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第8話 その司書、急ぎの仕事


 自分の規格外さを自覚してから、どうにか常識の範囲内に収められないかと思ったものの、どこまでが常識でどこまでが規格外なのかが分からない。ルクスに聞いてもお前には無理だと言われてしまった。シルに聞けば、果ての司書はみんな規格外だから諦めろと言われた。

 俺はしばらく果ての図書館に入り浸るように本を読み漁った。主に剣術や魔術、学園などで教科書として使われている本だ。読み漁ってみればどれもこれも似通った内容だったが、全て簡単だと思ってしまった。ようやく実感した気がした。俺の中の簡単は、他人の難しいだ。


 ため息を吐きながら部屋に山積みになった本を見る。こんなに読んだのに、難しいと感じる本はなかった。

 オリアスは自覚していなかったことがひとつ。部屋に山積みになった本は決まった国もなく、違う言語で書かれていた。オリアスにとっては、言語の壁なんてないことを知るのはまだ先だろう。


 オリアスは少し憂鬱になりながら本を元の場所に戻しに行く。よく考えてみれば、今まで読んだ本の中には学者が必死に研究してやっとのことで書き終えた本が山ほどあった。それは全てを理解できてしまうのは規格外という他ない。

 広い図書館を一周した後、ようやく全ての本を仕舞い終えた。正直場所は覚えていなかったが、本の裏に押された印が場所を示してくれる。一々探す必要がないのは助かる。


 部屋に戻ろうかと思ったところで、ヒラリと鳥型の紙が飛んできた。最初にオリアスを世界一周させた紙だ。仕事を始めてから知ったが、この紙は図書館の意思によって動いている。

 手を伸ばせば紙がふわりと手に乗り、静かに開いた。和の国では折り紙と言っただろうか。開いた紙には箇条書きでいくつかの本の名前が書かれていた。


「仕事か……今回は和の国だな」


 極東に位置する海に囲まれた島国。それが極東。俺が最初にシルと行った国だ。海に囲まれているからか、他の国の文化があまり入ってこず、かなり独特な独自の文化体系を持っている。服、建物、文字、全てが俺の常識とかけ離れた国。

 けれどそのせいか、話の国の本は面白い。独自の文化は未知の世界で、宗教のようなものも他とは違う多神教。しかもほとんどが無宗教という特殊な国だ。ここは特に飯が美味い。何故かは知らないが食事にはかなり強いこだわりがあるようで、和の国の食事はどれも美味しい。今すぐにでも行きたいところだが……


「もう夕方か……行くのは明日だな」


 早めに帰らないと両親が心配する。流石に今きたばかりの仕事なのだから、少し期間はあるはずだ。そう思って題名が書かれた紙を見る。


「は!? 明後日まで!?」


 なんとびっくり、明後日までだった。流石にそれはキツい。全て和の国の本とはいえど、和の国の端から端まである。和の国は一部陸で繋がっていない場所もある。飛んで行ったとしても二日はかなりキツい。けれど今日これから行くには遅すぎる。なんだってこんな期限が短いんだ。


「とりあえず明日と明後日は泊まりだな。父さんと母さんにも言っておかないと……」


 〜


「よし、行くか!」


 昨夜家に帰った後、両親には二日程仕事で泊まってくると言っておいた。今までであれば心配されたのだろうが、今の仕事内容を少し話しているからか、楽しんで来いと逆に送り出された。

 まぁ、仕事がなければただただ図書館で本を読む無職と変わらない。仕事だって、本の収集のために世界中飛び回ってなんだかんだ楽しんでいる。行った先での出来事を話していれば、両親も自然と俺が楽しんで仕事をしていることを理解してくれた。


 そして俺は泊まるための用意なんて何もせずに現地調達するつもりで仕事に出かけた。なんとも無計画である。一度王都の図書館の鏡をくぐり、果ての図書館に行くと、すぐに収集リストと収納用のマジックアイテムを持って和の国への鏡を通った。

 和の国は国土が狭いからか、極端に図書館が少ない。数えると片手で事足りる程の数しかない。けれど他と比べて比較的狭いというだけで、決して一日で回れるような広さでもない。しかも図書館が少ないせいで移動は魔術で飛ぶことになるだろう。


 だというのに約二日で全ての本を集めて図書館に納めろだなんて無茶を言う。一体どうしてそんなことになったのか。だが図書館に意思はあれど会話はできない。文句のひとつでも言いたいところだが、ここは我慢してとにかく早く本を集めよう。

 それに、シルに聞いた話では図書館は何の意味もなく期限を設定しているわけではないらしい。何か意味があるのだとしたら、確かに早く仕事を終わらせなければいけないのだろう。念のため和の国の通貨を多めに持ってきた。図書館に戻れなくなったら、最悪和の国で宿を探そう。どうせ経費で落とせるし、本の代金は元々図書館から受け取っている。原理は知らない。


 出たのは和の国の最南部。ここは和の国の本州と呼ばれる中央の島から一度海を隔てた小さな陸だ。図書館はひとつ。集める本もここは少ない。早々に終わらせて本州に行くつもりだ。なんせ本州が一番本の数が多い。

 図書館から出て少し歩いた場所にある本屋に入る。あまり見た事がない巻物も置いてある本屋だった。和の国では珍しくもないのかもしれないが、俺には馴染みのないものだ。果ての図書館で読もうとした時は少し苦労した。読み終わった部分を床に広げて良いものかさっぱり分からなかった。後から知ったがちゃんと読み方があったらしい。


「おじさん、オリアスって名前で本を頼んでたと思うんだが……」

「あぁ、ちゃんとあるよ。こんなとこ、そうそう人も来ないんだから頼んでおかなくたって置いてあるよ。今度来るときは頼まなくても良いからね」

「いや、買いたい本がないって事もあるだろ?」

「それなら他を当たれ。目当ての本を探すのも醍醐味だと思うがね」

「店主の台詞か、それ」


 店の店主らしからぬ発言をするおじさん。まさか自分の店ではなく他の店で買えと言われる事があるなんて思わなかった。それに頼んでいるのは俺ではなく図書館の意思だ。どうにもできないので諦めてもらおう。俺は今後も本を頼んだと言いにくると思う。多分。

 店主のおじさんに礼を言ってから店を出た。まだまだ仕事は始まったばかり。とりあえずこの近くで集める本はない。次に行くのは本州と呼ばれる場所だ。ここがまぁ一番広くて大変なんだが……


 図書館の鏡を使うより飛んだ方が早いと思い、俺はふわりと飛んで海を渡った。

 

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