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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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誓い

 一時間ほど飛んで、下り立った先は小さな修道院だった。

 ここはレンが神学校時代、お世話になった場所らしい。


「ここの神父様はとてもいいお方で、一晩お世話になりましょう」


 夜も更けるような時間だったが、やってきたわたし達を神父様は優しく迎えてくれた。

 血まみれのレンを前にしても理由を聞かず、湯浴みをしてくるといいと勧めてくれた。

 わたしにも、お湯を用意してくれるという。

 六十代くらいの修道女がやってきて、たらいにある湯を床に置くと、わたしの足をきれいに洗ってくれた。


「まあまあ、若いお嬢さんがこんなに汚れて、可哀想に……」


 靴はいつの間にか脱がされ、引きずられるように地下牢へ収納されたのである。

 いろいろな事態に襲われていたので、足下のことなんてまったく気にしていなかったのだ。


「あの、どうして理由も聞かずにわたし達を受け入れてくれたの?」

「それは、かつての私達も同じだったからだよ」


 なんでもここの神父様と修道女は駆け落ちした関係だったらしい。

 結婚式の前日に、一緒に逃げてきたようだ。


「ひと目見た瞬間、私達と同じだとわかったんだよ」


 大丈夫だから、安心して過ごしてほしい。

 修道女は優しく言ってくれた。

 湯を浴びたあと、薄汚れたドレスを着ようとしたが見つからない。

 代わりに、修道女が純白のドレスを持ってきてくれた。


「これは?」

「私が四十年前に着ていた婚礼衣装だよ」


 どうしてこれを? と聞く暇もなく、どんどん着せられる。

 さらに化粧を施され、髪を結い上げてくれる。


「さすがにベールはなくてね。レースのカーテンで我慢してくれよ」


 そう言って、なぜかレースのカーテンを頭の上から被せられた。

 連れて行かれたのは、礼拝堂。


「ここは?」


 その疑問に答えたのはレンだった。

 いつもの板金鎧姿ではなく、聖騎士の白い正装姿での登場である。


「ヴィオラさん、神父様が結婚式を挙げてくださるそうです」

「今から、ここで?」

「はい」


 板金鎧は装着しなくて大丈夫なのかと問いかけると、少しであれば問題ないという。


「ヴィオラさん、とてもきれいです」

「ありがとう。あなたも素敵よ」


 それにしても、結婚式を挙げることになるなんて。

 逃げるにしても、赤の他人よりは夫婦のほうが都合がいいようだ。

 レンはそう言ってわたしの手を握る。


「ヴィオラさん、私の妻になってくれますか?」

「わたしで、いいの?」

「あなたしか、考えられません」


 レンの求婚に、胸がいっぱいになる。

 彼はわたしのために、聖騎士を手にかけた。

 輝くはずだった将来も、潰してしまったのだ。

 それなのに、レンは変わらずわたしを妻に迎えてくれるという。


 この先も、彼と生きよう。

 他人の人生を踏み台にしてでも、幸せになりたい。

 わたしも覚悟を決めた。


 礼拝堂には蝋燭が灯され、夜の神聖な雰囲気の中、結婚式が執り行われる。

 レースのカーテンで代用したベールは、修道女がそっと摘まんであとに続く。

 祭壇では神父様が待っていた。

 参列者は誰もいない。

 静かな結婚式だった。


 祭壇の前に立つと、修道女は参列席に座り、わたし達の結婚式を見守ってくれるようだ。

 神父様が開式を宣言する。

 聖書にある夫婦としての在り方を説き、祝福を捧げてくれた。

 最後に、誓約を行う。


「神に愛されし新郎、新婦よ。汝らに問いかける」


 まずはレンのほうを見て、語りかけた。


「新郎、汝は家庭に愛と平和をもたらし、忍耐と和合、尊敬を持って妻となる者を支え、困難のさいは共に耐え、喜びのときは共に感謝し、永遠の愛を誓えるだろうか?」

「はい、誓います」


 神父様はわたしにも、同じ問いかけをしてくる。


「新婦、汝は家庭に愛と平和をもたらし、忍耐と和合、尊敬を持って夫となる者を支え、困難のさいは共に耐え、喜びのときは共に感謝し、永遠の愛を誓えるだろうか?」

「はい、誓います」


 誓いの口づけをするように促される。

 レンはレースのカーテンで代用したベールを取り、まっすぐな瞳で見つめてきた。

 顔を上げ、瞼を閉じる。

 すると、そっと優しく触れるような口づけが落とされた。

 それと同時に何かチカッと光った気がしたが、なんだったのか?

 瞼を開くと、幸せそうに微笑むレンと目が合った。


「これにて、彼らは神に夫婦として認められた――!」


 無事、レンと夫婦になれた。

 と、安堵したのもつかの間のこと。

 神父様と修道女が退室していった礼拝堂に、突如として魔法陣が浮かび上がる。

 そこから這い出てきたのは、血まみれの狼。


「なっ――!?」


 それはラルフ・ガイツが使役する魔獣、ガルムだった。

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