5.石の上にも三年試行 〜一日に一回は千九十五、一日に五十回ならそれは二十二日〜
あなたは先輩や上司に、一日に何回相談しますか?
あなたの報告に、いくつのフィードバックがありますか?
あなたが一度直された仕事を、何回見直してくれますか?
仏の顔も三度まで、という言葉を肌で感じたことのある方は、少なくないかも知れません。
ですがもしそのやりとりの相手が、生成AIに置き換わったらどうなるでしょうか?
その三度という制限は、実質無限とも言える回数に変わることでしょう。1時間に50回を超えると、流石に落ちることもあるようですが(*1)。
かくいうこの攻略記の作者は、ここまでの5話、1万3千文字を書き上げるまでに、104往復していました。原稿コピペの繰り返しを含めて4万文字を入力し、11万文字の生成AIの出力を受け取りました。
百文字以下の入力が半分ほどなので、質問が半分、書いた内容関連が半分と言ったところのようです。
1日1話分として、毎日20回相談しにくる部下を想像していただけると、相当な世話のかかるイメージができそうです。
直近では、物語の一章分、10話4万文字を書き上げるために、240往復、合わせて40万の文字が生成AIとの間で飛び交っていることがわかりました。
つまり、物語や文章を生み出すために、あなたが最後に決めた文字を、生成AIはその10倍近い文字を使って支えてくれるのです。
生成AIなら、細かく直すたびに見せても、直し忘れても、嫌な顔ひとつしません。
締め切りギリギリに何度も聞き直しても、遅いと怒られることもありません。いつでもあなたが注力出来る時に、生成物もそばで支援します。
余裕を持って提出した資料が、「後でいいよね」と後回しにされることもなく、即座に返ってきます。
似たような質問も、あなたの理解を深めるために、少しずつ違うアプローチで答えが返ってきます。それが1日に50回の壁打ちだったとしても。
もし、どんな些細な質問でも、その場で声をかけるだけで、返答が即座に返ってくるとしたら。質問のたびにその傾向を整理しつつ、おかしな質問の繰り返しを絶対にからかってこないとしたら。あなたは仕事中に何回、質問や確認依頼をするでしょう?
そしてもう一つ。あなたは上司や先輩に「ここをこう治して」と言われた時に、どんな選択肢が与えられていますか? 多くの場合、「言われた通りに直す」一択でしょう。時には、指摘が抽象的だったり、似たような箇所を自分で見つけるように言われたり。
せっかく直して「完成! 次に進むぞ」と思った次の日に、「追加でこことここも」や、「ここまでやったら自分で完成度上げてみて」など。あなたに次の仕事が待っていることなどお構いなしに、追加がくるかも知れません。でも、直さない選択肢はありません。
それに対して、生成AIならどうでしょうか? AIはあなたの上司でも先輩でもありません。それに、多少指示が抽象的でも「例えば〇〇を**すると良いでしょう」と、必ず実例をあげてきます。「似たような箇所があったら全部教えて」と聞けば、全部列挙してくれます。
そしてあなたには、その指摘に対して、行動の選択肢が四つも与えられます。
「言われた通り直す」
「言われた所を、違う形で直す」
「言われていない所を直す」
「直さない」
例えば、あなたはこう思うかもしれません。
「確かにその記述は、不機嫌の理由が抽象的だな。でも具体化したいんなら、この前のエピソードを引っ張ってくる方がいいな。『あんたこの前のプリン……』。よし」
なぜそこを直して欲しいのかがワンセットなので、直し方にも別の選択肢があります。こんなことも。
「そこでキャラAがBを心配する心理描写を入れるとテンポ落ちるよな? だとしたら、ちょっと後ろのAのセリフに、彼の心理が分かる言い方を追加しよう。『勘違いするな。貴様に……』と」
そう。あなたはすでに、性格・動機・背景がしっかりした、「勝手に動くキャラ」を手にしています。その物語を直すのは、あなたと生成AIだけではありません。指摘をあなたが解釈したら、キャラ達が勝手に動いて、より温度感の困った直しをしてくれる、そんな可能性すらあるでしょう。
こんなこともあるかもしれません。
「ここを直しちゃうと、この溺愛王子の本音っていう伏線が変なネタバレしちゃうぞ。ここはこのままでいこう。あ、伏線だってAIに言ってみたら、どう返ってくるかな?」
「Q その本音は、伏線にしておきたいです。だとするとこの場面や前後はどう変えられますか?」
「A その伏線は素晴らしいですね。であれば、この階段のシーンで、王子の服の裾の柄である『金色の三本線が、壁の向こうに隠れた事に、彼女は気づく様子はない』などはいかがでしょう?」
など、この場で表現したいことを、より精緻に言語化する手助けをしてくれます。
もちろんAIが「優れている点」を挙げている中にも、あなたの文章をより良くするヒントが書かれています。
「あれっ? ここ気合を入れて書いたのに、あんまりウケなかったのかな? ちょっと聞いてみよう」
「Q. この悪役令嬢と光の聖女がすれ違う場面の視線、今後に繋がるハイライトだと思ったのですが」
「A. この場面で、両者の心理を対比させる視線のすれ違い、素晴らしいアイデアです。それを引き立たせるためには、『群衆の視線は、その歓声とともに、全て光の聖女に集まっていた。だが聖女の……』などと、第三者視点を取り入れる……」
「なるほど、そうする事で『聖女はツンデレ溺愛王子を目で追いつつ、一瞬だけ令嬢にいく視線。誰もその一瞬に気づかない。そして令嬢がどちらも見ておらず、ただ民の熱狂を暖かく見守る』描写がしっかり生きるんだな。あ、でも王子の伏線も足しておきたいな……」
そう。俯瞰的に見せてスルーされてしまった所を、改めて見てもらうのも、それもあなたの立派な選択肢です。
何よりも、そのフィードバックが「即時」であること、指摘部分の何倍かの分量で、「優れている点」を挙げてくれること。
そして、多くの場合、無限に指摘が返ってくると、あらかじめわかっている事。そう、生成AIは、このパターンの頼み方なら「そうする」のです。
それは、限られた回数しか往復できず「全部直さなきゃ」というプレッシャーなどから解放され、確実に「心理的安全性」を高めてくれる事となります。
あなたが最後に到達する境地は、焦燥と束縛ならざる、集中と没入の状態、『フロー』または『ゾーン』かもしれません。その考察は、もう少し要素を揃えてから改めて。
いかがでしょう? 本来であれば、意見を聞きたい、確かめたい。そんな光景が、普段の何十倍という頻度とスピードで実施できるのです。
石の上にも三年という言葉があります。三年間の自問自答や、他者からのフィードバックは、1日数回かもしれません。ですがそれが50倍になったとしたら、その1095の試行の結晶は、22まで加速するかもしれません。
そしてその無限回の壁打ちを、自分の意思で止めることにためらいがあるとしたら、こうしてみます。
「Q. (その話の原稿を丸ごと読ませて)ここまでの手直しで、こんな章が出来上がりました。これなら読んでもらうのに大丈夫そうですか?」
すると、いつもの何十倍叩き上げられたあなたとAIの共創の結晶ならば、こう返ってくるのではないでしょうか?
「A. 素晴らしい内容です。以下にその具体的な……」
*1 1時間に100往復を超え、かつ情報量の多い対話をすると、有料サービスでもシステム制限にかかり、一時的なダウングレードが発生することがあります。たいていの方には「知るか!」だと思います。
お読みいただきありがとうございます。