運命
レンは白い板金鎧姿だった。どこにも違和感はない。
念のため、大精霊ボルゾイにも確認してもらうも、彼で間違いないという。
レンに見せかけた何ががやってきたわけではない。
こんな時間にやってきたということは、緊急事態なのだろう。
なぜ、やってきたのか?
わからない。
この人生ではまだ、彼とは出会っていなかったのに。
きっと緊急事態なのだろう。
扉を開いた瞬間、レンは思いがけない行動に出る。
「ヴィオラさん!!」
「ええ!?」
レンは感極まった様子でわたしを抱きしめた。
なぜ? どうして?
疑問符が土砂降りの雨のように頭上から降り注ぐ。
困った挙げ句、大精霊ボルゾイに助けを求めるように視線を送る。
けれども彼女は『あとはお若い二人で』とか言って、ガウラを連れて退室してしまった。
そういう気遣いはいらないのに。
「よかった……本当によかった」
「な、何がよかったの? というかあなた、どうしたの?」
「思い出したんです。これまでのことを」
「これまでって?」
「あなたとの記憶のすべてを」
「どういうこと?」
レンはしばらく余韻に浸っていたようだが、わたしから離れてまっすぐ見つめてくる。
その眼差しは、久しぶりに再会できた幼なじみへ向ける者ではない。
運命の人に向けるような、愛に満ちたもののように思えてならなかった。
「ヴィオラさん、あなたと過ごした六回にも及ぶ記憶のすべてを、手にすることができたんです」
「なんですって!?」
わたしと同じように、レンの人生も巻き戻ったというのか。
「そんなこと、どうやってやったのよ」
「私の祝福の力です」
レンの祝福は〝死ねば諸共=運命共同体〟だという。
二度目の人生で彼が話していた、役に立たないという祝福である。
「〝死ねば諸共=運命共同体〟は生も死も、離れず一緒に分かち合う、愛を捧げた相手と運命を共にする祝福なんです」
そういえば結婚式を挙げたときに、何かが弾けるような音が聞こえていた。
あれはきっと祝福が発動したさいに鳴ったものだったのだろう。
「これからはずっと一緒なんです」
「今後もわたしが死んだら、あなたも死ぬってこと?」
「はい」
その逆も然りだという。
ちなみにレンの祝福はこの先も永遠に作用し続けるようだ。
まさかそんな祝福持ちだったなんて。
「ヴィオラさんが何度も苦しい思いをして、人生をやり直していたなんて……。もっと早く、結婚していればよかったです」
わたしの不幸にレンを巻き込みたくなかった。
けれども結果的に、この先もずっと彼を付き合わせることになるのだ。
「ごめんなさい」
「どうして謝るのですか?」
「だって、これまでわたしがどうやって死んできたか、わかっているでしょう?」
わたしの死は悲惨なものだった。
きっと新聞社が面白がって、大々的な記事にしたに違いない。
「それに五度目、六度目の人生ではわたしの傍にいたせいで、あなたを死なせてしまった」
「ヴィオラさんのせいではありません」
「でも、わたしと一緒にいなかったら、レンは死ななかった!」
もう、こんな悲しい目に遭いたくない。
そう訴えると、レンはわたしの手を優しく握ってくれた。
「二度と、あなたを悲しい目に遭わせません」
「どうやって?」
どこに行っても、わたしに不幸と死がつきまとう。
レンといても、同じような結果になるだけだろう。
「何をするにも、二人で考えましょう。今の私達は、一人ではありません」
「――!」
そうだ、そうだった。
これまでのわたしは一人で考え、死を回避するために行動してきた。
もしかしたら独りよがりな部分もあったのかもしれない。
レンがいたらこれまでとは異なる、別の道を歩むことができる。
「目下の脅威は、ヴィオラさんの〝ブラッティ・ナイフ〟ですね」
「そうなのよ……」
ブラッティ・ナイフのせいで、わたしは石撃ち刑となった。
レンはそんなわたしを助けるために、命を散らしたのだ。
呪いのようなこの魔法は、基本的には術者が死なないと解除されないものなのだろう。
そもそも誰がかけたかもわからないものなので、特定しようがないのだ。
「解除できるとしたら、絶対的な聖力の持ち主――ヒルディスか枢機卿であるゲラルト・ツォーンの協力が必要なのよね?」
「ええ」
ヒルディスの前でブラッティ・ナイフの力が発動したら恐ろしい。
ゲラルト・ツォーンはそもそも簡単に会えるような人物でない上に、わたしの訴えを信じて協力してくれるとは思えなかった。
「ヒルディスを暗殺する呪いがかかっていると訴えても、逆に本気で殺意があるのではないか、とか疑われそう」
「たしかに、ツォーン猊下には言わないほうがよさそうです」
八方ふさがりのような状況かと思いきや、レンがぽつりと呟く。
「世界樹の大精霊ならば――」
「世界樹?」
ヒルディスや枢機卿であるゲラルト・ツォーンよりも、強い聖力の持ち主がいるらしい。




