レンとの面会時間
面会室に入ると、なんだか空気が重たい気がした。
今日、レンも何かあったのだろうか。
椅子にかけ、小窓から顔を覗き込むと、今にも泣いてしまいそうなレンと目が合った。
「ヴィオラさん」
「レン、どうしたの? 何かあったの?」
もしもレンのことをいじめるような奴がいたら、〝地獄の炎〟で燃やし尽くしてやろう。なんて、物騒なことを考えつつ話を聞いてみた。
「実は、明日から魔獣退治の任務に行くことになりまして、しばらく大聖堂を離れることになってしまい」
「え、そうなの!? わたしもヒルディスの傍付きとして、魔獣退治に同行することになったのよ!」
なんという偶然!
まさかレンも魔獣退治の旅に出るなんて。
「ヴィオラさんも行かれるのですか?」
「ええ、そうなの。他の修道女達は魔獣が恐ろしいみたいで」
わたしも恐ろしいことに変わりはないものの、他の子に比べたら耐性は少々あるし、魔獣に対抗できるスキルも習得している。もしものときはそれなりに戦えるのだ。
「レンも一緒だなんて、心強いわ!」
二人きりで会うことなんて許されないだろうが、一緒に行動できるのだ。
戦うレンの姿も見ることができるかもしれない。
嬉しい気持ちはレンも同じだと思っていたが、そうではなかったようだ。
レンの表情は暗いままである。
「あの、もしかして、わたしが同行するのが嫌なの?」
「いえ! 嫌というわけではなくて、その、心配なんです」
「心配?」
「はい。魔獣は残忍な生き物で、女性の血肉を特に好んでいると聞いたものですから」
なんでも男女が同時に逃げている状態で、分かれ道に一人ずつ逃げた場合、魔獣は必ずといっていいほど女性を追いかけるという。
「女性のほうが体力がなくて、襲ったときも抵抗が少ないからなのかしら?」
「おそらく、そういうことかと」
そういう性質だとわかっていて女性ばかり襲ってくるというのは、非常にたちが悪い。
「最近噂になっている魔獣は、知能が高いのね」
「ええ、油断ならないんです」
これまでも、人を襲う魔獣は存在した。
けれども、今問題になっているものとは凶暴さが異なるという。
分厚い皮膚に、鋭い牙、致命傷を負っても恐れずに立ち向かってくる姿勢など、これまでの魔獣にはない特徴があるという。
さらに恐れられているのは、その食欲である。
狙って人を襲い、全身余すことなく喰らうようだ。
「これまでの魔獣は人を襲うことはあっても、喰らうことは稀だったそうです」
「人の味を覚えた魔獣が、知能をつけた上に急に繁殖したのかしら?」
「その可能性もあるかと」
人々の命を守る騎士隊ですら歯が立たず、犠牲者ばかり増えているという。
「騎士の攻撃が効かないのに、どうして聖騎士の攻撃が有効なの?」
「聖騎士の攻撃も、そこまで効果的ではありません」
魔獣の弱点だという聖術の加護を付与した剣を使っているので、通常の騎士よりも有利に戦闘を進めることができるようだ。
「皆、それぞれ苦戦しているのですが、私の上官だけは魔獣を圧倒する戦闘能力を持っている唯一のお方で」
レンに魔力を制御する魔技巧品を与え、さらに魔獣相手に果敢に戦う上官。
いったい誰なのか、と思っていたら、そういえば先ほどヒルディスが魔獣退治の旅に同行する聖騎士の名を挙げていた。
「もしかしてレンの上官って、フリートヘルム・フォン・ファールハイト卿?」
「ええ、そうです。よくご存じでしたね」
「いえ、ヒルディスが同行する聖騎士隊について、話していたの。それで偶然話を聞いていて」
「そうだったのですね」
レンはファールハイト卿を心の奥底から尊敬しているらしく、彼がいればヒルディスの身も安全だろう、なんて話をしていた。
「ヴィオラさんも、守ってもらえるようにお話ししておきますので」
「わたしは平気よ。自分の身は自分で守れるから」
「しかし」
「大丈夫! 攻撃系の魔法を使えるの。それで自分の身を守ることくらいはできるから」
口が裂けても、レンに守ってだなんて言えない。
それを口にしてしまったら、彼は自分の命を賭けてまでも、約束を守ろうとするだろうから。
「レンも、ヒルディスのことを守ってね」
「もちろん、そのつもりですが……」
「どうしたの?」
歯切れの悪い物言いである。上官にでも聞かれたら、大目玉を食らうだろう。
レンは真剣な眼差しを向け、予想外なことを言ってきた。
「私は、ヴィオラさんも守りたいです」
「わたしはいいわよ!」
とっさに否定する言葉をかけてしまい、ハッと我に返る。
気まずい空気が流れた。
「あの、嫌ってわけではなくて、聖騎士達の任務は大聖女であるヒルディスを守ることだから」
「ええ、わかっています」
その言葉を聞いて、ひとまず安堵する。
少し話しすぎてしまった。
五分以上経っている気がするが、管理者が気を遣ってくれているのだろう。
まだまだ話していたかったが、この辺りで切り上げなくては。
「旅する中で、こうして話すことはできないだろうけれど、わたしはいつでもあなたを思っているわ」
「はい……」
小窓の格子越しに手と手を合わせ、お互いの無事を祈り合ったのだった。




