知りたくなかった真実
どくん! と胸が大きく脈打つ。どうして彼がいるのか?
なんて考えた瞬間、ラルフ・ガイツの祝福について思い出す。
〝魔獣召喚〟。
まさか、ここ最近出現している魔獣は、あの男が召喚した存在だったというのか。
しかしどうして?
多くの騎士や聖騎士が命を落としている。
わざと魔獣を召喚し、戦わせる意味がわからない。
幸いと言うべきか。
ラルフ・ガイツとファールハイト卿はわたし達の存在に気付かずに会話を続けていた。
「ブラザー・ガイツ、本日もご苦労でした!!」
「今回の魔獣、強くなかったですか?」
「ええ!! 勝ち応えのある、よき魔獣でした!!」
勝ち応えのある魔獣とは? いったい何を言っているのか。
そもそも、ファールハイト卿の魔法剣はレンの魔力ありきだろう。
「魔獣は皆に恐怖を与え、他の騎士や聖騎士が勝てないのでなくては意味がないんです!!」
「ええ、ええ。そうだと思って、パッパード救貧院の院長に頼んだ生き血でたっぷり強化させた、自慢の魔獣ばかりを派遣しました」
ラルフ・ガイツの発言を聞いた瞬間、くらりと目眩を覚えた。
なぜ彼が、魔獣に人の血を与えていたのか。
それは単純に餌を与えるという目的だけではなく、魔獣を強化させるためだったようだ。
「これは報酬です!!」
「ええ、たしかに」
ラルフ・ガイツは強力な魔獣を作り出し、報酬を受け取っていた。
きっと魔獣の派遣で得た金で、これから出世の道を開くのだろう。
では、ファールハイト卿の目的は?
なんて思った途端に、勝手にべらべら喋り始めた。
「これは英雄になれる、大きな一歩です!!」
「ええ、ええ、応援していますよ」
英雄――たしかに、五年後の世界で彼は魔獣殺しの英雄として名をはせていた。
若くして、聖騎士隊の隊長にまで上り詰めていたのだ。
地位と活躍を手にするために、魔獣の襲撃を画策し、実行に移していたのだろう。
「しかし、今回もたくさんの聖騎士達が亡くなられたようですね」
「ええ。英雄伝に悲劇はつきものですから!!」
「わかります。多くの命がなくなればなくなるほど、英雄としての貴方の名声が高まり、存在感が増すというものです」
「そのとおり!!」
信じられない。
亡くなった人達の命でさえ、利用しようと考えているだなんて。
背後にいるレンを振り返る。
額には玉の汗が浮かび、顔面蒼白となっていた。
ラルフ・ガイツの暗躍を知るわたしでさえ驚いているのだから、何も知らなかったレンにはショックが大きかっただろう。
それにしても、とんでもない場面に出くわしてしまった。
彼らが去るまで姿を隠し続けることなんてできるのか。
絶対に見つかったら、処分されてしまうだろう。
今はただ、息を殺して彼らがいなくなることを祈るばかりだ。
「それはそうと!! 修道女が言っていたのですが、魔獣が一頭撤退したと!! 本当ですか!?」
「ああ、ガルムのことですね。この子は育成中で、倒されるのが惜しかったものですから、ある程度聖騎士を殺したら、戻ってくるように命じていたんです」
「そうだったのですね!!」
ファールハイト卿は魔獣の撤退を把握していなかったので、あそこまで怒っていたのだろう。
「見てください、聖騎士の血肉を食べ、さらに強くなったガルムの姿を」
そう言って、ラルフ・ガイツはガルムを召喚する。
「――いでよ、ガルム!!」
召喚されたガルムは、四度目の人生で見たときよりも、二回りほど小さい。
ただ血濡れた獰猛な姿は変わらずであった。
そんなガルムは、鼻先をひくひくさせていた。
「ガルム、どうしたのですか?」
「餌の臭いでもするのでは!?」
餌と聞いてギョッとする。
もしや、ガルムは潜伏するわたし達の匂いを感じ取っているのだろうか?
どうする?
レンを振り返ると、彼は剣を握っていた。
そして、耳元で囁く。
「ヴィオラさん、私が背中を叩いたら、駐屯地のほうへ全力で駆けてください」
「レンは?」
「私はあの魔獣を食い止めますので」
次の瞬間、レンは私の背中をぽん! と叩く。
その合図と、ガルムの咆哮が聞こえたのは同時だった。
レンは剣を抜いて飛び出す。
「ガルム、どうしたのですか?」
「敵襲です!!」
ファールハイト卿も同じように剣を抜き、ガルムに加勢しようとしたが、レンに気付いたようだ。
「アイスコレッタ卿、何をしているのですか!?」
「魔獣を倒すのは、聖騎士の務めです」
「止めなさい!! その魔獣は、戦うための個体ではありません!!」
レンは襲いかかるガルムを前に、果敢に戦う。
他の聖騎士隊はまったく歯が立たない様子だったが、レンはガルムを怯ませるほどの実力を見せていた。
『あなた様、逃げませんの!?』
大精霊ボルゾイが控えめな様子で聞いてくる。
「逃げないわ!!」
きっとここでガルムを倒せたとしても、レンには処罰が待っているだろう。
そんなことなんてさせない。
ヒルディスに事情を話して、わたし達は何も悪くないと証明してみせる。
レンはガルムの首を刎ね、討伐に成功させていた。
ホッとしたのもつかの間のこと。
「アイスコレッタ卿、あなたは、なんてことをするのですか!!」
ファールハイト卿は激昂したように叫び、あろうことか、魔法剣を発動させた。




