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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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代筆屋さんの初仕事②

 他にも、高価な贈り物がどんどん出てくる。

 年代物のワインに、金の髪飾り、銀の食器に、ミンクの襟巻きなどなど。

 出るわ出るわの高級品。

 お菓子なんて贈ってくる人は一人もいなかった。

 もしかしたら直接贈り物を受け取っていたら、重さなどで気付いたかもしれない。

 母はそれすら面倒くさがって、すべてメイドに任せていたのだろう。

 最後の箱に入っていたのは、エドウィン・フェレライからの贈り物だった。

 いったい何を贈ったのだろうか。

 箱を開いてみると、入っていた物を見てギョッとする。


「うわ……無理。気持ち悪すぎる」


 エドウィン・フェレライが母へ贈ったのは、総レースの下着だった。

 いったいどういうつもりで、こんな品々を贈ってきたのだろうか。

 本人から理由を聞いたら耳が腐ってしまいそうだ。

 今すぐにでも燃やしたくなったが、この下着自体は価値がある。

 きっと高値で売れるだろう。


 贈り物の数々は一つの箱に詰め、母に見つかる前に部屋に運んでおこう。

 なんて思いながら部屋を出たら、シュヴァーベン公爵夫人と出くわしてギョッとする。


「あら、あなた。母君の書斎で何をしていたのですか?」


 心臓がバクバクと脈打つ。

 十歳のわたしだったら、隠そうとするあまりギクシャクしていただろう。

 けれども今のわたしは何度も危機的状況に直面してきた身。

 魔獣と遭遇するよりは恐ろしくない。そう言い聞かせながら言葉を返す。


「お母様の書斎を整理するご褒美に、お菓子をくださったの」


 シュヴァーベン公爵夫人はスッと目を細くし、探るような眼差しを向ける。

 ここで箱の中身を見せろと言われたら、嘘を吐いたとバレてしまう。

 こうなったら、と奥の手に出た。


「シュヴァーベン公爵夫人もお一ついかが? とってもおいしいお菓子みたいなの」


 あえてお菓子を勧めてみる。

 十歳の女の子が嘘を吐くとしたら、ここまでできないだろう。

 にっこり微笑みかけながら小首を傾げたら、シュヴァーベン公爵夫人は「いいえ、いりません」と言葉を返した。


「お菓子が欲しいのならば、メイドに言いなさい。お菓子など、報酬として受け取るに値しないものです」

「はーい」


 いろいろな方向にケンカを売りそうな言葉だが、彼女は極めて恵まれた環境で育った身。

 この発言で腹を立てるような人とは違う人種なのだ。

 そう思うようにしておく。

 シュヴァーベン公爵夫人はそれ以上何も言わず、去って行った。

 それから急いで部屋に戻り、扉を閉める。

 最近発見した、カーペットの下にある収納に箱を入れた。

 蓋を閉め、カーペットで覆って見えなくしたあと、はーーーーーーと盛大なため息を吐く。

 まさかあの場でシュヴァーベン公爵夫人に会うとは。

 絶対に怪しまれていたものの、なんとか追及を避けることができた。


 これらの品は早く売ってしまいたい。

 早くマルティナ夫人から連絡がないものか、と思ってしまった。


 昼食を終えたあと、書斎に戻って作業を開始する。

 贈り物のリストを作ったので、次はそれを見ながら返信を書かなくては。

 手紙の書き方は、六度目の人生でヒルディスの取り巻きをしているときに習った。

 大人っぽい丁寧な文字の書き方もお手の物だ。

 次々とお断りの手紙を書いていく。

 一日で終わるわけもなく、暗くなってきたのでいったん止めることにした。

 半日で書けたのは、十五通程度。

 思っていた以上に数をこなせていない。

 走り書きでいいのならばもっと書けるものの、たいそうなお品物を受け取っているので、それはできない。

 あわよくば、また贈ってもらえるように、丁寧に感謝の言葉を書き綴ったのだ。

 ただ、エドウィン・フェレライにだけは事務的な返信をしておいた。

 大げさに喜んでみせたら、調子に乗りそうだから。


 背伸びをしつつ、あと何日かかることやら、などと考えていたら、ふと一通の手紙に目がいく。

 それは、差出人や宛名のない真っ白な封筒だった。


「何かしら?」


 こんな封筒、仕分けるときにはなかったはずだが。

 もちろん未使用ではない。

 封筒にはしっかり厚みがあり、封蝋が押されていた。


「真っ赤な山羊の封蝋ね」


 赤い山羊と言えば、聖教会での裏切り者のモチーフとなっている。

 なんだか嫌な予感しかしない。

 けれども見て見ぬふりもできなかった。

 母の書斎にあった以上、中を検める必要がある。

 ペーパーカッターを手に取り、封筒を振って中身を出してみた。

 すると一枚の便せんと、魔法陣が描かれたカードが出てきた。


「な、なんなの!?」


 魔法に精通しているわけではないので、魔法陣が何を意味しているのかわからない。

 だがしかし、真っ赤なインクで描かれた魔法陣が、不吉なことくらいは察する。


「気味が悪いわ」


 便せんも確認したほうがいいのだろう。

 ペーパーと羽根ペンを使い、直接便せんに触れないようにしながら広げた。


「――え?」


 そこには真っ赤な文字で〝ヒルディスを殺せ!!〟と書かれていた。

 ぞわり、と全身に悪寒が走る。

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