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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第二章 暴く者、食らう者
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母の行方

昨日、18話食堂へ、19話母を探してを、それぞれ0時と12時に公開するつもりが、0時に2話同時公開していたようです。18話を飛ばして読んでいらっしゃる方がいましたら、先に読んでいただけたら幸いです。

 ロニおじさんはまだいろいろ知っているような様子でいる。

 けれどもいくら聞いても答えようとしない。


「どうしても知りたいんだったら――」


 そう言って手を差しだしてくる。

 情報料を渡せと言いたいのだろう。

 この先、何があるかわからないので、なるべく節約したいのに……。

 母を探す時間がもったいないと思い、お金を支払う。

 するとロニおじさんはあっさり答えてくれた。


「お前の母親は、エドウィン・フェレライの部下が連れていった」

「エドウィン・フェレライですって!?」


 そういえば、と思い出す。

 彼はアパートメントから帰るさいに、引っかかる言葉を口にした。


 ――まあ、いい。お前はいずれ、この俺を頼ることになるだろうから。


 あれは母の身柄を押さえているので、じきにわたしのほうからやってくるだろう、という意味だったのだ。

 あの男、なんて狡猾こうかつな奴なのか。


「まあ、エドウィン・フェレライは聖教会での慈善活動に力を入れていることでも有名だ。母親のことも、活動の一環で連れていったのかもしれん」


 そんなわけあるか、と思ってしまう。

 そもそも、一介の商人である彼がなぜ、聖教会と関係を結んでいるのか。裁判官を担っていた点も謎である。

 きっと何か裏で繋がりがあるのだろうが……。

 クリーンな関係とはとても思えなかった。

 まあ、いい。

 母の所在は掴めたのだ。

 あとはエドウィン・フェレライと交渉して――上手くいくかはわからないが、母を引き取らなくては。


 日が暮れる前に帰り、おかみさんや旦那さんと一緒に仕込み作業をする。

 ナイフでジャガイモの皮を剥いていたら、おかみさんから上手だと褒めてもらえた。


「驚いた。あんた、それだけ早くできるんだったら、賃金をもっと出さなきゃいけないね」

「ジャガイモばかり食べていた時期があったの。上手く見えるのはこれだけよ」

「いやいや、うちの店はジャガイモ料理ばかりだから、大助かりだよ」


 おかみさんは途中から店内の清掃を始める。

 旦那さんはパンをこね始めた。

 わたしはスープの鍋が噴きこぼれないように見守りつつ、明日の朝に使うジャガイモの皮をひたすら剥いていった。


 途中で夕食の時間となる。

 まかないは肉団子のスープと焼きたてパン。

 夜は客に出す料理と同じメニューのようだ。

 おいしくって、ぺろりと完食してしまった。


 そんなこんなで、夜の営業が開始となる。

 夜は朝ほどではないが、そこそこ盛況していた。

 注文を取って料理を盛り付けて配膳する。

 まだ慣れないので、目が回るほど忙しかった。

 アイスコレッタ卿の姿はない。きっと夜勤なので、やってくるとしたら明日の朝なのだろう。

 三時間ほどで店じまいとなるものの、営業時間内に間に合わなかった人向けに持ち帰り用の料理を販売するようだ。

 おかみさんと一緒に店内を掃除し、仕込みの追い上げを行う。

 その間も、仕事終わりの暗黒騎士達がちょこちょこやってきて、持ち帰り用の料理を購入していった。


「ヴィオラ、今日はもういいから、ゆっくりお休みよ」

「ええ、ありがとう……」


 お湯をもらい、一階にある洗面所で体を拭かせてもらった。

 お風呂に入りたい気持ちはあったものの、ここから少し距離があるし、疲れていて出る気になれなかった。

 アパートメントにはお風呂があって、いつでも入り放題だったな、なんて思う。

 いやいや、もうナイトの野郎に頼って暮らすことはしたくない。

 不便だけれど、ここで頑張らなければ。

 部屋に戻ると、布団に倒れ込み、意識を失うようにして眠ったのだった。


 ◇◇◇


 翌日は早起きして公衆浴場へ出かける。

 早朝から営業しているのでありがたい。

 湯を張ったばかりなので、気持ちよく入浴できる。

 誰もいない広い浴槽に入り、ぐーーっと手足を伸ばした。


「はあ、生き返る~~」


 わたしがお風呂に浸かる様子を、大精霊ボルゾイは不思議そうに眺めていた。

 ゆっくりしている場合ではない。もうすぐ朝の営業が始まるのだ。

 急いで戻り、朝の仕込みを手伝う。

 開店と共に、仕事終わりの暗黒騎士達が押しかけてきたのだった。


 アイスコレッタ卿は昨日よりも少し遅れた時間にやってきた。


「あら、アイスコレッタ卿、いらっしゃい」


 他の人は私服だが、アイスコレッタ卿は板金鎧を纏った姿でいるので、やってきたらすぐわかる。


 おかみさんもやってきて、挨拶を交わしていた。


「ヴィオラ、もうお客さんはそこまで来ないから、アイスコレッタさんと一緒に朝食をお食べよ」

「いいの?」

「ああ、もちろんだ」


 お言葉に甘えて、端っこの席でアイスコレッタ卿と朝食を囲むこととなった。

 朝の定食は、骨付き肉のスープと焼きたてパン。

 骨付き肉はナイフを軽く入れただけでほろりと外れ、口の中でとろける。

 絶品のスープだった。

 朝から肉料理だなんて、と思ったものの、働いた体は肉を欲しているのだろう。

 昨日はパンを一つしか食べられなかったのに、今日は二個も食べることができた。

 食事をしつつ、アイスコレッタ卿に昨日あったことを軽く掻い摘まんで報告する。


「というわけで、母の所在が掴めそうなの」

「そうだったのですね」


 エドウィン・フェレライに借金をして連れていかれた、ということまでは言えなかった。

 アイスコレッタ卿に心配をかけさせるわけにはいかないから。


「何か協力できることがありましたら、なんでも言ってくださいね」

「ええ、ありがとう」


 彼はそう言ってくれたものの、母との問題に関しては誰にも頼らないようにしないと。

 そんなことを思いつつ、食後の紅茶を飲み干したのだった。

 

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