宇宙人にさよなら
わたしのクラスには、宇宙人がいる。
宇宙人は、飛び出るくらいに大きな目をして、いつもひとりぼっちでぶつぶつと意味の分からないことを呟いている。きっと、宇宙と交信しているのだと思う。宇宙人は、運動ができない。ボールを投げるのもへたくそだし、走るのも遅い。無重力の宇宙から来たからだ。宇宙人は、自由帳にいつも変な絵を描いている。あまりに気味が悪いものだから、わたしたちはその絵を鉛筆で塗りつぶしてやった。宇宙人が大声でわめきながら襲いかかってきたけれど、男子たちが彼女からわたしたちを守ってくれた。
宇宙人の家がどんな宇宙船なのか知りたくて、わたしたちは彼女の後をこっそり追いかけた。宇宙人が入っていったのは、ぼろくてせまい家だった。きっと地球での仮の住まいだから、あばら小屋みたいなところでも平気なのだ。
宇宙人の研究をするのは、わたしたちの大きな楽しみだった。夏休みになると、自由研究で宇宙人の観察をした。彼女はわたしたちが近づくと逃げ出したけれど、すぐに追いつくことができた。何か聞いてもとんちんかんな返事しか返ってこないので、彼女が泣き出すまで同じ質問をしてやった。彼女はもう少し、地球になじむ努力をするべきだと思う。
秋になって、遠足で動物園に行った時、宇宙人は動物に向かって何かしゃべっていた。きっと檻の中の動物も、迷惑していただろう。わたしたちは彼女を蹴り飛ばして、かわいそうな動物たちや他のお客さんから遠ざけた。
ある夜、わたしは夢を見た。宇宙人を見つけたのでいつものように追いかけると、彼女の真上に銀色の宇宙船が浮かんでいた。息を呑むわたしの前で、宇宙人は宇宙船に吸い込まれていった。わたしは何かを叫んで手を伸ばす。けれど、宇宙人はそのまま宇宙船に乗り込んでしまった。船の窓から、別の人影が見えた。
宇宙人をのせた船は、飛んでいなくなってしまった。
次の日、学校に来ると、宇宙人は来ていなかった。いつの間にか、彼女の机の周りの私物がなくなっていた。それからもう、彼女は一度も姿を見せなかった。
時が経ち、わたしは大人になり、結婚をして、娘を授かった。娘はすくすくと育ち、小学生になった。
ある時、娘が泣きながら帰ってきた。体中に泥や靴の跡がつき、ランドセルの中のノートやプリントはびりびりに破かれていた。理由を問いただすと、娘は言った。
__同級生が、宇宙人と呼んでくる。何もしていないのに、わたしをいじめる。
わたしはそれを聞いて、怒りに震えた。とにかく目の前の娘を慰めなければと、口を開いた。
__大丈夫。何も悲しむことはない。わたしが小学生の時は……
けれど、その先の言葉が出てこなかった。わたしは。小学生の時、わたしは……。娘は怪訝に思ったのか、涙に濡れた目でわたしを見つめている。でも、彼女には言えない。言えるはずがない。
わたしが小学生の時は、同級生を宇宙人と呼んでいじめていた、だなんて。
ちょうどいいジャンルが思いつかなかったので童話としましたが、他にもっとあてはまるジャンルがあればご教示いただきたいと思います。