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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第二章 暴く者、食らう者
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二度目の出会い

 まさかこんなところで会うなんて! 

 嬉しくなって駆け寄る。


「アイスコレッタ卿!!」

『あなた様、お待ちになって!!』


 大精霊ボルゾイの制止するような声が聞こえていたものの、お構いなしに突っ走る。

 こんなところでアイスコレッタ卿に偶然出会うなんて、二度とないかもしれないから。


「ねえどうしたの? 仕事帰り?」


 アイスコレッタ卿は微動だにせず、わたしを見下ろしていた。


「このあと暇? 一緒に朝市で食事しない?」

「どなたですか?」


 酷く冷たい声に、舞い上がっていた気持ちがスーーーっと冷えていく。

 そんなわたしに追いついた大精霊ボルゾイが、慌てた様子で声をかけてきた。


『その彼は、あのときの〝彼〟とは違いますわ!』


 そうだ、そうだった。

 火刑に遭った日から十日間遡っているので、わたしに関する記憶があるわけがなかったのである。


 それにしても、一回目の人生と声色が違いすぎないか。

 あんなに冷たい声が出せるなんて。

 一度目の人生のときはきっと、冤罪で処刑されるわたしを哀れんで、優しく接してくれていたのかもいれない。

 それはそうと、生き返りのルールを失念し、彼を驚かせてしまった。

 突然見ず知らずの女から話しかけられたからか、アイスコレッタ卿は銅像のように動けなくなってしまう。

 わたしは彼にとって完全に不審者だろう。

 通行人の視線もグサグサ突き刺さっていた。

 アイスコレッタ卿が騎士隊に通報したら捕まってしまうかもしれない。

 なんとか誤魔化そう。そう思って名乗ってみた。


「ほら、わたしよ! シュヴァーベン公爵の庶子の、ヴィオラ・ドライス!」


 久しぶりに会ったであろう、知り合いを装う作戦である。

 シュヴァーベン公爵の名前を使ったら、怪しい人物だとは思わないだろう。

 こんなときだけ利用してごめんなさい、とシュヴァーベン公爵に心の中へ謝っておく。


「ヴィオラ……ドライス?」

「ええ、そう! 覚えていない?」


 ここでアイスコレッタ卿が「人違いです」と言ってくれたら、暗黒騎士違いだったわ! としらばっくれることができる。

 我ながら、いい作戦だと思った。


「ヴィオラ……ヴィオラ……もしや、ヴィオラ・フォン・シュヴァーベン?」

「あ~~、ええ、そうね。そう、名乗っていた頃もあったわ」


 屋敷にいた頃、わたしは庶子や非嫡出子なんて言葉を知らなかった。

 ヒルディスと同じシュヴァーベン公爵家の娘だと信じ、母が教えてくれたように、〝ヴィオラ・フォン・シュヴァーベン〟と名乗っていた時代があったのである。

 けれどもどうしてアイスコレッタ卿がそれを知っているのか?

 疑問に思っていたら、彼はさらに想定外のことを口にする。


「ああ、思い出しました。本当に久しいですね!」


 え~~~~~~~~!?!? と大声で叫ばなかった私を、誰か褒めてほしい。

 まさかの知り合いだった?

 本当に?

 どこでどう会っていたというのか。

 知り合いのていで話しかけた以上、アイスコレッタ卿に聞くわけにもいかず……。


「それにしても、よくわかりましたね。あの当時の私とは、姿も名も変わっているのですが」

「あ~~~~~、そうねえ……」

「どこで気付いたのですか?」

『魔力ですわ』

「ああ、そう、魔力! 魔力でわかったの!」

「そうだったのですね」


 助け船を出してくれた大精霊ボルゾイに、心の奥底から感謝する。

 おかげでなんとか切り抜けることができた。


「そちらの守護獣から聞いたのですね」

「ええ、そうそう! この子から――え!?」


 アイスコレッタ卿は大精霊ボルゾイをしっかり目視していた。


「あ、あなた、この子のことが見えるの?」

「はい。気配から推測するに、その守護獣は大精霊ですよね? 以前に会ったときは連れていなかった気がしたのですが」

「え、ええ、そうなの。ここ最近、出会って……でも、わたしのことは幼少期から見守っていたみたいで」


 祝福同様、守護獣も生まれたときから傍にいるパターンが多いが、ある程度生きてから出会うパターンもあると聞いたことがある。

 そのため子どもの頃のわたしは道行く猫や、空を飛ぶ鳥、川を泳ぐ魚にまで「わたしの守護獣でしょう?」なんて聞いて回っていたのを思い出す。


「それはそうとこの子、普通の人には見えないんだけれど」

「私の瞳は〝魔眼まがん〟ですので、見えるのかもしれません」

「魔眼って?」

「簡単に言えば、人よりよく見える、とでも説明すればよいのか」


 素早く動く魔物がゆっくり動いて見えたり、戦う相手の弱点がわかったり、見えることに特化された特殊な眼だという。


「それがあなたの祝福なの?」

「いいえ、これは父方の一族が持つ、固有能力みたいです」

「ふうん、なんだか便利そうね」

「呪いみたいで恐ろしい、とよく言われるのですが」

「そんなことないわ。きっとあなたの能力が羨ましくて、そんなことを言ってしまうのよ」


 思いがけず長く話してしまった。

 依然として、アイスコレッタ卿とどこで出会ったのかまったく思い出せないでいる。

 そんな状況の中、アイスコレッタ卿が思いがけない提案をした。


「よろしければ、朝食は行きつけの食堂にしませんか?」

「え!?」

「朝市がよかったですか?」

「いいえ、食堂でもいいけれど」

「だったら行きましょう」


 思いがけない方向に事態が転がっていった。

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