メルヴ・メルヴェイユ
メルヴ・メルヴェイユはつぶらな瞳をぱちくりと瞬かせる。
わたしに気付くと、片手をサッと上げて挨拶してきた。
『ワア、大魔女サン、オ久シブリ!』
「大魔女?」
『アレ、アノ時ノ、大魔女サンジャナイ?』
「ごめんなさい。わたしはあなたと会うのは初めてなの」
『ウーーーーン、ア、ソウナンダ!』
メルヴ・メルヴェイユは納得した様子だが、わたしはまったく話が見えない。
わたしに呼びかけた〝大魔女〟というのも謎である。
『大魔女サンハ、生マレ変ワッテ、イルンダネ!』
「たしかにわたしは六度、生まれ変わっているわ」
『ソレヨリモ前ニ、別ノ、大魔女サンダッタンダヨ』
「前世がある、ということでしょうか?」
『ワア、暗黒騎士サンモイル!』
どうやらメルヴ・メルヴェイユはレンのことも知っているらしい。
「ごめんなさい。わたし、あなたとのことや、大魔女についてまったく覚えていないの。別の大魔女について、聞かせてくれる?」
『イイヨ!』
その昔、この国には〝大聖女〟と〝大魔女〟がいたという。
『大聖女サンハ、聖騎士サンガ守ッテ、大魔女サンハ、暗黒騎士サンガ守ッテイタンダヨ』
そして、レンは大魔女を守る暗黒騎士の生まれ変わりだという。
『暗黒騎士サンハ、大魔女サンガ、大好キダッタノ!』
「そう、だったのですね」
レンが暗黒騎士の生まれ変わりであるように、わたしもまた大魔女の生まれ変わりだという。
『大聖女サント、大魔女サンハ、ソレゾレ、〝役割〟ガアッテネエ』
大聖女は時を見守り、大魔女は時を渡って国を守っていた。
「時を渡るというのは、わたしの祝福のことでしょう? でも、大聖女の時を見守るというのは?」
『大聖女サンハ、歴代ノ大聖女ノ、スベテノ記憶ヲ、継承シテイルンダヨ』
「なっ――!?」
つまり、ヒルディスはこれまで存在していた大聖女、全員の記憶を保持しているということなのか。
だとしたら、幼少期の彼女がどこか冷めていて、達観している様子だったのも頷ける。
そんな大聖女の役割は、わたしが思っていたものと異なっていた。
『大聖女サンハ、国ガ危機的状況ニナッタトキ、記憶ニアル知識ヲ用イテ、助言シテイタノ』
祝福〝記憶の回廊〟――歴代の大聖女が見てきた、国が歩むべき正しい道を示すための記憶である。
その能力を使って、国を軌道修正するよう助言するのが大聖女の役目だったという。
『大聖女サンノ指示ノモト、動クノガ大魔女サン』
戦争を止め、革命に介入し、内乱を納める。そのさい、命を落としても、何度でもやり直すことができる。
それが大魔女の役目だったという。
この国は大聖女と大魔女、二人の力によって成り立ち、平和を維持してきた。
けれどもある日、その仕組みが崩壊してしまう。
大魔女が何者かに殺されてしまったのだ。
「でも、大魔女は生き返ることができるんでしょう? どうして?」
『ワカラナイノ』
大魔女はメルヴ・メルヴェイユを封じたあとに、命を落としたという。
メルヴ・メルヴェイユは封印された状態だったものの、大魔女の命が散り、戻らない状態になったことだけは把握していたようだ。
それ以降、歴史から大魔女の存在は消され、大聖女を囲っていた聖教会が頭角を現す。大聖女の影響力はすさまじく、王家すら無視できなくなった。
大魔女が消えて早くも数世紀――現在は大聖女だけがこの世の奇跡として残るようになっていたという。
『大魔女サンガ、言ッテイタノ。コノママダト、危険ダッテ』
きっと誰かがメルヴ・メルヴェイユを悪用しようと考えていたようだ。
いったい誰が?
『ア!』
メルヴ・メルヴェイユは何かに気付いたようで、わたしの胸にそっと触れる。
「え、何?」
そんな疑問を口にした瞬間、胸からぽろりとブラッティ・ナイフが出てきた。
『危ナイ棘ガ、刺サッテイタカラ、抜イテアゲタヨ!』
メルヴ・メルヴェイユは忌ま忌ましいブラッティ・ナイフを、あっさり抜いてしまった。




