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第7話 その司書、自覚する


「つ、疲れた……」


 結局あの後、またあれこれ聞こうとするラークから逃げるように冒険者ギルドを出た。すると物凄い勢いで追いかけてくるラークに驚きながら国境まで全速力で飛んで逃げた。国境さえ出てしまえばこっちのものだ。

 なんとかギリギリラークに追いつかれる前に国境を越えることができた。俺を追いかけようと、同じように国境を越えようとして止められていた。ギルド長が簡単に国から出られるわけないだろう。その隙に俺は隣の国まで飛んで、図書館の鏡から果ての図書館に帰った。


「ん? なんだ、遅かったね」

「し、シル……お前……知ってたな……!」

「なんのことだか」


 悪い笑みで疲れ果てた俺を見下ろすシルに、なんとなくこうなる事が分かっていて言わなかったのだと気付いた。それも明らかに悪意がある。わざと言わなかったんだ。シラを切るシルを睨みながら俺は地面に倒れている。

 どうせ何言っても認めないだろうし、証拠もない。俺はただシルに揶揄われるだけだ。悔しい……


「んで、どうだったんだ?」

「冒険者登録は出来た。ただとっとと終わらせたくて試験官ボコボコにしたらCランクになってなんでかギルド長から依頼受けろって言われた。んで受けた依頼が凍った火山の調査でその火山凍らせたの俺でめちゃくちゃ怒鳴られた」


 そう言うと、シルは俺を指差しながら大声で笑い出した。俺がムッとした顔をすればそれを見てまた笑い出す。何がおかしいのか俺にはさっぱりだ。シルは腹を抱えてずっと笑っている。せめて説明して欲しい。


「はぁ……おまえっ、面白過ぎるだろ。あー笑った笑った」

「何がおかしいんだよ」

「こういうのは自分で気付かなきゃ意味ないからな。めちゃくちゃ分かりやすいヒントをひとつだけやるよ。お前、果ての図書館の司書になれるような奴が、普通だと思うか?」


 果ての図書館の司書は、この世界の全ての人の中でたった十人しか選ばれない貴重な仕事だ。俺みたいに本好きには堪らない仕事。けれど仕事内容はかなりハードだ。世界中を飛び回って新しい本を全て図書館に納め、偶に襲ってくる魔物より強い魔獣を倒す。

 戦闘力と知識量、世界中を飛び回れる体力に、言語能力。言われてみれば果ての司書なんてそこら辺にいる適当な人ができる仕事じゃない。


「もしかして俺……全然普通じゃないのか?」

「ようやく気付いたか。普通じゃないどころか、規格外だ。普通じゃない果ての司書の中でも飛び抜けておかしい規格外。もっと自覚しとけよー」

「ふざけんな! 最初から知ってたんなら教えてくれたって良いだろ!?」

「何言ってんだ。私が教えたら面白くないじゃないか。それに、そのくらい自分で気付け」


 ごもっともである。だが、俺が本当に規格外ならルイスは気付いていたと思うんだが……そういう事は一度も言われたことがない。正直、俺に友達と言える人といえばルイスしかいない。

 学園時代からルイスは俺とよく一緒に行動していた。他に貴族とか、知り合いもいるだろうに、俺とばかり。なぜかと思えば、貴族とか王だとか、俺は気にしないから。そう言われた。そういや、俺がクビになった時以来会ってない。


「とりあえず今日は帰るか」

「おー。帰るんならさっさと帰りな」

「お前の家じゃないだろ」


 シルにさっさと帰れと言われ、セリスト王国の図書館に繋がる鏡をくぐる。既に日が暮れていて辺りは真っ暗。早く帰ろう。父さんと母さんを心配させてしまう。家に帰れば、用意された食事と出迎えてくれる両親。暖かい。


 〜


 次の日、俺はルイス宛に手紙を書いた。三年前、俺がこの国の司書として働いていた時は割と自由にルイスと会えていた。けれど今の俺は果ての司書。この国の司書でない以上、国王であるルイスにはそう簡単に会えない。

 そういや、セリスト王国の図書館には今司書はいるのだろうか。ほぼ毎日図書館には行くが、司書らしい人を見かけたことがない。俺が辞めてからもう三年。ルイスは一体どうしているだろう。あのジジイは無事禿げただろうか。


 学園で、俺は割と孤立していた。そんな時に話しかけてきたのがルイスだった。俺からしたら、ただ司書になるためだけに通っていた学園で、特に馴れ合いとか、友達付き合いとかするつもりはなかった。ただ自然と、ルイスとは話が合った。

 俺はただ本が好きだった。できることなら世界中の本を全て読みたいと思っている。それは今でも変わらないし、むしろ昔よりずっと叶えやすくなった。ルイスはそんな俺の話を聞いて、笑ってはいたが、バカにはしなかった。

 良い友人を持てたとは思っている。


 〜


 数日後、どうせしばらく仕事はなさそうだからとのんびり本を読んで過ごしていた。夕方頃、日が暮れる前に図書館を出て家に帰ると、当たり前のようにルイスが母さんと話をしていた。


「なんでいんの?」

「お前が呼び出しだからだろ?」

「まぁ……」


 呼び出したと言うより、話がしたかっただけなんだが。別に俺のことを王城に呼び出したって良かった。むしろその方が妥当じゃないのか? 国王自ら家に来るなんてまずあり得ないだろ。そもそも三年ぶりだというのに気軽過ぎないか。もっとこう……久しぶりだな、とか三年ぶりとか、そういうのないのか?


「それで、話したいことって?」


 ルイスはなんでもないことのように俺に問いかけた。俺はルイスの向かいに座り、深妙な面持ちで口を開く。


「ルイス……俺は、規格外なのか?」

「オリアス……ようやく気付いたのか?」

「俺、規格外なのかぁ……」

「いやぁ、俺としてはようやく自覚を持ってくれて本当に嬉しいよ。このまま自重も覚えてもらいたいね」


 ルイスは俺が規格外だと気付いていた。そして俺に自覚がないことも分かっていた。つまり、俺は完全なる規格外、確定である! 困った。非常に困った。なんせ実感がない。なんでもやればできたから、みんなできるものだとばかり思っていた。

 

「自重って……どうすんだ?」

「はぁ、そこはダメか…………」


 呆れられた。待てよ……じゃあ俺って……今まで結構やな奴じゃないか!? 通りで孤立してたわけだ。周りからしたら嫌味に聞こえるだろう。それならラークの話もあながち間違ってないってことか。もしかして俺……やらかした?


「んで、今度は何やらかした?」

「やらかした前提なのか?」

「やらかしたりでもしないとお前は自覚しない」

「俺より俺のこと分かってる……」


 俺はことの経緯を全て順序立てて説明した。


「まず、移動中に襲ってきた魔物を狩ってたんだが、いつまでも持ってるわけにはいかないだろ? それで冒険者登録して倒した魔物を売ろうとしたんだ。そしたら登録には試験がいるってなって……」

「そうだな。最低限戦う力がないと、冒険者はやっていけない。けど、お前にはそんなに関係ないんじゃないか?」

「あぁ。面倒だったから試験官をボコボコにしてCランクスタートになった」

「そうだったな。お前が何もやらかさないわけないよな……」


 頭を抱えてしまったルイス。なんか申し訳ないなと思うが、もしやこれもやらかしかと今気付いた。


「もしかして……試験官って倒しちゃダメなのか……?」

「普通倒せないもんだよ……」

「倒せないのか!? 倒しちゃダメなんじゃなく!?」

「その様子だと……お前他にもやらかしたな?」


 ギクリと目を逸らす。これはまだまだ序の口。そもそもやらかしたとすら思っていなかった。本当にやってしまったことといえば……


「その……三年くらい前にイリス公国の近くの火山が氷付けになった話って聞いたことあるか?」

「当然だ。今でも大問題になって……まさかそこに行ったのか?」

「いや……ギルド長の依頼で調査に行ったんだが……その……」

「オリアス。俺は何があってもお前の友人でいたいと思ってるよ。けどな、こればっかりは別だ。さっさと話せ」

「俺が三年前にドラゴンに襲われて山ごと魔術で凍らせました!!」

「こんっのバカ!!」


 思わず怒鳴ったルイスは俺の頭に拳を落とす。

 痛がる暇もなく、俺は長い説教を受けることになった。

 

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