表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/117

六度目の人生も、時間は巻き戻り……。

 うんざりするくらいの眩しい中で目覚めた。


「……最悪」


 これまで何度も目にしてきた、鏡合わせの空間にいることに気付き、思わず独りごちる。


「ボルゾイ、いる?」

『こちらに』


 起き上がって確認すると、大精霊ボルゾイが申し訳なさそうな様子でうな垂れていた。

 目の前には、〝違背神聖罰刑アンチ・ディヴァインジャッチメント〟の文字が浮かび上がる。

 ファールハイト卿が揮った悪者を屠る〝神聖罰刑ディヴァイン・ジャッジメント〟でわたしとレンは死んだ。

 習得した〝違背神聖罰刑アンチ・ディヴァインジャッチメント〟は、悪しき聖者を屠るものらしい。


「こんなの、なんの役に立つというのよ」


 聖職者を手にかけたら最後。徹底的に悪者にされ、闇に葬られるに決まっている。

 これまでの人生も酷い目に遭ってきたが、五度目はもっとも最悪だ。


「レンを利用した挙げ句、殺すなんて酷い……」


 彼が魔力過多で日常生活にも困っているところを、ファールハイト卿は悪用し、自らの手柄としていた。

 こんなの、絶対に赦せるわけがない。


 でも、今回に限ってはわたしも加担しているように思えてならなかった。

 なぜならば、わたしがレンに聖職者にならないか誘ったから。

 あのとき、わたしが彼を唆さなければ、聖騎士になることなんてなかったのだ。


「もう二度と、レンとは関わらないほうがいいのね」


 わたしが近づけば近づくほど、レンも不幸になる。

 そんな結末が待っているのならば、出会わないほうがいい。

 暗黒騎士として生きることが幸せかはわからないけれど、わたしのやり直し人生に巻き込まれるよりはマシだろう。


 次の人生は六度目――いい加減うんざりしてしまう。


「独立して働こうとしてもだめ、母と一緒に逃げようとしてもだめ、聖職者として正しく生きようとしてもだめ、ヒルディスに媚び売って大人しくしようとしてもだめ――どう生きろって言うのよ」


 それぞれの人生の死因を回避しようとすれば、また別の不幸をいざなってしまう。

 何もかも嫌になって、その場に寝転がる。


「もう無理。頑張ることなんてできない」

『あなた様……』


 わたしは生きようと頑張っているのに、欲望や憎しみ、野望や野心を抱く愚かな人達に人生を台無しにされるのだ。


「どうせわたしは幸せになれないの。不幸の星のもとに生まれた女なのよ」


 自分で言ったことなのに、傷ついてしまう。

 皆、同じ世界に生きているというのに、どうして不公平なのか。

 なぜ、小さな幸せを掴んで生きることを、許してはくれないのか。


 これまでの人生を振り返っている中で、ふと気付く。


「そうよ、わたしも他人の幸せを踏みにじって生きたら、幸せが手にできるはず。ねえ、これまでの人生も、そうだったでしょう?」


 ナイトの野郎は都合が悪いことが起これば、わたしに罪を押しつけ、エドウィン・フェレライはわたしを脅し、マルティナ夫人は夫の制裁をするためにわたしを利用した。

 シュヴァーベン公爵夫人はわたし達親子の独立を許さず、ラルフ・ガイツはわたしの命を悪用し魔獣の餌にしようとしていた。

 ファールハイト卿はレンの魔力を利用し、英雄になろうとしていたのだ。


「だったらわたしも、同じようにすればいいの」


 そう口にした瞬間、涙が溢れる。そこまでしないと幸せになれない人生なんて、価値はあるのだろうか?

 わからない。

 わからないけれど、搾取され続ける人生を送るのも限界だ。


「ボルゾイ、わたし、やってやるわ」


 間違っていたら、命を絶てばいいだけ。

 それで二度と時間が巻き戻らなくても、仕方がない。


「だって、どうあがいても幸せになれない人生なんて、生きる意味がないもの」


 どんな結末が待っているかはわからない。

 けれどもやるしかないのだ。


 目を閉じると、光に包まれる。

 ボルゾイは応援する言葉を、初めて口にしなかった。


 ◇◇◇


 目覚めてすぐに、現状を確認する。

 小さな手に、すべすべの肌、豪華な寝台――間違いない、ここはシュヴァーベン公爵邸である。

 またしてもわたしは、子ども時代に時間が巻き戻ったらしい。

 鏡を覗き込む。

 これまでと同じ、十歳くらいのわたしだろう。


「ボルゾイ、神様はわたし達に味方をしたわ!」


 人生をやり直すとしたら、この時代がもっとも都合がいいだろう。


「ボルゾイ?」


 返事がなかったので振り返ると、ボルゾイの姿はなかった。


「ねえ、いないの?」


 姿も見えない。

 時間が巻き戻るときに何も言わなかったので、もしかしたらガルムみたいに鏡の間にいるのかもしれない。

 まあ、いい。

 これまでも、ボルゾイは傍にいても、危機的状況となったときに助けてくれるわけではなかったから。

 一人でやってやる。

 そんな意気込みで行動を開始した。


 まず、自分の命を守る術を手にしなければならない。

 わたしの祝福はどれも物騒で、目立ってしまう。

 もっと人目に付かないような武器が欲しい。

 考えた結果、ある名案を閃く。

 それを得るには、対価が必要だ。

 部屋にあった高価そうなものをかき集めてみた。

 誕生日にシュヴァーベン公爵が用意した銀のティアラに、金の髪飾り、宝石があしらわれたペンダント――。

 愛人の子であったが、シュヴァーベン公爵はわたしにもいろいろと贈り物を用意していたのだ。

 それらを袋に詰め、こっそり屋敷を飛び出す。

 向かった先は、エドウィン・フェレライの屋敷。

 もちろん、エドウィン・フェレライと面会するつもりはない。

 会いたい人物は、マルティナ夫人である。

 普通であれば面会が叶う相手ではなかったが、わたしには奥の手があった。

 エドウィン・フェレライの浮気相手について知っている。

 そう告げると、あっさり面会が叶った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ