表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第三章 色恋と、欲望の狭間で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/54

友達のために

 レンと別れたあと、ヒルディスと廊下で鉢合わせとなった。

 珍しく侍女もおらず単独である。

 これはチャンスだと思って、エマの件を物申すことにした。


「ねえ、ヒルディス」

「なんですか?」


 無視されると思いきや、言葉が返ってきたので意外に思う。

 と、びっくりしている場合ではなかった。本題へ移らなければ。


「あなたのお友達、エマのことなんだけれど、最近大聖堂に誘われないから、寂しいみたいなの」


 レンを裏でいじめている、なんて密告したらあとが怖いので、かわいらしい理由にして言ってみた。


「エマが、あなたにそんなことを?」

「いえいえ、盗み聞きよ。本人から直接聞いたわけではないの」

「あなた、堂々とそんなことをして……」

「ごめんなさいね。聞く気はなかったんだけれど、偶然耳にしてしまったの」


 よかったら大聖堂へはエマを誘ってほしい。

 そんなことを伝えると、ヒルディスは目を伏せ、小さなため息を吐く。


「どうしたの? 実は仲よくないとか?」

「いいえ、あの子はお喋りなので、大聖堂への同行に向かないと思っていたから」


 だからエマは指名せずに、大人しいレンを同行させていたわけか、と理由に納得がいく。


「わかりました。今度からエマを誘いますので」

「ありがとう、ヒルディス!!」


 これでレンがエマから反感を買うこともなくなるだろう。

 ヒルディスに盛大に感謝したのだった。


 ◇◇◇


 それからわたしとレンのささやかな交流が始まった。

 部屋で会うとレンが気にするので、彼と出会った裏庭の窓辺に敷物を広げて過ごしている。

 そこで、お茶とお菓子を囲んでささやかなお茶会を開いているのだ。

 レンのスケジュールはお昼前にやってきてヒルディスの取り巻き達とお茶会を開き、お昼は家に帰るか休憩室で過ごし、午後からは大聖堂に同行するように指名されたらついていく。指名されなければそのまま帰宅。

 という流れらしい。

 三回目の人生で初めてヒルディスが取り巻きを引き連れる様子を見たときは、お茶会の帰りだったそうだ。


「最近は他の方を指名されるので、安心して過ごせています」

「よかったわ」


 ヒルディスはわたしの願いを叶え、レンに同行を頼むことを止めたようだ。


「ここに通うのもあと少しになります」


 レンは寂しげな様子で言う。


「お父様の仕事についてきて、会うことはできないの?」

「関係者以外の立ち入りは禁じられているでしょうから」

「そうなの。つまらなくなるわね」

「はい」


 せっかく仲よくなれたのに、会えなくなるなんて……。


「そうだわ。お父様にお願いしてみようかしら?」

「シュヴァーベン公爵に、ですか?」

「ええ!」


 かわいいかわいい愛人の子の、ささやかなお願いを叶えてくれないだろうか。

 子どもの頃は怖くて、一度もお願いなんてしたことはなかったのだが。


「無理だったら、文通でもしましょうよ」

「それは、いいですね」

「でしょう?」


 ちょうど木に一羽の鳩が停まっているのに気付く。


「ねえ、レン、あの鳩を捕まえて、伝書鳩にしましょう!」

「え!?」


 跳び上がって捕まえようとしたら、鳩は驚き、飛び立ってしまう。


「待ちなさい、あなたはわたし達の伝書鳩になるのよ!」


 そう叫んで追いかけると、レンもあとに続く。

 あとから何をやっているんだ、とおかしくなって、レンと大笑いしてしまった。


 その日の夜、母を通じて、これからもレンと遊んでいいかシュヴァーベン公爵に聞いてくれないかお願いしてみる。


「面倒なことを頼まないでよ」

「お願い! いい子にしているから!」

「はーーーーー」


 鬱陶うっとうしそうな態度を見せつつも、最終的に「わかったわ」なんて言ってくれた。

 本当にお願いしてくれるとは思わなかったが、何も言わないよりはマシだ。

 これで叶わなかったら、自分でシュヴァーベン公爵の元に行き、交渉してみよう。


 それから数日後――レンとのことで話がある、という呼び出しを受けた。

 侍女が「ご案内します」と言ってわたしを連れていったのは、シュヴァーベン公爵夫人の部屋だった。


「あら?」


 レンの件と聞いて、シュヴァーベン公爵から呼びだされたものだと思っていた。

 まさか、シュヴァーベン公爵から言付けを頼まれていたのだろうか。

 首を傾げつつ、中へと入る。

 久しぶりに会ったシュヴァーベン公爵夫人は痩せこけていて、顔色も青白く、今にも倒れてしまいそうな雰囲気があった。

 そんなシュヴァーベン公爵夫人は、親の敵のような眼差しで睨んできた。

 いったいどういうことなのか。

 なんて考えていたら、シュヴァーベン公爵夫人はツカツカと接近し――。


「この、恥知らずが!!」


 そう叫んで、わたしの頬を思いっきり叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ