レンの覚悟
「辞めた!? 聖騎士を!?」
「はい」
レンはこれまでにないような、すっきりとした明るい声で言葉を返す。
「ど、どうして!? あなた、聖騎士になるために神学校に通って、卒業前の辛い巡礼の旅も乗り越えてきたのでしょう?」
「ええ。ですが聖騎士になったのは、ヴィオラさんを探すためでしたし」
「そうだけれど、こう、実際に聖騎士になって、ヒルディスへの忠誠心とか、聖教会への信仰心とかが育ってきたんじゃないの?」
「いいえ、まったく。ヴィオラさんへの想いが募ることがあっても、それ以外の気持ちが変わることはありませんでした」
わからない。どうしてそこまでわたしに対する気持ちが大きいのか。
きっと理由を聞いても、納得できないだろう。他人の感情なんて、理解しようがないから。
「まあ、いいわ。それで、ヒルディスは納得してくれたの?」
「大聖女様には報告しておりません」
「だったら上官しか知らないってこと?」
「そうですね」
なんでも上官にも激しく止められたようだが、聖騎士に伝わる一騎打ちの勝負で勝利し、自分の意思を通したという。
「上官に粘られてしまい、このような時間になってしまいました」
きっとヒルディスはレンが聖騎士を辞めたと聞いたら驚くだろう。
「これからどうするの?」
「そうですね……。収入面ではまったく問題ないのですが」
アイスコレッタ公爵家の領地には鉱物が採掘される山がいくつかあり、質がいい鉱物や魔石が採れるという。
それ以外にも農業が盛んで、他の地方では育たない高級な果物や、珍しい薬草も採れるという。
そのため、アイスコレッタ公爵であるレンは国内でも五指に入るくらいの資産家なのだとか。
つまり、特に職を持たずとも裕福な暮らしを送れる身分にあるのだ。
「マルティナ夫人がよければ、何か共に商売でもできたらいいですね」
「それ、すごく喜ぶと思うわ」
「だと嬉しいのですが」
マルティナ夫人は新しい商売を始めるために、貴族との繋がりを模索していた。
レンから申し出があれば、跳び上がって喜ぶに違いない。
まだマルティナ夫人は起きているはずだから、話は早いほうがいいだろう。
「だったら、すぐにマルティナ夫人に話をしましょう」
「その前にもう一点、お聞きしたいことがありまして」
「何かしら?」
レンはごほん! と咳払いしたのちに、ピンと背筋を伸ばす。
「今回の人生でも、私と結婚してくれますか?」
「なっ――!」
まさかの質問に、言葉を失う。
ここで求婚されるとは、夢にも思っていなかった。
「あなたね、仕事の話ついでに求婚するなんて」
「これからマルティナ夫人に会うのならば、結婚の許可もいただきたいと思っていまして」
もう、二度と離れ離れになりたくない。
そう、レンは訴える。
「お願いします。どうか、私の妻になってください」
「あなたも物好きよね。わたしみたいなのに引っかかるなんて」
「本望です!」
あまりにも潔く答えるので、思わず笑ってしまう。
「いいわ、そこまで言うのならば、結婚しましょう」
「ありがとうございます!」
大精霊ボルゾイとガウラが祝福してくれる。
六度目の人生に引き続き、またしてもわたし達は夫婦となる。
今度こそ、幸せになってやる。
そんな気概で彼の求婚を受け入れたのだった。




