表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第四章 強かな者ほど、欲を渇望す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/70

潜入!

 暗い部屋に閉じ込めて、いったい何をするつもりなのか。

 ここにはわたしの他に、二名の修道女がいた。

 彼女らは深く寝入っているのか、異変になんて気付くわけもなく。

 こんな状況なんて、嫌な予感しかしない。

 正直、何が起こるのか知るのは恐ろしい。

 けれども何もしなければ、わたしは前に進めない。

 大丈夫、きっと大丈夫。

 そう自らに言い聞かせた。

 暗い部屋に放置されて一時間くらい経っただろうか。

 たびたび眠りそうになっていたものの、そのたびに大精霊ボルゾイが起こしてくれた。

 もしや本当に寝かしてくれただけなのでは?

 明日、変な姿勢で眠った結果、体が悲鳴を上げている修道女が三名発生するだけだろうか?

 なんて考えていたら、食堂の扉が開かれる。

 薄目で確認する。入ってきたのは――シスター・レーテルだった。


「皆、よく眠っているようですね」


 確認するようにそう言ってから、わたしのもとへ接近すると、肩を揺らし始めた。

 あまりにも激しくするので文句を言いそうになるも、ぐっと我慢する。


「意識はない、みたいですね。独り言が多かったので、心配していましたが」


 独り言というのは、大精霊ボルゾイとの会話だろう。

 シスター・レーテルがいないと思って油断していた。まさか会話を聞かれていたなんて。

 ただ、寝ぼけた状態での会話だったので、寝言に聞こえなくもなかったのだろう。

 シスター・レーテルはそれ以上疑うことはせず、他の修道女も同様にきちんと寝ているか確認していた。

 それにしても、どこで監視していたというのか。

 神出鬼没な上に、会話も盗み聞きできるなんて。


「入りなさい」


 その言葉を聞いて、内心ギョッとする。

 いったい誰がやってくるのか。

 と考えていたら、カチャカチャカチャ、という獣の爪が床を鳴らすような音が聞こえてきた。

 大精霊ボルゾイも、硬い床の上を歩くときにこんな音がする。

 けれども聞こえてきたのはそれよりも大きくて……。

 大精霊ボルゾイよりも大きな獣が、接近しているようだ。

 獣臭さなどはないが、気配を感じる。

 息づかいまで聞こえてきた。

 胸がばくんばくんと嫌な感じに脈打つ。

 次の瞬間――冷たい鼻先が近づいてきた。

 スンスンスン、という匂いを嗅ぐような息づかいも聞こえてくる。


「こら! 匂いを嗅いでいないで、早く運びなさいな」


 シスター・レーテルの言葉に『ぐおお』という鳴き声が返ってくる。

 いったいどんな獣なのか。

 薄目で確認したら、視界いっぱいに茶色の毛並みが広がっていた。

 鋭い牙に、大きな鼻先、丸い耳につぶらな瞳――熊だった。

 こんなところに熊!? と思ったものの、きっとシスター・レーテルの守護獣なのだろう。

 そんな熊はわたしの首根っこを咥えると、ズルズルと引きずり始めた。

 服が、踵が、わたし自身が擦れる。

 辛かったが、我慢するしかない。

 シスター・レーテルが熊を先導していたようで、行き着いた先は地下へ繋がる扉。

 まさか階段も引きずる気では!? なんて思ったが、昇降機があったようでホッと胸をなで下ろす。

 昇降機を下りたあとから、再度熊に引きずられ、行き着いた部屋にラルフ・ガイツがいたようだ。

 薄目で見てみると、祭壇に酒瓶がたくさん捧げられているような、怪しい部屋だった。


「連れてまいりました」

「おや、彼女は予定になかったのですが」

「ここ最近、シスター・エマの失踪について、嗅ぎ回っていたようで。処分するならば早いほうがいいと思いまして」

「なるほど。普通に過ごしているように思えたが、君の祝福〝偵察の目リコン・アイ〟で監視していたわけですか」

「ええ」


 どうやら彼女は、他人を見張るような祝福を所持していたらしい。

 何かやらかしたら、決まってシスター・レーテルが現れるわけだ。


「では、処理を行いましょうか。発注が次々と届いていて、血がすぐになくなるんです」


 いったい何をするというのか。

 処置や血という単語からは、物騒なこと以外想像できないのだが。


「シスター・レーテルは次の修道女を連れてきてください」

「承知しました」


 シスター・レーテルはいなくなりようで、扉がばたんと閉められた音だけが聞こえた。

 残されたラルフ・ガイツは、誰かに語りかけるように喋り始める。


「パッパード救貧院の院長に処置を頼みたいところですが、あの子が空腹で辛そうでね。そのままこの娘を捧げようではありませんか」


 パッパード救貧院の院長? あの子?

 またしても、理解しがたい単語が出てくる。


「――いでよ、血塗れ狼ガルム!!」


 生臭い臭いと、獣の激しい息づかいが聞こえてくる。


『グルルルルル!!!!』

「さあ、ガルム、その娘を食らうのです!!」


 パッと瞼を開くと、目の前に血まみれの巨大な狼が迫っていることに気付いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ