代筆屋さんの初仕事②
他にも、高価な贈り物がどんどん出てくる。
年代物のワインに、金の髪飾り、銀の食器に、ミンクの襟巻きなどなど。
出るわ出るわの高級品。
お菓子なんて贈ってくる人は一人もいなかった。
もしかしたら直接贈り物を受け取っていたら、重さなどで気付いたかもしれない。
母はそれすら面倒くさがって、すべてメイドに任せていたのだろう。
最後の箱に入っていたのは、エドウィン・フェレライからの贈り物だった。
いったい何を贈ったのだろうか。
箱を開いてみると、入っていた物を見てギョッとする。
「うわ……無理。気持ち悪すぎる」
エドウィン・フェレライが母へ贈ったのは、総レースの下着だった。
いったいどういうつもりで、こんな品々を贈ってきたのだろうか。
本人から理由を聞いたら耳が腐ってしまいそうだ。
今すぐにでも燃やしたくなったが、この下着自体は価値がある。
きっと高値で売れるだろう。
贈り物の数々は一つの箱に詰め、母に見つかる前に部屋に運んでおこう。
なんて思いながら部屋を出たら、シュヴァーベン公爵夫人と出くわしてギョッとする。
「あら、あなた。母君の書斎で何をしていたのですか?」
心臓がバクバクと脈打つ。
十歳のわたしだったら、隠そうとするあまりギクシャクしていただろう。
けれども今のわたしは何度も危機的状況に直面してきた身。
魔獣と遭遇するよりは恐ろしくない。そう言い聞かせながら言葉を返す。
「お母様の書斎を整理するご褒美に、お菓子をくださったの」
シュヴァーベン公爵夫人はスッと目を細くし、探るような眼差しを向ける。
ここで箱の中身を見せろと言われたら、嘘を吐いたとバレてしまう。
こうなったら、と奥の手に出た。
「シュヴァーベン公爵夫人もお一ついかが? とってもおいしいお菓子みたいなの」
あえてお菓子を勧めてみる。
十歳の女の子が嘘を吐くとしたら、ここまでできないだろう。
にっこり微笑みかけながら小首を傾げたら、シュヴァーベン公爵夫人は「いいえ、いりません」と言葉を返した。
「お菓子が欲しいのならば、メイドに言いなさい。お菓子など、報酬として受け取るに値しないものです」
「はーい」
いろいろな方向にケンカを売りそうな言葉だが、彼女は極めて恵まれた環境で育った身。
この発言で腹を立てるような人とは違う人種なのだ。
そう思うようにしておく。
シュヴァーベン公爵夫人はそれ以上何も言わず、去って行った。
それから急いで部屋に戻り、扉を閉める。
最近発見した、カーペットの下にある収納に箱を入れた。
蓋を閉め、カーペットで覆って見えなくしたあと、はーーーーーーと盛大なため息を吐く。
まさかあの場でシュヴァーベン公爵夫人に会うとは。
絶対に怪しまれていたものの、なんとか追及を避けることができた。
これらの品は早く売ってしまいたい。
早くマルティナ夫人から連絡がないものか、と思ってしまった。
昼食を終えたあと、書斎に戻って作業を開始する。
贈り物のリストを作ったので、次はそれを見ながら返信を書かなくては。
手紙の書き方は、六度目の人生でヒルディスの取り巻きをしているときに習った。
大人っぽい丁寧な文字の書き方もお手の物だ。
次々とお断りの手紙を書いていく。
一日で終わるわけもなく、暗くなってきたのでいったん止めることにした。
半日で書けたのは、十五通程度。
思っていた以上に数をこなせていない。
走り書きでいいのならばもっと書けるものの、たいそうなお品物を受け取っているので、それはできない。
あわよくば、また贈ってもらえるように、丁寧に感謝の言葉を書き綴ったのだ。
ただ、エドウィン・フェレライにだけは事務的な返信をしておいた。
大げさに喜んでみせたら、調子に乗りそうだから。
背伸びをしつつ、あと何日かかることやら、などと考えていたら、ふと一通の手紙に目がいく。
それは、差出人や宛名のない真っ白な封筒だった。
「何かしら?」
こんな封筒、仕分けるときにはなかったはずだが。
もちろん未使用ではない。
封筒にはしっかり厚みがあり、封蝋が押されていた。
「真っ赤な山羊の封蝋ね」
赤い山羊と言えば、聖教会での裏切り者のモチーフとなっている。
なんだか嫌な予感しかしない。
けれども見て見ぬふりもできなかった。
母の書斎にあった以上、中を検める必要がある。
ペーパーカッターを手に取り、封筒を振って中身を出してみた。
すると一枚の便せんと、魔法陣が描かれたカードが出てきた。
「な、なんなの!?」
魔法に精通しているわけではないので、魔法陣が何を意味しているのかわからない。
だがしかし、真っ赤なインクで描かれた魔法陣が、不吉なことくらいは察する。
「気味が悪いわ」
便せんも確認したほうがいいのだろう。
ペーパーと羽根ペンを使い、直接便せんに触れないようにしながら広げた。
「――え?」
そこには真っ赤な文字で〝ヒルディスを殺せ!!〟と書かれていた。
ぞわり、と全身に悪寒が走る。




