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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第三章 色恋と、欲望の狭間で

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大ミサ当日

 ついに迎えた大ミサ当日。

 執事に馬車を用意するようお願いしたのだが、申し訳なさそうな様子で言葉が返ってきた。


「その、ヴィオラお嬢様、申し訳ありません。本日は馬車がすべて出払っておりまして」


 シュヴァーベン公爵と母、シュヴァーベン公爵夫人とヒルディス。

 二台とも出払っていて、戻ってくるのは大ミサが終わったあとだという。


「他の馬車を呼ぶことはできないの?」

「え、ええ。今日は大ミサがあり、急に呼ぶことは困難かと」


 シュヴァーベン公爵家ほどの名家が、馬車を二台しか所持していないなんて、と思う。


「どうされますか?」

「どうするもこうするも、歩いて行くしかないでしょう」


 幸いにも、シュヴァーベン公爵邸から大聖堂まで、子どもの足でも三十分くらいで到着できる。

 今から出発すれば、余裕で間に合うだろう。


「では、供をお付けしましょうか?」

「必要ないわ。リナがいるもの」


 背後にいたリナと大精霊ボルゾイを振り返り、これからの予定を発表する。


「歩いて大聖堂まで行くわよ」

「承知致しました」


 大精霊ボルゾイも、わかったとばかりに片目をぱちんと閉じていた。


 そんなわけで、わたし達はシュヴァーベン公爵邸を出発したのだった。

 正門から出ようとしたらだだっ広い庭を通り抜ける必要があるのだが、裏門からだとすぐに敷地の外へ出ることができる。

 さらに大聖堂への近道にもなるのだ。

  十分ほどシュヴァーベン邸の塀を沿うように歩くと、中央街に出てくる。

 社交期真っ只中だからか、人通りが多い。

 商人や、旅行客らしき人達の姿も見られた。

 そんな人達の足は、大聖堂へと向かっている。

 皆、大聖女であるヒルディスの福音を聞きに行っているのだろう。

 中央街を歩いていたら、ふと気付く。


「ねえリナ、〝レディ・マレット〟のお店に行列がないわ!!」


 王都で大人気のパティスリー〝レディ・マレット〟のお店。

 いつもは店舗をぐるりと囲むくらいの長蛇の列ができているのに、今日はそれがない。


「皆、大聖堂へ向かっているからでしょうか?」

「そうかもしれないわ。あそこのバター・ガレットがおいしいのよ! 焼きたてを買って食べましょう!」


 まだ大ミサの開始まで時間がある。少々寄り道しても問題ないだろう。

 リナの手を握り、お店まで走って行った。

 赤レンガに緑の屋根が特徴的な〝レディ・マレット〟のお店は、持ち帰り用の焼き菓子と、食べ歩き用のできたての二種類が提供されている。


「リナ、持ち帰り用も買いましょう!」

「承知しました」


 チョコレートタルトにカスタードパイをリナと二人分購入し、屋敷へ送ってもらう。


「帰ってから、二人でお茶会をしましょう」

「よろしいのですか?」

「もちろん! シュヴァーベン公爵のお金だし!」


 こういうところで貴族は、ツケ払いにしてまとめて勘定するのだ。

 あとはレンにお土産として渡す蜂蜜キャンディを購入する。


「それから、バター・ガレットを二つ!」


 今から焼くというので、十五分ほど待つように言われた。

 店の端に長椅子があるので、そこで待たせていただこう。

 ぼんやり窓の外の景色を眺めていたら、見知った顔を発見する。

 ずんぐりとした恰幅のいい体に、余裕ぶっていて偉そうな雰囲気を振りまく人物は――大商人エドウィン・フェレライ。


「げ!」

「どうかされました?」

「いいえ、なんでもないの」


 まさかこんなところで会うなんて。

 二回目の人生で、彼は浮気を繰り返し、マルティナ夫人に殺害されてしまった。

 その浮気癖は以前からあるようで、今日もマルティナ夫人ではない女性を連れている。

 あろうことか、エドウィン・フェレライは浮気相手の女性とイチャつきながら、〝レディ・マレット〟のお店に入ってきた。


「うわあ……」

「お知り合いですか?」

「まあ、そんなところ」


 もちろん、エドウィン・フェレライは子どもであるわたし達に見向きもせず、店内を物色していた。


「きゃあ、おいしそう!」

「店内にある商品、すべて買うことができるぞ」

「素敵~!」


 どこが素敵だ、食べきれるわけがないだろうと言いたくなる。

 バターガレットが焼き上がると、浮気相手の女性が声をあげる。


「あたし、あれがいいわ! あれが欲しい!」

「わかった。おい店員、それを寄越せ」

「承知いたしました。今から焼きますので、十五分ほどお待ちください」

「は? そんなに待てるわけないだろうが。俺達は今から、大聖女様の大ミサに参加しなければならないんだ」

「しかし、こちらの商品はお待ちいただいているお客様の物でして」


 ここで初めて、エドウィン・フェレライはわたし達を振り返る。


「客? ガキ共じゃないか。あんな奴らは待たせていればいいんだよ!」


 そう言ってエドウィン・フェレライは店員に金貨を投げつけ、バター・ガレットを奪うように取る。


「ほら!」

「やったあ!」


 エドウィン・フェレライと浮気相手の女性は、バター・ガレットを片手に、出て行ってしまった。

 すぐに店員がわたし達のもとへとやってきて、謝罪する。


「お客様、申し訳ありません。その、焼き上がったバター・ガレットですが――」

「いいのよ、時間には余裕があるから、また焼いてくれる?」

「は、はい! ありがとうございます」


 リナにはごめんね、と一言謝っておく。

 悪いのはエドウィン・フェレライだが。

 それにしても、三回目の人生で彼に会うなんて、ついてないとしか言いようがない。

 うんざりしてしまった。

 バター・ガレットができあがるのを待っていたら、再度見知った顔が〝レディ・マレット〟のお店にやってくる。

 気が強そうな女性――エドウィン・フェレライの妻であるマルティナ夫人だ。


「ここに夫がいると聞いたが、いないではないか!!」


 浮気調査でもしていたのだろうか。マルティナ夫人は探偵らしき男に文句を言っている。

 ここで、ピンと閃いた。

 

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