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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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代筆屋さんの初仕事①

「作業は私の書斎でなさい。前に届いた手紙も置いてあるから、それも代筆よろしくね」

「わかったわ」


 母に書斎があったなんて初耳である。

 銀盆を持つメイドの誘導で、書斎とやらに移動した。


「こちらになります」

「ありがとう」

「紅茶を運んでまいりますね」

「ええ、お願い」


 中に入ると、立派な本棚に事務机が置かれた立派な書斎だった。


「ねえ、お母様はここをよく使っているの?」

「いいえ、まったく」


 書斎なんて必要ないだろう、なんて思っていたが、案の定使っていないらしい。

 事務机の上には、今日届いたもの以外の手紙が乱雑に置かれていた。

 ざっと見る限り、五十通くらいあるだろうか。

 手紙と一緒に届いたという贈り物も、床に積み上がっていた。

 母は興味はないのか、すべて未開封である。


「お手紙は、どちらに置きましょうか?」

「そうね」


 卓上に置き場所はない。仕方がないので、積み上がった贈り物の上に置いておく。

 メイドは一礼し、退室していく。


「そういえば、紅茶を持ってくるとか言っていたわね」


 このままでは置き場所がない。急いで手紙をかき集め、片側に寄せておく。

 まずはペンとインクを取りだして――と引き出しを開いてみたら、羽根ペンがコロコロ転がってきた。インク壺は空である。封蝋に使う蝋燭や封蝋印などもなかった。

 二段目、三段目を開いたら、手紙が出てきた。ここにも貯めていたとは。


「はーーーーーー」


 紅茶を持ってきたメイドに、道具一式を持ってくるようにお願いしておく。

 必要な品が届いたら、仕分けから始めよう。

 手紙をざっと見る限り、同じ人から何通も届いているようだ。


「マテウス・ブシュケット――宝石商じゃない。アレキサンダー・シュヴェンケ、こっちは有名な富豪ね」


 あれよあれよと出てくる、王都でも有名なお金持ちの名前。

 みんな、シュヴァーベン公爵に取り入りたいが、相手にされないので母に取り持ってほしいのだろう。


 新興貴族の夫人からも多く届いているようだった。

 こちらはシュヴァーベン公爵夫人との付き合いが難しいので、どうにか繋がりを持とうと母に手紙を送ったに違いない。

 他にも新人舞台女優や俳優、オペラ歌手などの舞台関係者からの招待も多い。


「あら、レオン・バシュからの手紙もあるじゃない!」


 レオン・バシュは新人俳優だが、十年後の世界ではスターになっていた。

 おそらく彼はさまざまな人達に取り入ってチャンスを掴み、人気俳優の座を得たのだろう。

 今後、この手紙を取っていたら、彼を利用できる交渉材料になるかもしれない。

 なんて野心を抱きつつ、選別作業を続ける。


「げ!」


 見知った名前を発見し、ぞわっと鳥肌が立つ。

 差出人に書かれている名は、マルティナ夫人の夫であるエドウィン・フェレライ。


「うわ、あの人、愛人がいるのにお母様にもちょっかいをかけようとしていたのね。気色悪い……」


 今すぐにでも手紙を燃やしたくなったが、これもマルティナ夫人に対する交渉材料になるだろうから、取っておかないと。

 それから一時間くらいかけて、手紙の仕分けを行った。

 母が溜めに溜めていた手紙は全部で百通以上。中には一年以上前の消印が押されているものもあった。

 思っていた以上に、母はものぐさだったのだ。

 もしも母が社交が大好きなタイプだったら、交友の広げ方によってはシュヴァーベン公爵夫人よりも影響力のある人物になっていたかもしれない。

 母にはそういった野心というものがないのだろう。

 まあ、もしもあれこれと交友を広げるタイプだったら、早い段階でシュヴァーベン公爵夫人に潰されていた可能性もあるが。


 続いて贈り物を開封しよう。

 母はお菓子だと言っていた。減量中なので、手を付けていなかったのだろう。

 こういうときは、メイドに下げ渡したらいいのに。

 そうやって使用人を労うのも、女主人の仕事なのだが。

 おそらく一年前に届いた物もあるのだろう。

 絶対に腐っている。開封したくないが、調べないと。

 荷物の山から上下をひっくり返し、もっとも古い物だと思われる包みを手に取る。


「差出人はマテウス・ブシュケット。宝石商ね」


 彼はいったいどんなお菓子を贈ったのか。

 いろいろな意味でドキドキしながら開封する。

 一応、臭いを嗅がないように鼻を摘まみつつ、蓋を開いた。

 入っていたのは、真っ赤なストロベリーキャンディ――ではなく、宝石があしらわれたネックレスだった。


「嘘でしょう!?」


 そっと触れてみたが、宝石に似せて作ったお菓子ではなく本物だ。


「これはルビーだわ!」


 おそらく高価な一品だろう。

 マテウス・ブシュケットはシュヴァーベン公爵との付き合いが欲しいがために、母にここまでしていたなんて。


 母に言おうか迷った。

 けれども母はこれらの贈り物は好きにしていいと言っていた。

 ならば、このルビーのネックレスもわたしの物である。

 そうだ! これもマルティナ夫人に買い取ってもらおう。

 

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