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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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マルティナ夫人

 エドウィン・フェレライの浮気相手について、三度目の人生でマルティナ夫人が起こした騒動のあと、ゴシップ誌などで報じられていたのである。

 カロエイーネ・ブレンネ。

 巷で人気が高まりつつある舞台女優で、エドウィン・フェレライとは一年の付き合いである。

 マルティナ夫人が尻尾を掴めなかったのは理由があった。

 エドウィン・フェレライがマルティナ夫人のスケジュールを把握し、絶対にバレないよう侍女や秘書官をも巻き込んで、隠蔽工作を行っていたからなのだ。

 まさか三度目の人生でゴシップ誌を読んでいたことが役に立つとは思いもしなかった。

 なんて考えていると、マルティナ夫人がやってくる。

 威圧感のある眼差しでわたしを見下ろしてきた。


「本当にやってきたのは小娘だったか」

「初めてお目にかかるわ、わたしはヴィオラ・フォン・シュヴァーベンよ」


 怪しい者だと思われないように、シュヴァーベン公爵家の名前を借りる。

 マルティナ夫人相手なので、今回ばかりは許してほしい。


「シュヴァーベン公爵の娘は、大聖女ヒルディス一人だと聞いていたのだが」

「愛人の娘なの」

「ああ、なるほど。そういうわけか」


 わたしが怪しい者ではないということだけはしっかり伝わったことだろう。


「して、何やら愉快な情報を握っていると言っていたようだが、何が目的なんだ?」


 さすがマルティナ夫人、話が早い。

 わたしは声を低くしながら、情報と引き換えに欲しい物を告げた。


「この宝飾品を換金してほしいの」


 将来を見据えてお金が欲しい。けれどもわたしみたいな小娘が質屋に行っても、相手にしてもらえるわけがない。

 そんなわけで、エドウィン・フェレライの浮気相手に関する情報を引き換えに交渉してみたのだ。

 マルティナ夫人は宝飾品を手に取り、鋭い眼差しを向けていた。


「これは、かなりいい品のようだが」

「お父様がわたしの誕生日にくださったの」

「大切な物ではないのか?」

「そうだけれど、将来のためにお金を確保しておきたいのよ」

「将来? お前みたいな小娘が、金が必要だと思うほど、将来の心配をしているというのか?」

「そうよ」


 だって、これまで何度も人生を繰り返しているのに、すべて出る杭が打たれるように失敗しているのだ。

 もう、頼れるのはお金しかない。

 ちなみに一度目の人生でこれらの品は、母が賭博をするために売り払ってしまったのだ。

 そんな運命を辿る前に売っておきたいのだ。

 

「わたしは愛人の娘で、先行きは真っ暗なのよ。今のうちにお金を持っていて、いざというときに使いたいの」

「なるほど、そういうわけか……。わかった」


 情報が本当であれば、これらの品物は金貨十枚で買い取ってくれるという。

 

「本当に!?」

「ああ、嘘は言わない」


 金貨十枚もあれば、贅沢しなければしばらく暮らしていけるだろう。

 

「探偵を雇って調査させるから、しばし待っておけ」

「わかったわ!」


 目論み通り、交渉は成功した。

 あとはマルティナ夫人が雇った探偵が、情報をしっかり持ち帰るのを待つばかりだ。


 ◇◇◇


 ひとまずお金はどうにかなりそうなので、あとはヒルディスとシュヴァーベン公爵夫人に媚びを売って、できる限りこの屋敷に居続けなければ。

 その間、何かお金儲けができたらいいのだが……。

 なんて考え事をしていたら、廊下から母の声が聞こえた。

 いったい何事かと思って様子を見に行く。


「お茶会の招待状ですって!? どうして私がそんなのに行かなければならないのよ!! あなたが適当に、返信を書いておきなさい」

「しかし」


 手紙を山のように置いた銀盆を持つメイドが困り顔でいた。

 それを聞いてピンと閃く。このチャンスを逃すまい、と相手に割って入る。


「お母様、そのお手紙、わたしが代筆しましょうか?」

「あなたが?」

「ええ! 丁寧な字で書くから! その代わり、ご褒美をちょうだい!」

「ご褒美ですって? 何が欲しいの?」

「お母様がいらない宝飾品とか、お金でもいいわ」


 わたしが思いついたのは、母専属の代筆屋さんである。

 母はシュヴァーベン公爵の愛人という立場であるが、茶会や観劇の誘いが届くのだ。

 たまにシュヴァーベン公爵がやってくることもあるので、それを狙っているのだろう。


「どうしたのよ、突然そんなことを言い出して」

「働くことを体験してみたいのよ」

「変な子ね」

「ねえ、いいでしょう?」


 母は面倒くさそうに「はいはい、わかったから」と言って、わたしに代筆の仕事を許可してくれた。


「たまに贈り物も届くから、それもあなたが好きにしてもいいわ。きっとお菓子とかだろうから」

「いいの!?」

「ええ。でも、しっかりお礼を書いておきなさいよ」

「わかった!」

「ちなみに全部お断りの手紙にしてちょうだい」

「いいの?」

「ええ、そんな集まりに行くより、ゆっくり過ごしたいの」

「ふうん」


 そんなわけで、わたしは母専属の代筆屋さんを始めることとなったのだった。

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