世界樹について
世界樹――それは大きな魔石と呼ばれている月より降り注ぐ魔力を受け止め、大地を通じて供給させるこの世界の要とも呼ばれる大樹だという。
聖教会のステンドグラスや聖書のモチーフにも選ばれるくらい、象徴的なものらしい。
「その世界樹を守護する、大精霊がいらっしゃるという話を、神学校の授業で聞いたことがあったんです」
その大精霊ならば、ブラッティ・ナイフを解除できるかもしれない。
「でも、わたし達のお願いなんて聞いてくれるのかしら?」
「ツォーン猊下よりは聞いていただける可能性が高いと思います」
「それはたしかに」
問題はその世界樹がどこにあるか、である。
「世界樹の場所は守護獣が知っているでしょう」
「そうなの?」
「ええ。神話では、守護獣は世界樹の朝露から生まれ、選ばれし主人のもとへ駆けていく、なんて話がありますから」
「知らなかったわ」
レンの守護獣である竜は軽い意思の疎通はできるようだが、大精霊ボルゾイのように喋ることはできない。
そんなわけで、部屋から出て行った大精霊ボルゾイを呼んで、世界樹について聞いてみることにした。
『あの、わたくしはいいので!』
「あなたに聞きたいことがあるのよ」
『わたくしに?』
「そう!」
そこに座って話を聞かせてくれ、とクッションを置いてお願いすると、なぜか呼んでいないガウラがやってきてどかんと座り込んだ。
その隣に、大精霊ボルゾイが戸惑う様子で腰掛けた。
「あなたに、世界樹がある場所について聞きたいのよ」
『世界樹、ですか?』
「ええ、そう。守護獣って、世界樹の朝露から生まれるんでしょう?」
『え、ええ。それはその、そういうふうに伝わっております』
「だから、世界樹がある場所を知っているでしょう?」
『いいえ、わたくしは存じ上げません』
「え!?」
大精霊ボルゾイ曰く、すべての守護獣が世界樹の朝露から生まれるわけではないらしい。
「だったら、あなたはどうやって生まれたの?」
『わたくし達は、その、特殊なパターンかと』
「特殊って?」
『それは、なんとご説明していいのやら……』
なんとも煮え切らないような物言いである。
『おそらくですが、竜種であるアイスコレッタ様の守護獣であれば、世界樹の所在をご存じなはずです』
「そうなの?」
『ええ、間違いないかと』
ならば、レンの竜の背中に乗って、世界樹の在り処まで連れて行ってもらえばいい話である。
「できれば早いほうがいいけれど……。ああ、明日、夜会もあったわね」
「前回の人生で、ヴィオラさんと私が再会した集まりですね」
「そう」
負け犬のように逃げだした挙げ句、エドウィン・フェレライに迫られ、求婚までされたという、思い出したくもない日の記憶だった。
「そういえば、ヒルディスはどうしてあの夜会に参加したの?」
「マルティナ夫人が聖教会に多額の寄付金を献上したようで、ツォーン猊下から参加するように言われていたそうです」
「そうだったの」
しかし不思議である。マルティナ夫人は敬虔な信者ではない。
六度目の人生では、聖教会の裁判員に選ばれるような功績もなかったはず。
「明日の夜会も参加予定だそうです」
「だったらわたしは不参加だわ」
ただ、マルティナ夫人にはなんと説明していいものか。
「レン、あなたはどうするの?」
「私は辞表を出してまいりましたので、あなたの傍にいます」
「ふうんそう――って、え!?」
信じがたい言葉が聞こえてきた。




