空中戦
ああやって魔獣に人が跨がるというのはありえないことだ。おそらくだが、ラルフ・ガイツに依頼し、ワイバーンを用意させたのだろう。
「数は――二十騎」
レンがぽつりと呟く。
多勢に無勢、卑怯にもほどがあるだろう。
皆、剣を抜いている状態だという。明らかな戦闘態勢であった。
いったいどうやって戦うというのか。
暗黒竜は大きいので、ワイバーンのように小回りは利かないだろう。
ここでわたしの胸にしがみついていたガウラが飛び出す。
『くうん!』
何を思ったのか、突然元の大きさに戻った。
『わうん!!』
何か暗黒竜に話しかけている模様。暗黒竜が『グオオ……』と短く鳴いた。
次の瞬間、ガウラは暗黒竜の鱗を一枚剥がす。
「え、ちょっと、ガウラ!?」
「許可を取っているようです」
「そ、そうなの!?」
鱗が生えていた場所から、一筋の血が浮かんだ。
ガウラはそれをぺろりと舐める。
すると、『わおおおおん!!』と遠吠えしたかと思えば、突然背中に竜の翼が生えた。
「あれは、あの子の能力!?」
血を舐めると、その相手の祝福を複製できるというもの。
今回は守護獣なので、相手の要素を複製したのだろうか?
続いてガウラは姿勢を低くし、レンに乗れとばかりに『わう!』と鳴いて促す。
「よろしいのですか?」
『わう!』
どうやらガウラはレンに空中戦をさせるために暗黒竜に交渉し、翼を生やしてくれたようだ。
「ありがとうございます、助かります」
レンは暗黒竜にわたしを守るように言ってから、ガウラに跨がる。
『わう!!』
ガウラは勇ましく鳴き、暗黒竜の背中を蹴って飛び立った。
ワイバーンの戦闘部隊がレンのもとへ到着する。
「アイスコレッタ卿、覚悟!!」
どうやら連れ戻す気はないらしく、戦意剥き出しで襲いかかってきた。
勢いそのまま、レンに斬りかかってくる。
ガウラはひらりとその攻撃を回避したが、次に到着したワイバーンが爪先を向けて襲い来る。
ワイバーンの鋭い爪はレンが剣で受け止め、そのまま力任せになぎ払った。
バランス感覚を失ったワイバーンは飛行を維持できず、浮力を落とす。
次々と襲い来るワイバーン部隊に、レンは果敢に戦っていた。
ワイバーンに騎乗した聖騎士よりも、レンの戦闘力は大きく勝っている。
けれども数が多いので、かなり厄介だろう。
隊長格のワイバーンがやってくる。
他のワイバーンより一回り体が大きく、獰猛そうな見た目だった。
さらに跨がっている人物に見覚えがあってギョッとする。
「ケレン・フォン・アイスコレッタ卿、逃がしませんよ!!」
フリートヘルム・フォン・ファールハイト、レンの魔力を奪って活躍を独り占めしていた卑怯者!!
今回はレンを倒した功績を我が物にしようと考えているのだろう。
聖騎士隊の中ではそこそこの実力だろうが、レンに敵うわけがなかった。
レンはたった一撃でフリートヘルム・フォン・ファールハイトの剣を弾き飛ばし、一瞬で奴を丸腰状態にする。
さすがに焦ったのか、部下達に怒鳴るように指示を出した。
「特攻!!」
特別攻撃――そう聞くやいなや、聖騎士達は「うおおおおおおおお!!」と雄叫びを上げ、ワイバーンの目は真っ赤に光り始める。
「な、なんなの?」
次の瞬間、ワイバーンはレンめがけて一気に突撃してくる。
すべてのワイバーンが一斉に襲いかかってきた。
「――!?」
さすがのレンも、この数を同時に躱すのは無理だろう。
すかさずわたしは叫んだ。
「石撃ち刑!!」
大量の石つぶてが、ワイバーンに襲いかかる。
勢いよく降りかかる石は、ワイバーンの翼を貫通させた。
ワイバーン達は飛行を維持できずに、落下していく。
「うわああああああ!!」
聖騎士達はワイバーンの背中から振り落とされ、そのまま地上へまっさかさま。
この辺りは森なので、運がよければ命は助かるだろう。
フリートヘルム・フォン・ファールハイトのワイバーンも飛行状態が怪しくなる。
ここで想定外の行動に出た。
「このおおおおおおお!!」
フリートヘルム・フォン・ファールハイトはワイバーンの背にナイフを突き刺す。するとワイバーンは驚き、急上昇していった。
その勢いの乗って彼はワイバーンの背中から飛びだし、レンに斬りかかってくる。
「これで最期です!!」
フリートヘルム・フォン・ファールハイトは脳天に向かって斬りかかるも、レンは剣で受け止めて弾き返した。
それだけでなく、鋭い一撃を与える。
「かはっ――!?」
レンの剣はフリートヘルム・フォン・ファールハイトの鎧を砕き、その身を切り裂く。
真っ赤な血が、空に散っていった。
「ああああああああああああ!!!!」
フリートヘルム・フォン・ファールハイトはそのまま落下していく。
当然ながら、ワイバーンは彼を助けることなどなかった。




