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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第五章 怠を知る者、惰に溺れる

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神聖罰刑

「ああああ、あああああああ!!!!」


 レンは苦しげな叫びを上げ、膝を突く。

 すぐに腕輪を外そうとしたが、大精霊ボルゾイがわたしに体当たりをして制止した。


『他人の魔力に触れてはいけません!! 危険ですわ!!』


 大精霊ボルゾイにぶつかられた衝撃で、わたしは地面を転がってしまう。


「レン!! 腕輪を外して!!」


 そう叫ぶも、彼はわたしの声に反応しない。


「ははは、はははは!! アイスコレッタ卿、すばらしい魔力です!!」


 ファールハイト卿の持つ剣には、レンの魔力が集まってきていた。

 夜に見たときよりも、強い輝きを放っている。


「ここにいたということは、先ほどの会話を聞いたのでしょう!! 生かしてはおけません!!」


 どうやらファールハイト卿は、わたし達をこの場で処分するつもりらしい。


「あなた達のことは、森で逢瀬を楽しんでいるところに、魔獣に襲われたとでも話しておきましょう!! その魔獣も、私が倒したことにしておきますので!!」


 わたし達を亡き者にするどころか、ガルムを倒したレンの手柄まで盗むなんて。

 魔力を奪われたレンはもう戦えない。

 ならばわたしがやるしかないのだ。


 ファールハイト卿が剣を振り下ろそうとした瞬間、わたしは〝忠犬ロイヤル・ハウンド〟を発動させる。

 真珠のような美しい毛並みを持つ魔獣ガルムが、わたしの呼びかけに応えてくれた。


「なっ、これは――守護獣ですか!?」


 そういうことにしておく。

 血濡れたガルムと、わたしのガルムは見た目からまったく違うだろうから。


『がるるるるる!!』


 わたしのガルムはファールハイト卿に襲いかかる。そのまま押し倒され、魔法剣はレンに届くことなく、空振りに終わった。

 ガルムを召喚しているときのみ、わたしはこの子が習得しているスキルを使うことができる。

 その中の一つである、ありったけの〝光源ブライト〟をファールハイト卿に浴びせた。


「ぎゃあああああああ!!」


 ファールハイト卿がのたうち回る隙にレンを助けよう。


「ねえ、大丈夫!?」

「ヴィオラさん……逃げて……」

「わたしのことはどうだっていいのよ!!」


 レンを支えて立ち上がらせることはできないか。

 なんて考えていたら、大精霊ボルゾイの叫びでハッと我に返る。


『あなた様、魔獣が、魔獣が集まってきております!!』

「なっ、嘘でしょう!?」


 気がつけば、複数の魔獣に囲まれていた。

 わたしのガルムも魔獣の襲撃を受けているようで、逃げ回っていた。

 いったいどうして!? なんて思っていたら、ラルフ・ガイツがファールハイト卿のもとへ駆け寄る様子を目にした。


「ファールハイト卿、大丈夫ですか!?」


 やられた! あの男の存在をすっかり失念していた。

 それはそうと、昨晩、魔獣をこれでもかと討伐したのに、まだ所持していたなんて。

 いったいどれだけの魔獣を従えていたのか。


 魔獣は低く唸り、今にもわたし達に飛びかかってきそうな雰囲気だった。

 ここをなんとか切り抜けないといけないのに、どうすればいい?


「ヴィオラさん、背後に、隠れていてください」


 レンはそう言ってふらつきながらも立ち上がり、剣を構える。


「ねえ、止めて!!」


 こんなにたくさんの魔獣を相手に、今のレンが戦えるわけがない。

 わたしのスキル、〝壊れた心ブロークン・ハート〟ならば、魔獣を倒せる可能性がある。

 ナイフを取りだし、発動させようとしたそのとき、ファールハイト卿が怒りを露わにした。


「あなた達、絶対に、許しません!!」


 再度、レンの腕輪とファールハイト卿の剣が輝き始める。

 またしても、彼はレンの魔力を奪った。


「ぐあああああああああ!!!!」


 すでに満身創痍状態だったのに、限界に近いところまで魔力を奪ったのだろう。レンは大量の血を吐き、その場に倒れる。


「レン!!」


 ファールハイト卿は輝きを放つ剣を振り下ろしながら叫んだ。


「――神聖罰刑ディヴァイン・ジャッジメント!!」 


 眩い光に包まれながら、終わった、と思う。

 レンに届かないように、両手を広げた。

 彼の命だけでも守りたい。

 この一瞬だけでも。

 そう思っていたのにレンはわたしを抱きしめ、ぎゅっと力を込める。


「ねえ、どうして!?」


 苦しくて動けないはずなのに、わたしを守ろうとしてくるのか。

 ただ、彼でもこれは防ぎ切れない。

 だって、ありったけのレンの魔力が込められた、とっておきの一撃だろうから。

 雷が脳天を貫くような痛みに襲われた。


「――――ッ!!」


 神聖罰刑ディヴァイン・ジャッジメントはわたしとレン、二つの命を奪ったのだった。

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