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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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彼女が現れたわけ

 ヒルディスの格好は明らかに祝いの場に相応しいものではない。

 彼女自身も、会場の様子を見て驚いているようだった。

 すぐさまマルティナ夫人が駆けつける。


「大聖女ヒルディス、今日はいったい何用でこちらに?」


 暗に、招待していないのにどうしてここにやってきたのか問いかけているようだ。

 ヒルディスは戸惑う表情を浮かべつつ、口を開いた。


「わたくしの妹であるヴィオラの訃報が届いて、葬儀があるから参加するように、と……」


 ヒルディスは真っ黒な封筒に入った手紙を取りだしながら説明する。


「失礼」


 手紙を読んだマルティナ夫人はハッとなる。


「これは、エドウィン・フェレライの文字だ」


 どうやらこの茶番はエドウィン・フェレライの嫌がらせだったらしい。


「大聖女ヒルディス、ヴィオラはあの通り生きている」

「まあ、ヴィオラ、よかった!」


 ヒルディスは感極まった様子でいた。

 それだけでなく、嬉しそうに駆けよってくる。


 どうして?

 わたし達、そこまで親しい姉妹ではなかったのに。


「ヴィオラさん! 下がりましょう!」


 周囲の声が遠く聞こえる。

 視界もぐらぐらと歪んでいった。


「ヴィオラさん!!」


 誰かがわたしの背中に触れた瞬間、がくりと膝から崩れ落ちる。

 全身が脱力し、自分の体なのに誰かに支配されているような感覚に陥る。


 ヒルディスがわたしの目の前にやってきた瞬間、真っ赤な魔法陣が目の前に浮かび上がった。


「あら?」


 ヒルディスが不思議そうな顔で魔法陣を覗き込む。


「危ない!!」


 誰かが叫んだのと同時に、魔法陣からヒルディスめがけて短剣が突き出てきた。


「――!!」


 ここで意識が鮮明になる。

 ヒルディスの心臓めがけて飛んで行った短剣は、突き刺さる寸前でレンが剣で弾き飛ばした。


 人々の悲鳴が響き渡る。

 ヒルディスの護衛をする聖騎士が駆けつけ、「暗殺だ! 捕らえよ!」と叫んだ。

 誰かが乱暴に腕を掴む。


「止めてください、ヴィオラさんに触れないでください!!」


 レンの叫ぶ声が聞こえた。

 彼も聖騎士達に取り押さえられている。

 ついに、ブラッティ・ナイフが発動してしまったのだ。

 レンがいたおかげでヒルディスの胸に刺さることはなかったが。


「ヒルディス様、お下がりください!!」

「え、ええ……」


 ヒルディスが持っていた百合の花はいつの間にか手から離れ、聖騎士達が踏みつけて散り散りになっていた。

 それを見て、まるでわたしの人生のようだと思う。


 わたしは一度目の人生以降、二度目の拘束を受けたのだった。


 ◇◇◇


 連れてこられたのは、大聖堂の地下牢。

 最低最悪の環境は何度人生を繰り返しても忘れるはずがない。

 まさか婚約パーティーの場でブラッティ・ナイフが発動するなんて。

 わたしの葬儀だと偽り、ヒルディスを会場に招待したのはエドウィン・フェレライだった。

 なんて狡猾なことをしてくれるのか。

 怒りで震えてしまう。

 幸いと言うべきか、レンはブラッティ・ナイフの脅威からヒルディスを守ってくれた。

 彼は今後も何事もなく、聖騎士として在ることができるだろう。

 わたしは――きっとろくな結末ではないことはわかりきっていた。

 一方的な酷い裁判が開かれて、残酷な処刑が執り行われるに違いない。

 どうしていつもいつもこうなってしまうのか。

 毎回行き着く先が決まって死が待ち構えている。

 やり直しをする意味なんてない。

 今度はどうやって死ぬのか。

 斬首刑か、それとも首つり刑なのか。

 もう好きにしてくれ。

 そんな諦めの境地にいたのに――。


「ぎゃあ!!」


 地下牢を守る聖騎士の、断末魔に似た叫びが聞こえた。


「え……なんなの?」


 わたしの疑問に、誰かが答える。


「お迎えにあがりました」


 気配なく現れたのは、真っ赤な板金鎧を纏う騎士。

 悲鳴をあげそうになったものの、寸前で呑み込む。

 その声はよく知っているものだから。


「レンなの?」

「はい」


 手には地下牢の鍵が握られていて、いとも簡単に解錠してくれた。

 純白の板金鎧が赤いのは、すべて返り血のようだった。


「あなた、どうして?」

「一緒に逃げましょう」


 レンはわたしの体を支え、立ち上がらせてくれた。


「このままここにいたら、ヴィオラさんに不利な裁判が開かれ、処刑されてしまいますので。急ぎましょう」


 レンはわたしの体をマントで包み込むと、横抱きにして走り始める。

 地下牢の床には、聖騎士達が血だまりの中で倒れていた。

 レンはわたしを助けるために、ここまでしてしまったのだ。

 罪悪感がこみ上げてくる。


 レンは風のように大聖堂を駆け抜ける。

 内部の構造を把握しているからか、誰にも会わずに外まで出ることができた。

 裏庭の開けた場所に竜を待機させ、背中に乗って飛び立つ。

 あっという間に大聖堂の地下牢から脱出してしまった。


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