表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?  作者: 雨野しずく
第一部 婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?
5/28

第5話 形式上のはずなのに、護衛が多すぎます公爵様

――それは、買い物に出かけた帰りのことだった。


「ふぅ、久しぶりに外の空気を吸えた気がします」


 私は馬車の中でほっと息をついた。

 今日は屋敷の許可を得て、久々に街の書店とカフェに立ち寄ったのだ。

 公爵夫人という立場になってから、初めての外出だった。


 とはいえ、「公爵の妻」として過剰に目立つのは避けたい。帽子を深くかぶり、ドレスも控えめにした。


(誰にも気づかれずに済んだわよね)


 そう安心していた、……はずだったのに。


「アリシア様、何事もなくお戻りいただけて何よりでございます」


「えっ?」


 屋敷に戻った瞬間、執事長が深々と頭を下げた。

 その背後から現れたのは、まさかのクレイグ公爵。


「……問題はなかったか?」


「な、なぜ公爵様がここに……?」


 私は慌てて立ち上がる。

 彼はいつもなら執務に忙しいはずなのに。


「少々、確認すべきことがあっただけだ」


 そう言うと彼は私をじっと見つめ――


「お前の護衛たちから、すでに報告は受けている」


「……護衛?」


「君の行動を、影から五人が監視していた。内三人はカフェに潜入、残りは建物の屋上と裏通りだ」


「…………五人もですか?」


「当然だ。公爵夫人に万一があっては困る」


「でも……形式上の妻ですよね?」


 皮肉混じりにそう言った私に、公爵は目を細める。


「形式上、命の価値が下がるわけではない」


 真顔でそんなことを言われたら、反論できなくなってしまう。


「それに、お前は思ったより人気があるようだ」


「……え?」


「君が訪れた書店の店員が、君を見て『最近、噂の“新妻様”では?』と囁いていたと報告があった」


「うそ……帽子も深くかぶってましたし、誰も気づかないと思ったのに」


「甘いな。君は意外と目立つ」


 それって、どういう意味だろう。

 声に出せないまま戸惑っていると、公爵はふと視線を落とした。


「……気をつけろ。お前はもう、“私の妻”だ。狙われる理由は、以前より格段に増えている」


 その低く鋭い声音に、私は胸を突かれた気がした。

 それは、命令のようでありながら――どこか、とても強い“気遣い”だった。


(この人、やっぱり冷たいだけじゃない)


 護衛をつけるのも、街中で噂を気にするのも、すべては私を守るため。


「……ありがとう、ございます。公爵様」


 彼は少しだけ目を見開いたが、すぐに視線をそらし、いつもの無表情に戻った。


「礼は不要だ。ただ、次回は出かける前に予定を提出しろ。動きづらい」


「……はい」


 思わず笑ってしまう。

 それはたぶん――彼なりの“やきもち”だったのかもしれない。



 夜、部屋に戻ると、机の上に一冊の本が置かれていた。

 それは、昼間の書店で手に取ろうとして諦めた、高価な初版本だった。


(どうして、ここに……)


 誰が置いたのか、聞かなくてもわかる。

 私はそっとページをめくりながら、頬に手を当てる。


 契約結婚。形式上の妻。

 でも、私の中で、それは少しずつ変わってきていた。


(あの人の隣にいるのが、だんだん……心地いいと思えてきてしまってる)


 その気持ちは、きっと“契約”の中にはないもの。

 だからこそ、怖くて、でも――嬉しい。

これにて第1章・完になります!


続編も気になる、という読者の方がいらっしゃれば


「お気に入り」や「感想」を残していただければ嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ