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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第一章 嫉の炎、妬の刃
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大精霊ボルゾイ

 突然、守護獣が現れた上に、わたしにも祝福があると言われ、思わず頭を抱えてしまう。


「わからない、わからない! なんなのいったい!?」


 動転するわたしとは異なり、ボルゾイなんとか、と名乗る謎の生き物は冷静な様子で話し始める。


『ひとまずあなた様は、火刑でお亡くなりになったことにより、〝地獄の炎インフェルノ〟という、すべてを焼き尽くす魔法を習得されたようです』

「そんなの使えても、わたしはもう死んでいるし」

『生き返りますわ』

「は?」

『ですから、これからあなた様の人生が巻き戻って、生き返ります』

「な、なんで!?」

『そういう祝福ですの』


 それで「わかった!」と納得できたらいいのに、無駄に理屈っぽい部分が納得しない。


「だったら最初から、死なないと祝福は現れなかったってこと?」

『ええ、そのようです』


 この世界に生を受けた人々は、八歳の誕生日になると聖教会で祝福について調べる。

 そこで祝福もなければ、守護獣の存在も確認できないと言われた私の絶望なんて、神様にとっては知ったこっちゃない話なのだろう。


「だったら、八歳のときの鑑定式アナライズ・セレモニーまで巻き戻して!」


 祝福がない、守護獣もいないとわたしを馬鹿にした人達すべてに、本当は祝福があったと知らしめたい。

 そう思ったのだが、大精霊ボルゾイは申し訳なさそうな顔で言った。


『どの時間軸まで人生が巻き戻るか、わからないようです』

「な、なんで!?」

『死んだあと、生き返るだけでも奇跡のような祝福ですので』


 生き返ることができると聞いて、てっきり好きな時代まで時間を巻き戻せると思っていた。

 人生の汚点からやり直さないと意味がないというのに……。


『あと、この祝福は理不尽な状況で命を奪われ、あなた様に復讐心がある場合に限り、自動オートで発動しますの』

「だったら幸せの中で息絶えたら、そのまま死んでしまうってこと?」

『ええ、そのとおりです』


 わたしの祝福は【因果応報=雌犬の仕返し】という言葉のとおり、死したあとやり返したいという強い思いがあれば死因を能力として習得し、人生のやり直すことができるようだ。


『祝福の特性上、外部の者に祝福について打ち明けることはできません』

「もしかして、他人が調べることもできないってこと?」

『はい』

「せっかく祝福を習得したというのに、ないものとして扱われるの?」

『おそらく』


 なんてことなのか。

 わたしを馬鹿にした人達に、本当は祝福を持っているのだとひけらかしたかったのに。


『その、もう一点お伝えしたいことがありまして、わたくしは大精霊という特性上、常人には姿が見えないようになっておりまして』

「あなたも、普通の人にはいない存在ものとして扱われるの!?」

『はい。ですので、あなた様の傍に常に付き添っておりますが、わたくしに喋りかけたさいは端から見たら独り言のように見てしまいますので、お気をつけくださいませ』

「な、なんなの……!」


 結局、祝福があっても、守護獣がいても、他の人にはわからないのだ。


「こんな祝福、意味があるの!?」

『ありますとも。あなた様は〝地獄の炎インフェルノ〟を習得されました。炎に耐性ができましたので、火刑されてもその身が燃えることはありません』

「同じ死因で死ぬことはないってこと?」

『ええ、そうなんです!』


 それは朗報である。

 火刑の苦しみは二度と味わいたくなかった。


『それから、〝地獄の炎インフェルノ〟を使って思う存分、復讐ができるわけですよ』


 大精霊ボルゾイは朗らかな顔をして、物騒なことを言ってくる。


『〝地獄の炎インフェルノ〟は火刑と同じ、死ぬまで消えない炎ですので、確実にお相手の命を奪うことが可能ですわ』


 もうすでにナイト様……いいや、裏切り者のクソ男ナイトへの愛情なんて消失している。

 罪をふっかけられたとき、殺意も抱いた。


「でも、相手は王族だし、殺したらまた騎士に捕まって、公開処刑されるんじゃないの?」

『〝地獄の炎インフェルノ〟はすべてを焼き尽くす魔法ですので、場所と状況さえ間違わなければ、証拠は残らないのでは?』


 たしかに、遺体がなければ行方不明として処理されるだろう。

 けれども上手くできるものか。


「でも、冷静になってみたら、殺したいほどの恨みはない気がする」

『いけません! 復讐の炎はめらめらに燃やしていただかないと、このあとの生き返りに支障がでますわ!』


 そういえば、強い復讐心を持って生き返る仕組みだと言っていたような。


「まあでも、社会的な死はしっかり味わってほしい気がする」

『社会的な死?』

「とんでもないクズ男だと暴露するとか、自分の罪を押しつけるとか」


 ヒルディスの指輪の件がそうだ。

 もともとナイトが所持していた指輪を婚約指輪として受け取っただけなのに、問答無用で盗人扱いされてしまった。

 諸悪の根源はわたしではなく、あのクズ男なのだ。

 考えていたら、だんだん苛ついてくる。


「赦せない、絶対に赦せない……!」 

『ええ、ええ、その調子ですわ!!』


 全身が光に包まれる。

 どうやら人生の時間を巻き戻すという祝福が発動されたらしい。


『それでは、二回目の人生、がんボルゾイ! ですわ~~』

「は?」


 おかしな言葉を聞いているうちに、意識が遠のいていった。

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