろう。


「その、ごめんなさい」

「こっちに来て!」


 わたしはレンの腕を掴み、この場から連れ去るようにぐいぐい引っ張った。

 

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