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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第七章 傲慢たる者に、鉄槌を!

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運命

 レンは白い板金鎧姿だった。どこにも違和感はない。

 念のため、大精霊ボルゾイにも確認してもらうも、彼で間違いないという。

 レンに見せかけた何ががやってきたわけではない。

 こんな時間にやってきたということは、緊急事態なのだろう。

 なぜ、やってきたのか?

 わからない。

 この人生ではまだ、彼とは出会っていなかったのに。

 きっと緊急事態なのだろう。

 扉を開いた瞬間、レンは思いがけない行動に出る。


「ヴィオラさん!!」

「ええ!?」


 レンは感極まった様子でわたしを抱きしめた。

 なぜ? どうして?

 疑問符はてなが土砂降りの雨のように頭上から降り注ぐ。

 困った挙げ句、大精霊ボルゾイに助けを求めるように視線を送る。

 けれども彼女は『あとはお若い二人で』とか言って、ガウラを連れて退室してしまった。

 そういう気遣いはいらないのに。


「よかった……本当によかった」

「な、何がよかったの? というかあなた、どうしたの?」

「思い出したんです。これまでのことを」

「これまでって?」

「あなたとの記憶のすべてを」

「どういうこと?」


 レンはしばらく余韻に浸っていたようだが、わたしから離れてまっすぐ見つめてくる。

 その眼差しは、久しぶりに再会できた幼なじみへ向ける者ではない。

 運命の人に向けるような、愛に満ちたもののように思えてならなかった。


「ヴィオラさん、あなたと過ごした六回にも及ぶ記憶のすべてを、手にすることができたんです」

「なんですって!?」


 わたしと同じように、レンの人生も巻き戻ったというのか。


「そんなこと、どうやってやったのよ」

「私の祝福の力です」


 レンの祝福は〝死ねば諸共=エンゲージ運命共同体メント〟だという。

 二度目の人生で彼が話していた、役に立たないという祝福である。


「〝死ねば諸共=エンゲージ運命共同体メント〟は生も死も、離れず一緒に分かち合う、愛を捧げた相手と運命を共にする祝福なんです」


 そういえば結婚式を挙げたときに、何かが弾けるような音が聞こえていた。

 あれはきっと祝福が発動したさいに鳴ったものだったのだろう。


「これからはずっと一緒なんです」

「今後もわたしが死んだら、あなたも死ぬってこと?」

「はい」


 その逆もしかりだという。

 ちなみにレンの祝福はこの先も永遠に作用し続けるようだ。

 まさかそんな祝福持ちだったなんて。


「ヴィオラさんが何度も苦しい思いをして、人生をやり直していたなんて……。もっと早く、結婚していればよかったです」


 わたしの不幸にレンを巻き込みたくなかった。

 けれども結果的に、この先もずっと彼を付き合わせることになるのだ。


「ごめんなさい」

「どうして謝るのですか?」

「だって、これまでわたしがどうやって死んできたか、わかっているでしょう?」


 わたしの死は悲惨なものだった。

 きっと新聞社が面白がって、大々的な記事にしたに違いない。


「それに五度目、六度目の人生ではわたしの傍にいたせいで、あなたを死なせてしまった」

「ヴィオラさんのせいではありません」

「でも、わたしと一緒にいなかったら、レンは死ななかった!」


 もう、こんな悲しい目に遭いたくない。

 そう訴えると、レンはわたしの手を優しく握ってくれた。


「二度と、あなたを悲しい目に遭わせません」

「どうやって?」


 どこに行っても、わたしに不幸と死がつきまとう。

 レンといても、同じような結果になるだけだろう。


「何をするにも、二人で考えましょう。今の私達は、一人ではありません」

「――!」


 そうだ、そうだった。

 これまでのわたしは一人で考え、死を回避するために行動してきた。

 もしかしたら独りよがりな部分もあったのかもしれない。

 レンがいたらこれまでとは異なる、別の道を歩むことができる。


「目下の脅威は、ヴィオラさんの〝ブラッティ・ナイフ〟ですね」

「そうなのよ……」


 ブラッティ・ナイフのせいで、わたしは石撃ち刑となった。

 レンはそんなわたしを助けるために、命を散らしたのだ。


 呪いのようなこの魔法は、基本的には術者が死なないと解除されないものなのだろう。

 そもそも誰がかけたかもわからないものなので、特定しようがないのだ。


「解除できるとしたら、絶対的な聖力の持ち主――ヒルディスか枢機卿であるゲラルト・ツォーンの協力が必要なのよね?」

「ええ」


 ヒルディスの前でブラッティ・ナイフの力が発動したら恐ろしい。

 ゲラルト・ツォーンはそもそも簡単に会えるような人物でない上に、わたしの訴えを信じて協力してくれるとは思えなかった。


「ヒルディスを暗殺する呪いがかかっていると訴えても、逆に本気で殺意があるのではないか、とか疑われそう」

「たしかに、ツォーン猊下には言わないほうがよさそうです」


 八方ふさがりのような状況かと思いきや、レンがぽつりと呟く。


「世界樹の大精霊ならば――」

「世界樹?」


 ヒルディスや枢機卿であるゲラルト・ツォーンよりも、強い聖力の持ち主がいるらしい。

 

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