祝福と守護獣
落ちたままになっているブラッティ・ナイフは、持ち主のもとに戻るようなので放置していても問題ないらしい。
よかった、と安堵したのもつかの間のこと。
今度は疑問が浮かんでくる。
「えっ、な、なんでブラッティ・ナイフがあるってわかったの!?」
『ソレハネ、メルヴ・メルヴェイユハ、大魔女サンノ、〝守護獣〟ダカラダヨ』
「え……?」
メルヴ・メルヴェイユがわたしの守護獣?
「どういうことなの?」
『〝獣〟ジャナイケドネ!』
「いえ、そういう意味ではなくて」
わたしの守護獣は大精霊ボルゾイだ。メルヴ・メルヴェイユではない。
「前世の大魔女の守護獣だったってこと?」
『ウウン、今モダヨ』
「待って。あなたは世界樹を守る大精霊なのよね?」
『ソウダケレド、世界樹自体ガ、大魔女サンノ管轄ダカラ、一緒ニ、守ッテイルノ』
「ふうん、そうなの……って、やっぱりわからないわ!」
混乱するわたしの代わりに、レンが説明してくれた。
「ヴィオラさんはあなた以外に守護獣がいるんです。守護獣が同時に二体存在することはありえるのですか?」
『アリエナイヨ!』
「ならば、ヴィオラさんの本物の守護獣は――?」
『メルヴ・メルヴェイユダヨ!』
やはり、そういうことになるのか。
六度目の人生辺りから、大精霊ボルゾイの様子がおかしかったのを思い出す。
自分がいたらわたしが不幸になるとか、なんとか言っていたのだ。
それにこれまではどこに行くにも一緒だったのに、今回は同行を渋った。
「大精霊ボルゾイは、本物の守護獣ではないってことなのね」
『ウーーン、〝人工守護獣〟ダネエ』
「人工、守護獣?」
『ソウ!』
そういえば、大精霊ボルゾイが『わたくしは世界樹から生まれた守護獣ではありません』なんて発言をしていたような。
「その人工守護獣って、どこから生まれたの?」
『聖教会ガ行ウ、鑑定式ノトキニ、対象ノ魔力ヲ使ッテ、人工祝福ト一緒二、作ッテイタミタイダネ』
「待って!! 祝福も人工的に作り出された物なの!?」
『ソウミタイ』
本来、神より与えられし祝福というのは、大聖女と聖騎士、大魔女と暗黒騎士の四名にのみ与えられるものだという。
『守護獣モ、ソウナノ』
先ほどの四名以外の守護獣は、すべて人工的に作られた存在だという。
「祝福も、守護獣も、自分の魔力で作られたものだったなんて……!」
しかし、どうしてそんなことをさせたのか。
理解が追いつかない。
『メルヴヲ封印スル前ニ、大魔女サン、言ッテイタノ。コノママダト、世界樹ヲモ、悪用サレテ、危険ダッテ』
「ねえ、誰に悪用されるの?」
『ソレハ――』
突然、空気がピリッと震えた。同時にレンが「ヴィオラさん!!」と叫んでわたしを守るように前に立つ。
目の前に魔法陣が浮かび上がり、そこから現れたのはゲラルト・ツォーン。
それからヒルディスと聖騎士達だった。
「あなた達は……」
「アイスコレッタ卿、やはりここにいたのか」
「どうしてわかったのですか?」
「我々には、〝目〟があるからな」
「目、ですか?」
監視の目がつきまとっていた、というわけなのか。
どこに? どうやって?
まったく気配は感じていなかったのに。
「それはそうと、この場所は聖教会が管理する神聖な場だ。お前らなんぞが足を踏み入れていい場所ではない」
「違います! ここは聖教会には関係のない場所です」
「何を言っている。世界樹は聖教会の象徴的なものだと、神学校で習ったのを忘れているのか!?」
「それは、聖教会側が改竄した、自分勝手な歴史なんです」
「なんだと!?」
ピリピリと険悪な雰囲気の中、ヒルディスがレンとゲラルト・ツォーンの間に割って入る。
「アイスコレッタ卿は混乱状態にあるようですので、一度大聖堂に戻ってから、ゆっくりお話ししたほうがよろしいかと」
「いいえ、大聖堂には戻りません!」
レンは毅然とした態度で言葉を返す。
「ああ、アイスコレッタ卿はその雌犬に唆されてしまったのか」
「誰のことをおっしゃっているのですか!?」
「あなたの背後で負け犬のように隠れている、ヴィオラ・ドライスのことだ!!」
レンは剣を引き抜き、ゲラルト・ツォーンに切っ先を向ける。
「アイスコレッタ卿、与えた恩を忘れ、我々と敵対するというのか!?」
「ヴィオラさんの敵になるというのならば、そうなるしかありません」
「愚かな!!」
聖騎士達も次々と剣を引き抜く。
一触即発の雰囲気だったが――。
『ケンカハ、ダメーーーーー!!』
メルヴ・メルヴェイユがそう叫ぶと、世界樹から蔓が伸び、ゲラルト・ツォーンや聖騎士達がぐるぐる巻きになって拘束される。
「なっ、これ――もが!!」
目元と口、耳に葉っぱが張り付いたので、見聞きや喋ることができない状態になったようだ。
メルヴ・メルヴェイユのおかげで、戦わずに済みそう。
なんて安堵したのもつかの間のこと。
わたしの足下にあったブラッティ・ナイフが、突然動き出す。
「え?」
まっすぐ飛んでいき、ヒルディスの手中に収まったのだ。




