表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第四章 強かな者ほど、欲を渇望す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/121

修道女たちについて

 今度は畑の雑草を抜きつつ、ロミーと話を続ける。


「ここには何人くらいの修道女がいるの?」

「うーーん、入れ替わりが激しいからよくわかんないんだけれど、二十人くらいかな?」


 さっきも聞いたがロミーはここへやってきて三ヶ月、エマが二ヶ月だという。


「どうしてそんなに続かないの? ここが不気味で、何もなさ過ぎるっているのはよくわかるんだけれど」


 もともと、修道院というのは衣食住が保証されるだけの職場ではない。

 清貧を美徳とし、神に人生を捧げ、奉仕活動に生きる場である。

 皆わかっていて来ているはずなのに、どうして続かないというのか。


「化け物の噂が怖いからってだけではないでしょう?」

「うーーん、その辺についてはよくわからないんだけれど」


 なんでも皆、前触れもなく突然いなくなるという。


「みんな、それぞれ事情を抱えてやってきているから、ここで暮らしているうちに、不満が出てくるのかも?」


 夫が亡くなって息子の嫁に家を追いだされた者、借金を負って返済しきれずに逃げてきた者、実家が没落し居場所を奪われた者――修道女になる理由はさまざまだという。


「シスター・イーダが言っていたんだけれど、シスター・エマは大聖女ヒルディス様の婚約者であるナイト殿下に色目を使ったのを糾弾されて、自分の婚約が破談になって。そのあと居場所がなくなって、ここに来たんだって」

「そうなの?」


 まさかエマもナイトの野郎と関わりがあったなんて。

 色目を使ったというが、きっとそれだけじゃないだろう。おそらく深い関係にあったに違いない。

 もしかして一度目の人生でエマと別れたあと、わたしと出会ったのだろうか?

 ナイトの野郎が夜しかわたしと会わなかったのは、ヒルディスにエマとの浮気がバレてしまったので、対策を打っていたのかもしれない。


「それにしても、エマはヒルディスに心酔している取り巻きだと思っていたのに、婚約者に手を出すなんて信じられないわ」

「恋というのは自分を見失ってしまうものなのですって。よくわからないけれど、シスター・イーダが言っていたわ」

「自分を見失う……。たしかに、そうかもしれないわね」


 結婚相手を探すためにやってきた夜会で、わたしはナイトの野郎と出会った。

 相手が王族だとわかっていたのに恋に溺れ、本当に結婚できるものだと信じて疑わなかったのである。

 恋に浮かれ、溺れ、支配されたわたしは、死刑を宣告されるまで冷静になれなかったのだ。

 たった一度の恋で人生を棒に振ってしまうなんて、恐ろしいとしか言いようがない。

 エマもまさか、ナイトの野郎との恋が身を滅ぼすような行為に繋がるとは、夢にも思っていなかったのだろう。


「みんな、いろんな事情を抱えて修道女になったけれど、自分から進んでなりたいと思ってやってきた人はいないんだって」


 わたしという例外はあるものの、ここにやってくる人達のほとんどはワケアリで修道女となったのだろう。

 本来であれば、家族の庇護ひごを受け、幸せに暮らしていたはずの人達なのだ。

 そんな人生が一変して、修道院で奉仕活動をしなければならなくなるのだ。

 この暮らしが永遠に続くとなれば、逃げだしたくもなるのだろう。


「逃げだした人はどこに行くのかしら?」

「わかんない。そういう外部の情報は入ってこないようになっているから」

「まあ、そうよね」


 王都の大聖堂で奉仕活動をしたいと言っても、移動させてもらえるわけではないという。

 そのため、みんな逃げだしてしまうそうだ。


「ここ一番長くいるのが、ここの修道女のリーダー格の、シスター・レーテルなんだよ。たしか、三年くらいいるのかな」

「へえ」

「ガイツ院長の信頼も厚くて、ゆくゆくは大聖堂で、大聖女ヒルディス様のお付きになるかもしれないんだって」


 修道士の最大の出世が枢機卿であることに対し、修道女の最大の出世が大聖女のお付きだなんて、なんとも世知辛い話である。


「あたしもいつか、大聖女ヒルディス様に会ってみたいなあ」

「そうね。会えたらいいわね」


 そんな言葉をかけると、ロミーは驚いた顔でわたしを見つめる。


「どうしたの?」

「今まで、夢みたいなことを言ったら、必ず否定されてきたから、そんなふうに言ってもらえるとは思わなくて」

「ごめんなさい。無責任だったかしら?」

「ううん、嬉しい! ありがとう!」


 恵まれない環境で育っただろうに、曲がらずに育って、ロミーはなんていい子なのか。

 わたしなんてシュヴァーベン公爵家で不自由なく育ったのにこれである。

 彼女を見習って、明るく元気で素直にいようと思った。


「ロミー、これから頑張りましょうね」

「うん、ヴィオラ、よろしく!」


 元気いっぱい明るいロミーと握手を交わす。


「あなたと同室だったらよかったわ。わたし、エマとは子どものときに大げんかをしていらい、不仲なのよ」

「そうだったんだ。でも、シスター・エマはシスター・イーダとも合わないかも」

「言われてみれば、エマは誰とも合わないかも」


 というか、エマは誰とも合わないだろう。

 ヒルディスみたいな自分が絶対的に尊敬し、認めていない相手以外とはなれ合わない性分に違いない。

 まあ、なるべくエマを怒らせないようにして、上手くやるしかないのだ。

 彼女も、ここが続くとは思えないから、短い付き合いになるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ