神聖罰刑
「ああああ、あああああああ!!!!」
レンは苦しげな叫びを上げ、膝を突く。
すぐに腕輪を外そうとしたが、大精霊ボルゾイがわたしに体当たりをして制止した。
『他人の魔力に触れてはいけません!! 危険ですわ!!』
大精霊ボルゾイにぶつかられた衝撃で、わたしは地面を転がってしまう。
「レン!! 腕輪を外して!!」
そう叫ぶも、彼はわたしの声に反応しない。
「ははは、はははは!! アイスコレッタ卿、すばらしい魔力です!!」
ファールハイト卿の持つ剣には、レンの魔力が集まってきていた。
夜に見たときよりも、強い輝きを放っている。
「ここにいたということは、先ほどの会話を聞いたのでしょう!! 生かしてはおけません!!」
どうやらファールハイト卿は、わたし達をこの場で処分するつもりらしい。
「あなた達のことは、森で逢瀬を楽しんでいるところに、魔獣に襲われたとでも話しておきましょう!! その魔獣も、私が倒したことにしておきますので!!」
わたし達を亡き者にするどころか、ガルムを倒したレンの手柄まで盗むなんて。
魔力を奪われたレンはもう戦えない。
ならばわたしがやるしかないのだ。
ファールハイト卿が剣を振り下ろそうとした瞬間、わたしは〝忠犬〟を発動させる。
真珠のような美しい毛並みを持つ魔獣ガルムが、わたしの呼びかけに応えてくれた。
「なっ、これは――守護獣ですか!?」
そういうことにしておく。
血濡れたガルムと、わたしのガルムは見た目からまったく違うだろうから。
『がるるるるる!!』
わたしのガルムはファールハイト卿に襲いかかる。そのまま押し倒され、魔法剣はレンに届くことなく、空振りに終わった。
ガルムを召喚しているときのみ、わたしはこの子が習得しているスキルを使うことができる。
その中の一つである、ありったけの〝光源〟をファールハイト卿に浴びせた。
「ぎゃあああああああ!!」
ファールハイト卿がのたうち回る隙にレンを助けよう。
「ねえ、大丈夫!?」
「ヴィオラさん……逃げて……」
「わたしのことはどうだっていいのよ!!」
レンを支えて立ち上がらせることはできないか。
なんて考えていたら、大精霊ボルゾイの叫びでハッと我に返る。
『あなた様、魔獣が、魔獣が集まってきております!!』
「なっ、嘘でしょう!?」
気がつけば、複数の魔獣に囲まれていた。
わたしのガルムも魔獣の襲撃を受けているようで、逃げ回っていた。
いったいどうして!? なんて思っていたら、ラルフ・ガイツがファールハイト卿のもとへ駆け寄る様子を目にした。
「ファールハイト卿、大丈夫ですか!?」
やられた! あの男の存在をすっかり失念していた。
それはそうと、昨晩、魔獣をこれでもかと討伐したのに、まだ所持していたなんて。
いったいどれだけの魔獣を従えていたのか。
魔獣は低く唸り、今にもわたし達に飛びかかってきそうな雰囲気だった。
ここをなんとか切り抜けないといけないのに、どうすればいい?
「ヴィオラさん、背後に、隠れていてください」
レンはそう言ってふらつきながらも立ち上がり、剣を構える。
「ねえ、止めて!!」
こんなにたくさんの魔獣を相手に、今のレンが戦えるわけがない。
わたしのスキル、〝壊れた心〟ならば、魔獣を倒せる可能性がある。
ナイフを取りだし、発動させようとしたそのとき、ファールハイト卿が怒りを露わにした。
「あなた達、絶対に、許しません!!」
再度、レンの腕輪とファールハイト卿の剣が輝き始める。
またしても、彼はレンの魔力を奪った。
「ぐあああああああああ!!!!」
すでに満身創痍状態だったのに、限界に近いところまで魔力を奪ったのだろう。レンは大量の血を吐き、その場に倒れる。
「レン!!」
ファールハイト卿は輝きを放つ剣を振り下ろしながら叫んだ。
「――神聖罰刑!!」
眩い光に包まれながら、終わった、と思う。
レンに届かないように、両手を広げた。
彼の命だけでも守りたい。
この一瞬だけでも。
そう思っていたのにレンはわたしを抱きしめ、ぎゅっと力を込める。
「ねえ、どうして!?」
苦しくて動けないはずなのに、わたしを守ろうとしてくるのか。
ただ、彼でもこれは防ぎ切れない。
だって、ありったけのレンの魔力が込められた、とっておきの一撃だろうから。
雷が脳天を貫くような痛みに襲われた。
「――――ッ!!」
神聖罰刑はわたしとレン、二つの命を奪ったのだった。




