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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第七章 傲慢たる者に、鉄槌を!

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ヒルディスの野心

「大魔女であるあなたは、わたくしの異母妹として生まれ変わった。大魔女だったという自覚もないまま」


 人とは違うとわからせるために、あえて祝福は与えなかったという。


「でも、守護獣は見えないような存在にして、あなたを監視させておきました」

「監視?」

「ええ。あなたの守護獣だけではありませんわ。聖教会が人々に与えた守護獣は、この国のありとあらゆることを監視する役割がありますの」

「なっ――!?」


 守護獣と呼ばれている割には、存在感が薄いことについて、少し気になっていた。

 わたしは母の守護獣でさえ、見たことがなかったのだ。

 皆、守護獣の存在を隠していたわけではない。

 人々を常日頃から監視させるために、あえて存在感を薄くしていたのだろう。


「あなたの守護獣も、ずっと見守っていたと言っていたでしょう?」

「……」


 認めたくない。大精霊ボルゾイが大聖女の手先だったなんて。

 でも、そういう説明を聞くと、大精霊ボルゾイの様子がおかしかったことに納得がいく。

 ヒルディスの監視があるので、大精霊ボルゾイは詳しい話ができなかったのだろう。


「わたくしは大精霊ボルゾイを通して、あなたが余計なことをしたら、修正していましたの」

「なんですって!?」


 一度目の人生では、わたしの立場をわからせるために、わざとヒルディスの物であった聖なる婚約指輪セイント・エンゲージリングとナイトの野郎がわたしのために用意した指輪をすり替えたという。

 結果、わたしはヒルディスの指輪を盗んだ犯罪者に仕立てられ、火刑に処されたのだ。

 二度目の人生ではエドウィン・フェレライの商売を手伝い始めたわたしのことを、あることないことマルティナ夫人にヒルディスは吹き込んだ。

 結果、マルティナ夫人にわたしとエドウィン・フェレライの不貞を疑われ、毒殺された。

 三度目の人生では独立しようとしていたわたしと母の行動を、ヒルディスは逐一シュヴァーベン公爵夫人に密告していたらしい。

 結果、シュヴァーベン公爵夫人に胸をひと突きされ、殺されてしまった。

 四度目の人生ではヒルディスはわたしに救貧院についての情報を吹き込み、パッパード救貧院の院長や、オプファー・ガーベ修道院のラルフ・ガイツと結託して、命の取引を行っていた。

 結果、わたしはラルフ・ガイツが使役する魔獣ガルムに襲われ、命を失ってしまう。

 五度目の人生では修道女になったわたしの傍で、余計な行動をしないようにヒルディスは監視していたという。

 結果、ヒルディスがフリートヘルム・フォン・ファールハイトをほんの少しけしかけただけで、わたしの命は奪われてしまった。


「そして六度目の人生はあなたにブラッティ・ナイフを仕込んで、あとは放っておきました。そうしたら勝手にブラッティ・ナイフの呪いが発動して――」


 大聖女であるヒルディスを殺そうとする場面をレンが目撃したら、愛想も尽きるはず。

 ヒルディスはそう思っていたようだが、あてが外れてしまった。


「まさかケレン・フォン・アイスコレッタがあなたを守って死ぬとは、夢にも思っていませんでした」


 がっかりしたと言う。


「せっかくわたくしがアイスコレッタ公爵になるための手はずを整えて、わたくしに相応しい男にしてあげたというのに」

「どういう意味ですか?」


 レンが震える声で問いかける。


「どういうって、わかっていなかったのですか? あなたがアイスコレッタ公爵になるために、わたくしはあなたの親族を全員、闇に葬ったのです」


 アイスコレッタ公爵邸が火災で全焼し、多くの人々が亡くなった不審な事件の数々は、ヒルディスが裏で暗躍したものだった。

 胃の辺りがスーーと冷え込むような、心地悪い感覚に襲われる。

 まさか、すべての黒幕がヒルディスだったなんて、夢にも思っていなかった。


「ヒルディス、あなたにはがっかりしたわ」

「あら、残念ですわ。わたくしは、あなたの見事な散りっぷりを楽しんでいたのですが」

「趣味が悪い!」

「なんとでもおっしゃってくださいませ。これまで、わたくし達大聖女は、辛酸を嘗めるような目に遭っていたのですから」


 そこまでのことを大魔女やわたしはしたのか?

 いいや、していないはず。


「あなたは、あなた達は単純に、恋が叶わなかった腹いせをしているだけなのよ!」


 これまで楽しそうに微笑んでいたヒルディスの表情が、一気に引きつった。


「わたしはずっと、愛人の娘だから惨めな人生を送っていると思い込んでいたの」


 けれどもそれは違った。

 わたしの人生の舞台裏で、ヒルディスが暗躍していたのだ。

 まるで滑稽な演技を見ているかのように、誰からも見えない場所からあざ笑っていたのだろう。


「ねえ、もう止めましょう」

「どうしてそれをあなたが決めるのですか?」

「わたしの人生よ!」

「いいえ、わたくしがあなたに与えてあげた人生ですわ!」


 もともと奪った命を、与えてあげたなんて傲慢としか言いようがない。


「わたし達、永遠にわかり合えないのね」

「そのようです」


 ヒルディスはブラッティ・ナイフをわたしに向け、「さようなら」と言った。 

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