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惑星文明監督官の心構えについて

低開発な惑星の文明を監督する上で、大切な心構えは何か?

オンライン形式で現役の文明監督官のお方が心構えを伝授してくれます。

貴方の進路にも役立つことでしょう。

こういった辺境の惑星で文明発展の監督官なんてやってますとね。

まぁ原住民の連中がある程度の発展段階に到達して、電波なんぞを通信手段に使い始める訳です。私も暇だから、そういう原住民の通信を傍受したりもするんですな。電波ってのは、惑星近傍にいないと聞き取れないもんだから結構地表を探査ユニットでうろついたりなんかしてね。すると面白いことを原住民諸君は言っている。


「なんで異星人は我々人類に接触してこようとしないのか?」


今日はね、オンライン講義第一回目ということもあるから、大学生諸君にも解りやすいように嚙み砕いて説明してあげようと思います。


まず、何故我々は開けっ広げに低開発な惑星の文明に接触しないのか?この理由は割と簡単で、

『そもそもこの惑星を代表するのが誰なんだか検討が付かないから』

が一番大きな理由だったりする。

だってこの原住民によれば地球とかいう惑星には、200もの国家が存在するわけです。しかも惑星の何処かしらでいつも戦争だか内戦だかが起きている。となれば何故我々はそんな面倒くさい星にわざわざ首を突っ込まないといけないのか?人間社会ってのはね、中途半端に手助けすると余計に恨まれるものと相場が決まっています。それに惑星で起きている戦争なんてのには、よほどの事がない限りは介入するべきではないんだ。これが一つめ。


二つ目はね、歴史の教訓というヤツだ。

それこそ我々の大先輩、今を遡ること2万年前の我々は、こういう面倒なことを考えないで皆やりたいようにやってたんです。つまり、文明を授けたい種族はこの惑星の原住民と接触するし、関りを持ちたくない種族は徹底的に距離を保つという。

でもこうするとね、原住民同士での争いが激化するんだ。3歳児に銃を与えるようなもんだと言えば通りやすいんじゃないかな。そのうち惑星の原住民同士で内戦を起こしてどうにもならない所まで行きついてしまう可能性が非常に高いし、現にそうなったこと一回あったんですよ。無責任に原住民へ技術供与したせいで、この惑星が崩壊一歩手前、惑星単位の全面戦争ギリギリになってしまったというね。(要するに『介入に足るよほどのこと』というやつさ)


皆さんもご存じの通り、我々知性体なんざ、宇宙に星の数ほど存在する。そしてまるきり環境の違う星で文明を育んできた訳だから、もうお互い理解することなんて土台不可能なんだ。他の種族が何をしようとあまり関わらないほうがいい。

でもこのときばかりはね、これ、ヤバいんじゃないかって話が起きましてね。だってほうっとけば、これ惑星ごと、この原住民滅びそうな勢いだったからね。

100年前まで狩猟採集で生活している社会を無理やり2,3世代で近代化させようとすると必ず何処かに歪みが生まれるもんだ。このときもそうさ。2,300年前まで狩猟採集やってたやつらに核ミサイルあげたもんだから、この星ごと滅ぼしそうな勢いになっちまった。最終的に小惑星を地球にぶつけて、一旦社会を崩壊させてから再出発させたんだけどね。

これ、原住民の間じゃあ宗教のモチーフっていうか神話にまでなってます。凄かったらしいよ、この恒星系のガス状惑星近傍から小惑星を(それも直径10kmくらいの)を適当に選んで、地表にぶつけたんだから。


当時この地球上には、分厚い凍てついた氷床が各所にあったんだがね。そのときの軍事作戦ではまず氷床に集中的に小隕石を雨あられと降らせたんだよ。するとどうなるか、氷が溶けて大洪水が起きますね。世界的なレベルでね。もうこんな作戦思いついたヤツは悪魔じゃないかなと。しかも性質が悪いことに、大気中に巻き上げられた塵だのなんだのが太陽光線を遮ったせいで、その後劇的な気温低下が生じた。これでもう、この惑星の文明はおじゃんですわね。一部ではこの大洪水は「ノアの洪水」とか言われてるそうだが、まぁ原住民にとっては災難だよねー。あ、災難じゃすまないな。

それに後先考えずに原住民へ技術供与すると、そういう技術供与を餌にこの惑星で色々と悪いこと企もうとするヤツもやってくるんだ。意味もなく原住民やこの惑星に生息してる生き物を捕獲するみたいなね。

一説にはこの惑星の偉い奴らにゴミみたいな技術をチラつかせてさ(それにしたって彼らにとっちゃあ、歴史が変ってしまうレベルのものだ)、そういう犯罪を見逃してもらおうとかいう不届きものもいるらしい。或いは地球人と交配実験してみるとかね。そういうのは自分達だけでやりなさいよってなモンだが・・。狂った科学者ってのはいるものさ。

ま、こういう事を教訓として、『下手に未開の惑星に接触するべからず』という掟みたいなものが形作られていったといってもいい。不用意な技術供与なんてのは、誰の得にもならないよねと。


三つ目、これが一番デカいんじゃないかな。よく聞きますよね「痛い目を見ないと覚えない」って言葉。これって文明の技術発展でも言えることなんだよ。

こちら側で用意した技術発展ツリーの通りにさ、こう大学のカリキュラム宜しく未発達な惑星へ技術供与するとね、文明の発展経路とかに疑問を抱かなくなる。いや、それ以前に自分達で学問の研究とかしなくなるんだ。科学が止っちゃう感じね。勿論、技術的な進歩はするんだけどさ。すると文明として、達成できる水準が見えてきちゃうんだよね。これは彼ら自身にとって可愛そうだし、我々の使命にも悖る。

ここについては、難しいかもしれないから後でまた解説します。


まぁそんなこんなで、付かず離れず、遠くから観察するだけに留めているって訳なんだけどね。


さてはて時間はまだありますね。じゃあここら辺で脇道に逸れてみようか。原住民諸君の中にはね、こんな戯けた事を言うヤツもいるのだ。

「異星人が地球を攻めてきたらどうしよう?」

※ここでオンライン授業を受講している生徒たちは大爆笑する


諸君、静かにして欲しい。因みにこのネタは新人監督官を笑わせるときに使う鉄板ネタだ。最近は知名度が上がってきたのか、あまり笑ってくれんがね。

誰があんな、野蛮で、しかも惑星自体が統一もされていない星を欲しがりますかって。まぁ確かに昔はね、下手に技術供与したせいで惑星ごと滅ぼしそうになったから、文明を消滅させたことは確かにある。でもそれは彼らの為を思ってしたことだ。別に今のこんな低水準の文明に誰が関りを持ち上がるものですか?

実際、彼らは重力の制御はおろか、重力子を未だに発見することすら敵わない。その癖

「我々の探査ユニット(彼らはUFOとかUAPとか呼びたがるのだがね)など存在しない!何故なら、作用反作用の法則に依らずして空中に浮いているからだ。あんなもの、物理的に存在しっこない!!」

なんて言いたがる原住民も居るほどさ。そういう台詞を言いたがるのは、科学者に多いけどね。多分今知ってる知識が邪魔するんだろうな。君たちも重力制御技術を学べばこれくらいの事は簡単にこなせるようになるんだよ、と言いたくなる。


こういうのもあるぞ。

「宇宙人の証拠とされるUFOは、大変な高速度で移動している。」

ふむふむ、地球の原住民にとっては、我々の探査ユニットはもの凄く足が早いみたいだね。

「だからあんな高速度で移動したら中にいる生命体はミンチになるだろう」


※再度の大爆笑

笑ってしまうだろう?いや、慣性制御技術さえ学んでしまえば、どうって事はない話なんだ。だって慣性の法則なんぞを無視することが出来るようになるんだからな。

極めつけはね。

「宇宙人(つまる所、我々のことさ)なんて居る訳がない!!仮に彼らが居たとしても、恒星を跨いで移動するにはとてつもない時間が掛かる。何故なら物体は光速を超えられないからだ」

とかね。


※ここで学生達の爆笑に頃合いと感じたのか、教授はオンライン授業の小休止を宣言した。

諸君、静粛に!笑ってはいけないぞ。空間を捻じ曲げてしまえば、事実上光速を超えられるじゃないか、なんて馬鹿でも気づく簡単な話だと思うのは我々がそういう社会で生きているからだ。

君たち、こういった事で爆笑できるのは君たちの感性がとても瑞々しい証拠だ。素晴らしい、トイレ休憩するから、今のうちに行きたい人は行ってきなさい。


*********************


さてはてトイレ休憩も終わっただろうから、オンライン授業を再開するとしましょうか。


今言った通りだ。

電磁気の法則を理解できない人間に、何故モーターが回転するのかを説明することは出来ない。だって、そもそもその説明を受け付ける為の思考の枠組みが存在しないんだからね。

相対性理論を理解できない人間に、核融合とか原子核分裂の説明をした所で無駄なことだ。それと一緒なんだ。

超空間航行技術、重力制御、慣性制御。

これらの技術を獲得するにはある程度、科学が発達しないといけない。これらの概念を理解できるような、思考の枠ぐみが社会に現れてくれないと、そもそも発想することすら出来ないからな。でもそういう新しい思考の枠ってなぁ、決して外から与えられるものではないんだ。自分達で獲得しないといけない。そういった思考の枠組みを絶えず外部から与えれてしまうと、やがてはそういう枠組みを自分たちで作ってやろうという姿勢が喪われていくものだからね・・。

さっきも言ったとおり、そういった科学の発展は自分達自身でやって貰うしかない。それが我々文明監督官の仕事だったりする訳なんだよ。


諸君、ここで私は再度強調しておきたい。

なんで俺らは「文明発展の監督」なんて偉そうなことやってるのか。それはさ、こうして文明が惑星の上に花開くってことそれ自体が奇跡みたいなもんだからだよ。


考えても見て欲しい。この宇宙は100億年以上前に無から出来上がったらしいね。でもそうやって生まれた宇宙に生命体が存在できる可能性は極めて低い。そんでもってようやっと生まれた生命が上手く大気圏を離脱して宇宙という大海原へ漕ぎだせるようになる可能性は、更に低い。私たちがこうして異なる恒星系にいながらオンライン授業を受けて居られるって事自体が一種の奇跡みたいなモンなんだ。文明が発達すればするほど、我々がこうして存在すること自体が奇跡だってのが実感できるようになってくる。

するとね、他の惑星にも文明を伝授したいって気分にもなってくるし、そうでなくとも少なくともお互いに交流したくなるってのが人情ってもんだろうが・・。最低でも、まぁ一つの恒星系が狭苦しく感じられる所までは面倒みてあげようかなって気分になってくる。我々の存在意義なんてのは、こういう所にある訳なんだよ。

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― 新着の感想 ―
星新一を彷彿とさせるSFショートショート。大変楽しく読ませていただきました。
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