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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第七章 傲慢たる者に、鉄槌を!

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世界樹のもとへ

 大森林――それは世界樹を守る森。

 神聖な空気が漂っていて、歩いているだけで魂が浄化されそうだ。

 ただ、それだけの森ではない。


『グオオオオオオオオ!!』

「なんでベヒモスなんかいるのよ!!」


 伝説にしか登場しないような魔獣が、普通にその辺を闊歩しているのである。

 わたしの逃げ足では一瞬で襲われてしまうので、途中からガウラに乗って大森林を駆け巡った。


 地上が危なければ木々を伝っていけばいい。

 そんな作戦にも出てみたが――。


「ヴィオラさん、ヒュドラです」

「なんですって!?」


 猛毒を持つヘビに似た魔物が木をするすると上がってきて襲いかかる。

 それだけではない。

 植物系の魔物マンドレイクや、木自体が魔物だというトレントなど、次々と襲いかかってきた。

 上空からは、ロックやハーピーなどの飛行系の魔獣の襲撃もある。

 木の上もまったく安全ではなかった。

 仕方なく地上を歩いていると、今度は地中からの攻撃も受ける。

 足下を砂と化し、ターゲットを地中へ引きずり込むヘル・アントや、土を突起させて攻撃してくるモールなど、どこもかしこも油断できない。


 大森林の攻略を始めて早くも三時間、わたし達は地獄の番人ケルベロスに追いかけられていた。

 さすがのレンも、三時間戦い通しで体力をかなり消耗していた。

 そんな中で、ケルベロスに勝てるとは思わなかったため、こうして逃走を選択したのである。

 けれども逃げ切れるのか。

 なんて思っていたら、どこからともなく〝声〟が聞こえた。


 ――コッチダヨオ。


「え?」


 レンの声ではない。

 どこか拙く、幼い子どものような無邪気な喋りだった。


 ――コッチ、コッチ。


 声がする方向に優しい風が吹いている。

 こういう聞こえてはいけない声は、通常ならば危険だ。

 けれどもこの声はどこか懐かしくて、慈愛に満ちている。

 信じても大丈夫。

 そう判断し、レンに声をかけた。


「レン、こっちよ!! 声が聞こえたの!!」


 彼は疑うことなく「わかりました!」と言ってついてくる。

 その後も声の誘導は続く。

 声に従って走っていると、いつの間にかケルベロスを撒くことに成功していた。

 不思議なもので、声に従っていると、魔獣と遭遇しなくなった。

 そして――。


 一本の大きな樹の前で声が途絶える。


「行き止まり、なのでしょうか?」

「いいえ、違うわ」


 どうしてか、わたしは〝覚えていた〟。

 樹の幹に触れると、魔法陣が浮かび上がる。

 そう、ここが世界樹がある場所へ繋がる〝鍵〟なのだ。

 足下に転移の魔法陣が浮かび上がり、一気に景色が変わった。


 空気がまるで違った。そこはやわらかな木漏れ日が差し込む、おだやかな空間。

 そして目の前にある天を衝くほどの巨大な樹が、世界樹なのだろう。


「レン、世界樹だわ」

「ええ、しかし――」


 何か異変を感じたらしい。

 レンが指差した方向にあったのは、世界樹の根元から突き出るようにあった、水晶の群晶クラスター

 その中には、大根みたいな生き物が封じられていた。


「あれは、世界樹の大精霊、〝メルヴ・メルヴェイユ〟!」


 どうしてわたしは知っているのか?


「なぜ、あのように封じられているのでしょうか?」

「わからないわ」


 そう思った瞬間、誰かの記憶が流れ込んでくる。


 ――このままでは危険なの!!

 ――メルヴハ、平気。

 ――平気なわけないわ! このままだと悪用されるの! だから……。


「わたしよ」

「ヴィオラさん?」

「わたしが、かつてのわたしが、あの子を封じたの」


 自分で口にしておいて、その事実に驚く。


「どうして?」


 わからない。わからないけれど、わたしはあの子の封印を解く方法を〝知って〟いた。 水晶に近づき、そっと触れる。

 すると、水晶にヒビが入り、散り散りになって消えてなくなる。

 同時に、中にいた大根みたいな生き物がパッと目を覚ます。


『ウーーーン、ヨク寝タア!』


 枝みたいな腕をぐーっと伸ばし、なんとも気の抜けるようなことを口にする。

 この大根みたいな生き物こそが、世界樹の大精霊メルヴ・メルヴェイユなのだ。

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