それから
この世から祝福と守護獣が消えた。
記憶からもなくなったようで、皆、違和感を覚えず普通に暮らしているらしい。
残っている守護獣は、メルヴ・メルヴェイユとレンの暗黒竜、それからヒルディスの水晶聖獣くらいだろう。
加えて大聖女についての記憶も、人々の中からきれいさっぱりなくなっているようだ。
熱心に聖教会へ通っていた信者もいなくなり、大聖堂は閑散としているという。
枢機卿であるゲラルト・ツォーンは国家予算を横領していたようで、騎士隊に拘束された。禁固刑三百年が決定したようだ。つまり生きて出ることはできない。
ラルフ・ガイツはパッパード救貧院の院長と結託し、人身売買を行っていたことが露見し、処刑が決まっているようだ。
フリートヘルム・フォン・ファールハイトはレンとの空中戦で一命を取り留めるも、記憶喪失になっているという。
エドウィン・フェレライは相変わらず落ちぶれたまま、軽犯罪を繰り返しては騎士隊のお世話になっているらしい。
そしてヒルディスは、大聖女達の記憶はきれいさっぱり失ったようだが、自らの大聖女としての記憶は残っているようだ。
毎日、信者が待っているのでミサに行かなくてはと訴えるも、そんな人達はいないとシュヴァーベン公爵夫妻が説得しているという。
人々の信仰心を糧とする水晶聖獣は、日に日に衰弱していっているらしい。
ヒルディスの周囲にいてチヤホヤしていた取り巻き達は、誰一人いなくなってしまったようだ。
そんなヒルディスのもとに、唯一通っているのはナイトの野郎だった。
ヒルディスを励まし、支えているという。
けれどもヒルディスはナイトの野郎を激しく拒絶しているという。
いつまでナイトの野郎が愛を貫くのか、使用人の間で賭け事になっているそうだ。
と、このような感じで、一度目の人生でわたしを断罪した人々は、各々悲惨な運命を辿っている。
その中で唯一、マルティナ夫人だけは相変わらず、商売に精を出している。
早い段階でエドウィン・フェレライに見切りを付けたことが、成功のきっかけだろうか。
彼女だけは活き活きと幸せそうに暮らしていた。
◇◇◇
例の事件のあと、わたしはアイスコレッタ公爵邸に居住まいを移し、レンと一緒に暮らすようになった。
侍女やメイドに「アイスコレッタ公爵夫人」と呼ばれるのは慣れない。
それも、時間が解決してくれるのだろう。
聖騎士を辞めたレンは、国王の親衛隊から声がかかった。
けれども権力者に振り回されるのは二度とごめんだと断り、わたしと商売を始めることになった。
その名も〝ボルゾイ商会〟。
犬や猫、兎などの愛玩動物の食事や愛用品などを販売する商会である。
守護獣が姿を消したあと、空前絶後の愛玩動物ブームとなった。
その波に乗るように、商売は大成功したのである。
一番の取引先であるマルティナ商会も、かなり大儲けしたという。
愛するレンが傍にいて、わたしの命を狙う脅威もなくなり、毎日幸せだ。
それなのに、わたしの心の一部にぽっかりと穴が空いたままだった。
わかっている。
いまだに、大精霊ボルゾイを喪った傷が癒えていないのだ。
これも、時間が解決するのだろう。
事件から三年後――メルヴ・メルヴェイユから世界樹のある場所に来るように呼びだされた。
世界樹のもとへは、月に数回通っていた。
都会の喧噪で疲れたわたしとレンを、癒やす場でもあったのだ。
メルヴ・メルヴェイユから呼びだしを受けるのは、初めてである。
いったいどうしたというのか。
『ゴキゲンヨウ』
「ごきげんよう、って、どこでそんな言葉を覚えたのよ」
『チョットネエ』
メルヴ・メルヴェイユはスキップをし、上機嫌な様子だった。
その理由がわからず、わたしとレンは顔を見合わせる。
『ジャーン!!』
メルヴ・メルヴェイユの声がしたほうを見る。
そこにいたのは、手足だけでなく、鼻先が長い生き物。
「え、オオアリクイ?」
『オオアリクイではありませんわ!!』
その姿、声、佇まい、雰囲気。
どれもわたしが知る、大好きだった存在そのもので――。
「ボルゾイ!! ボルゾイじゃないの!!」
『ええ、ええ、わたくしです!!』
駆けより、大精霊ボルゾイを抱きしめる。
「三年も、どこに行っていたのよ! 離れずに、わたしの傍にいてって言ったでしょう?」
『ごめんなさい……ただ今、戻りました!』
二人で抱き合い、涙を流す。
落ち着いたあと、いったいどういうことなのか、メルヴ・メルヴェイユに声をかけた。
『アノトキ、ボルゾイサンヲ、メルヴ・メルヴェイユノ、〝眷属〟ニ、シタンダヨオ』
「眷属ですって!?」
ただ、大精霊ボルゾイは特殊な存在で、すぐに同じ姿を維持できる状態ではなかったという。
なんでも種みたいな小さな姿から、ここまで大きくなるのに三年もかかったようだ。
大精霊ボルゾイが同じ姿を維持したまま眷属でいられるかも、賭けだったという。
成功するかわからなかったので、メルヴ・メルヴェイユはずっと言えなかったようだ。
『メルヴ・メルヴェイユ、頑張ッタ!』
「ありがとう!! 本当にありがとう!!」
わたし達は大精霊ボルゾイと一緒に、王都へ帰ることができたのだ。
まさかこんなハッピーエンドが待っていたなんて、夢にも思っていなかった。
きっとこの先も、わたしは満たされた中で暮らしていけるだろう。
わたしの〝復讐〟は、誰もが羨むような幸せな人生を送ることなのかもしれない。
今日、気付くことができた。
これにて、わたしの復讐劇は終わり。
めでたしめでたしで幕を閉じるのだった!
新連載はじまりました!よろしくお願いします
『シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!』
https://ncode.syosetu.com/n7261ln/
あらすじ
「あなたの婚約者、貰うわね」貴族学校時代の自称ライバルにそんな宣言をされたメーリスだったが、内心大喜びしていた。
勇者となって帰ってきた婚約者は、メーリスの魔法〝シール〟で徹底的に強化された、〝人工勇者様〟だったのである。
モラハラ気質で弱っちい婚約者なんて必要ない。
メーリスはかねてから夢だったシール屋さんをするために、師匠のお店を継ぐことにした。
そこで師匠の孫であり、魔法騎士であるユベールと出会い、彼と協力して商売を始めることになるが……?
恋と魔法、それからちょっとしたトラブル!?
シール魔女メーリスのドタバタ奮闘記




