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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第七章 傲慢たる者に、鉄槌を!

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巻き戻り

 ぽた、ぽたと雨が頬を濡らす。

 石撃ちの刑になった上に、雨にまで打たれているのか。

 なんて考えていたが、雨粒が温かいことに気付く。


「え、何……?」


 瞼を開くと、そこには大粒の涙を流す大精霊ボルゾイの姿があった。


「あなた……」

『申し訳ありませんでした!!』

「なんなの」


 突然いなくなったかと思いきや、わたしの目の前に現れて号泣している。

 腕を伸ばし、わしゃわしゃと撫でてあげると、目を細めていた。

 起き上がると、そこはいつもの鏡合わせの空間だということに気付く。


「わたしは、きちんと死ぬことができたのね」

『はい……』


 大精霊ボルゾイに聞きたいことがある。

 けれどもその前に、彼女の体を抱きしめた。


「だめじゃない、わたしの傍にいないなんて! 守護獣だったら、離れずに傍にいなさいよ!」

『ご、ごめんなさい……!』

「ねえ、どうしてついてこなかったの?」

『わたくしがいたら、あなたが不幸になる、と思いまして』

「いなくても、最高に不幸だったわよ」


 しかしながら、大精霊ボルゾイがいれば不幸になる、というのはどういうことなのか。

 詳しく聞こうとするも、黙りこんでしまう。


「言えないの?」

『わたくしの、わたくし達の、存在理由に関わることでして、お話ししたい気持ちはあるのですが……』


 大精霊ボルゾイはぱくぱくと口を動かそうとするも、声にならない。

 どうやら魔法か何かで言葉を封じられているらしい。


「そんなの、どうでもいいの」

『え?』

「わたし、もう疲れたの。終わりにしたい」


 再度寝っ転がり、限りない天井を見上げる。


「どうあがいても、最終的に殺されるだけ。絶対に幸せになんてなれないの」

『そんなことありません!』


 きれいごとを言う大精霊ボルゾイに、起き上がって抗議する。


「だったら、どうすればいいのよ!! 具体的に教えてちょうだい!!」


 責めるように言ったからか、大精霊ボルゾイはショックを受けたような目でわたしを見つめる。


「ごめんなさい」

『いいえ、わたくしも、無責任なことを申しました』


 今度こそ、幸せになれると思っていた。

 レンと結婚までできたのに。


 二度とやり直したくない。

 けれどもそのようなことは許されないようだ。


「もういっそのこと、あなたを連れてどこか平和な場所に行こうかしら」

『わたくしと?』

「ええ、各地を旅するのよ」


 シュヴァーベン公爵邸からありったけの金目の物をいただいて、王都を飛び出すのだ。


「いいと思わない? 楽しそうでしょう?」

『そう、ですわね』


 もう、人への執着は捨てたほうがいいのかもしれない。

 最終的に、不幸にさせてしまうから。

 六度目の人生もそう覚悟していたのに、いつの間にかレンと結婚までに至っていたのだ。


「時間が巻き戻るのならば、できるだけ大人のほうがいいけれど」

『ええ』


 子どもはとにかく行動に制限がかかる。何かやろうとしても、大人が阻むのだ。

 前回の人生では運よくマルティナ夫人の手を借りることができたのだが、彼女の傍にいたらどうしても注目を集めてしまう。

 次の人生ではなるべく関わらないようにしなくては。


「そういえば、新しい祝福はなんなのかしら?」


 そう呟くと、目の前に文字が浮かんだ。

 〝石撃ち刑ストーニング〟――対象の命を、石つぶてで奪う。


「相変わらず、物騒だわ」


 まあ、いい。何かの役に立つだろう。


「あ、そうだ。わたしのガルムは?」

『わう!!』


 血塗れのガルムにやられていた純白のガルムも、元気よく登場する。


「よかった、無事だったのね」

『くうん!』

「今度は、あなたも一緒に行きましょう」


 ただこの姿だと目立つので、小さな犬になってほしい。

 そう願うと、かわいい小型犬の姿となった。


「血濡れたガルムと一緒の名前なんて、気の毒ね。新しい名前を考えましょう」

『わうん?』


 かわいらしく小首を傾げる。

 そんな子犬に、わたしは命名した。


「ガウラ、というのはどう?」


 ガルムとあまり変わらないが、ガウラは白い花の名前である。

 そのガウラは白蝶草はくちょうそうとも呼ばれていて、小さく可憐な花を咲かせるのだ。


「花言葉は、〝清楚〟と〝負けず嫌い〟。あなたにぴったりでしょう?」

『くうん!』


 どうやら気に入ったらしい。

 ガルム改め、ガウラを抱き上げ、頬ずりしたのだった。


「さあ、ボルゾイ、準備はいい?」

『ええ、ただいま!』


 七度目の人生が始まる。

 大精霊ボルゾイに手を差し伸べると、そっと前脚を重ねてくれた。

 なんだかお手のようになってしまう。


「あなた、お決まりの言葉があるんでしょう?」

『は、はい!!』

「一緒に言うわよ、せーの!」


 声を合わせ、半ば投げやりにして叫ぶ。

 がんボルゾイ!!

 意味はまったくわからないが、頑張れるような気がした。 

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