第5話 その司書、魔物を売る
試験を終え、再び受付に戻ると呆れた顔でカードを渡された。カードにはCと書かれてあり、明らかに冒険者をはじめたての奴がなるランクではなさそうだ。
「おい、なんで最初からCランクになってるんだ?」
「お前なぁ……テストでめちゃくちゃやったそうじゃないか。魔術で的を壊して剣術で試験官をボコボコ……そんなやつをFランクから始めさせる訳にいかないんだよ」
「まぁ、正直どうでも良い。それより、魔物の買取はできないのか? 冒険者登録したら魔物を売れるって聞いたんだが……」
「お前魔物の素材売るためだけに冒険者登録したんじゃないだろうな?」
何かまずかっただろうか。別に魔物を売るためだけに冒険者登録しても問題はないはずだ。冒険者登録をしたら絶対に依頼を受けなくてはならないなんてルールはない。そもそも貴重なマジックアイテムがひとついっぱいになりそうなんだ。荷物を減らすために魔物を売るのは何もおかしくないだろう。
Cランクのカードを見ながら流し気味に説明を受ける。早く終わってくれないかなぁと聞き流し気味に聞いていればちゃんと聞けと怒られた。なんでも急にCランクからはじめさせてしまうから冒険者としてのルールなんかをしっかり覚えておかないとランクを下げるぞと、簡単に言えばそんな事を言われた。
ランクは正直どうでも良いんだけどな。俺は依頼を受ける気はまずない。俺の仕事は司書であって冒険者じゃない。何より冒険者として働いている時間があるなら本を読みたい。俺は冒険者を本業にするつもりはない。
ちなみに、冒険者は定期的に依頼を受けなくてはならず、ランクによってその期間が異なるそうだ。なんと面倒な! Cランクの期間は一年間だそう。Bランクに上がれば三年になり、Aランクは五年、Sランクに至っては素行や依頼失敗などの問題さえなければ期間は決まっていないそうだ。
Sランク冒険者を囲っていたい貴族もいるんだそう。ま、俺には関係ない話だ。依頼は最低限で良いし、本の収集に邪魔になりそうな魔物を早く売ってしまいたかっただけだし。
「おいちゃんと聞いてたか? まぁ良いか。じゃ、なんでも良いから今日依頼ひとつ受けてけよ」
「めんど……いやそれより魔物を売りたい。多分ここじゃ入りきらないと思うんだが……」
「あー……入りきらないなら裏だな。おいエルリ、ちょっと来てくれ!」
エルリと呼ばれた女性が隣の受付にいた女性が裏まで案内してくれた。裏というと訓練所かと思ったが、倉庫のような別の場所だった。かなり広い空間で、奥に棚に乗った魔物の一部のような物も見える。
ここで魔物を売るのか。正直ここでも入りきらない予感しかない。だってマジックアイテムひとついっぱいになるくらいあるんだぞ?普通ほぼ無尽蔵なのかって思うくらい入るマジックアイテムがもう入んない勘弁してみたいに言ってくるんだ、ここに全部出せる訳ない。
「私はエルリと申します。この冒険者ギルドの受付と鑑定士を担当しております。よろしくお願いしますね。では、こちらに魔物の素材を出してください。鑑定が終わり次第、報酬を出させて頂きます」
「えっと……じゃあ…………」
流石に全部一気に出せない。半分くらいなら出せるか?マジックアイテムから魔物をひたすら出していく。ギリギリ半分出せそうではあったが、流石にやめておいた。鑑定すると言っていたし、あまりぎゅうぎゅうに敷き詰めてもやりづらいと思ってやったんだが……
「な、何この量……!? ちょ、ちょっと応援呼んできます!」
「あ、これまだ…………行っちゃった……」
慌てて出て行ったエルリさんが数人のギルド職員を連れて戻ってきた。中には俺の受付をしてくれていた男もいた。鑑定はできなさそうだが、野次馬で来たのか、それとも別の仕事できたのだろうか。ま、俺には関係ない事だな。
「お前……規格外だとは思ってたが、なんつー量だ」
「溜まってたからな。これでもまだ半分もいってないぞ」
「は!? 半分!?」
「そういやあんたなんて名前なんだ?」
「それどころじゃねぇだろうが!!」
急に怒鳴るな驚くだろう。何がダメなんだ、魔物を溜め込んでいたからか? でもさっきシルに教えられるまで知らなかったんだから仕方ないじゃないか。俺自身が倒した魔物しか入っていないはずだし……一体何が問題なんだ?
「C、C、B……Aランク!?」
「お前一旦こっち来い。お前らはここの鑑定頼む!」
「え、なんなんだ……」
てかお前名前なんだよ!?
連れてこられたのはギルド長の部屋。待ってくれ、登録初日に呼び出されるような問題は起こしていない。せめて何がまずかったのか教えてくれ!
ギルド長の部屋には誰もおらず、書類だけが机に積まれていた。人がいる気配もない。やっぱり、この受付にいた男がギルド長か。通りで強そうな訳だ。
「さて、俺がギルド長ってのはお前も気付いてたんだろ? んで、お前がやった事について何か言い訳はあるか?」
「そもそも俺は何もやってない」
「あんだけの魔物倒しといてか? 最近森の魔物が減ってるっつう話を知らないのか……冒険者以外でも何かの前触れかって噂になってたんだぞ」
「俺は司書だぞ? 知る訳ないだろ」
元々冒険者でもなければこの国の人間でもない。ここに来るのは本の収集のためだけだ。噂なんて知らない。つまり俺が知らず知らずのうちに魔物を倒していたせいで森の魔物が減って問題視されていたってことか。正当防衛だし、魔物を狩ること自体おかしくはないから俺は悪くない。
「もうお前が規格外だって事は分かった。常識もズレてるって事もな」
「失礼な事言うな。俺の常識は極めて一般的だ。そういやあんた名前なんだよ、何回も聞いてんのに答えてくんねぇじゃん」
「はいはいもう良いよ。俺はラークだ。んじゃ本題だ、お前にひとつ受けて欲しい依頼がある」
至って真面目そうに言うラークに俺はひと言こう言った。
「嫌だ!」
冒険者業をするつもりはない!