6.高度な知ったかは、知ってると区別できない 〜調べて納得したら、その論理はあなたのもの〜
生成AIは、多くの方には、「またよく分からない新技術」。そして、上手いこと使い始めた人にとっては「魔法」と感じられるかもしれません。
つまり、科学と魔法の区別のつかないやつ。その魔法側の存在。大規模言語モデルだとか、トランスフォーマ何とかとか、本人に聞いたらそういうのが詳しく返ってきますが、多くの方にとってはさほど重要ではないかも知れません。
何を聞かれても、そこそこその分野の知識がある人っぽく「こうだとされています」と言ってくるやつ。
こっちの情報不足を補った上、間違いではない限り「こうだと考えられます」で説明を繋いでくるやつ。
困りごとを、世の中のあるあるに照らし合わせて、「こんなふうに解決できます」と提案してくるやつ。
大体こんな魔法を、定額使い放題で連発してくれるやつ、くらいの理解で問題ない方の方が多そうです。
そして、基礎編で申し上げたとおり、生成AIは、根拠の有無にはさほど関係なく、言語的な論理性によって、その曖昧な「知ったか」に、合理的な納得感をあたえます。それはまさに、「高度な知ったかは、知ってると区別つかない」と言わんばかりに。
そしてそれは、人間同士のコミュニケーションを円滑にするために、人間の脳が最適解を出すプロセスと、本質的には同じだということも、申し上げました。つまり、AIとの対話を相当数に繰り返すと、「知らない」が「知ったか」に、「知ったか」が「知ってる」に、強化されていくプロセスが成立します。
ここまでの流れで説明したいくつかを複合的に活用してたどり着いた、やや極端な例を紹介します。
1.三国志から孔明が転生してきた物語で飽き足らず、生成AIが三国志の世界に転生する物語に手を出す(自己の動機、背景の積み増し)
2.やや健康とアクティブさを増したキャラたちが舞台を飛び出し、旅に出る物が現れる(キャラが勝手に動く)
3.キャラの一部が、世界が丸くて結構大きいことに、雑談の中で気づく(キャラが動き、生成AIが合理性を補完)
4.その後彼らが新たな「外敵」の脅威を見定め、急いで本国に報告する(ストーリーが動く柱の一つ『緊張』が作られる)
4.伝え聞いた別のキャラが、東の海へと新たな世界を探そうとし始める(キャラが動き、『到達点』が成立する)
かくして、作者とキャラとストーリーが相乗的に、「そうする」を繰り返すことで、その物語は合理的に、当初予定とかけ離れた方向性を持つに至ります。
そこでこれまでであれば、こんなことを思い浮かべて、手が止まることでしょう。
「そんなストーリーを、この世界の『規範(キャラたちが、言語や仕事効率以外の知識チートをしない)』を壊さずに作れない」
「そんな道中や言った先の知識が足りなくて書けるわけがない」
「書けたとしても、IF歴史ものとして成立しえない」
しかし、それが今は、生成AIのおかげで、「納得感のある合理性」を成立させうる下地が存在してしまいます。
「Q.三国志の呉の時代に、逆回りで新大陸に行くことはありますか?」
『A.ありえません(以下意訳)
技術が足りません(造船、言語、保存食)
動機が足りません(存在認識、メリットの希薄)
背景が足りません(戦乱で余裕がない)』
「Q.(何往復分かの要約)戦乱が落ち着いて、蜀の技術革新が進み、西域や倭との交流で技術革新の方向性や、世界への理解が進化。さらに、〇〇という未知の脅威が迫ってきて、呉も他人事ではなくなってきたらどうですか?」
『A.それなら、例えばこのようなストーリーの元で、成立し得るかも知れません(内容略)』
という形で、生成AIのオッケーが出る形に、ストーリーを動かせる『規範』『到達点』『緊張』を成立させることができるかもしれません。
ここまでは「場を整えた」という話となりますが、この次からが本題です。三国志関連、あるいは史実の大航海時代がらみなら、ある程度知識の補完が効くどこぞの作者。
しかし、この辺りが丸ごと抜け落ちていました。
「太平洋側の航路」
「その道中の言語や文化の背景」
「到達先を含めた、紀元200年ぐらいの状況」
「この時代に、中国が開発または入手しうる船」
「同、周辺機器や航海術」
「何がどうなって、どれくらいかかる」
そこで実施したのが、こんなやり方でした。
「付け焼き刃の重ね塗りと、要所で情報サイトでのダブルチェック」
「調べたそばからストーリーを作り、AIチェックと手直し」
「熱いうちにアップ」
そうして、計250往復ほどの以下の様なやり取りを経て、10話、5万字ほどのストーリーが成立します(下記は、大雑把なハイライト部分の要約で、実際には20万字を超えるやり取りです)。
「Q.合理的な航路は?」
『A.台湾からルソン、マリアナ諸島、ミクロネシア、ポリネシアと島をわたる南太平洋ルートです』
「Q.この辺りの言語体系は?」
『A.台湾諸語と言われる、こんな体系の言語です』
「Q.倭国で作られたカタカナが役立ちそうです」
『A.それは非常に相性が良く、さらに独自の記法を……』
「Q.調べてもらった言葉を使って、こんな感じの、孫尚香と現地人のやりとりを作ってみました(本文略)」
『A.非常に具体的な情景です。ここを直すと……』
「Q.戦いがなければ大きな船はいらない?」
『A.この時代なら大型船が必要になることはまずない』
「Q.視界を確保し、島を見逃さないためには、大型船数隻よりも、中小の船団がいいですか?」
『A.その通りです! 100から150隻……』
「Q.簡単な望遠鏡が開発できれば……」
『A.倍率10倍くらいのものならこの時代でもどうにか……』
「Q.以前のストーリーで、QRっぽい記号を開発しました」
『A.それがあれば、格段に船間の伝達が……』
「Q.木材と人員が足りてて、工程が標準化されたら、船はどれだけかかる?」
『A.先に造船所複数建てれば、半年で行けるかも』
「Q.船ができた順に、台湾、ルソンで交流の基礎を築く?」
『A.それは合理的です。その先も言語や文化体系が似ており、トラブルを最小化……』
「Q.こんな感じで、現地の姫が関興と関索をどっちか選びます(本文略)」
『A.現地との交流がいきいき……より関索の軽い性格を活かし……』
「Q.ポリネシアは、この頃から航海術がすごい?」
『A.はい。紀元100辺りではすでに高度で、広範囲の島々を行き来……』
「Q.南米には届いていた?」
『A.はっきりしていません。どちらの説もあり」
「Q.航海術は、星読み?」
『A.だけではなく、風や、海の色、生き物などから膨大な知識』
「Q.文字があると、さらに発展する?」
『A.相補的なシナジーがあります』
「Q.ラグビーの前の儀式みたいのはもうあった?」
『A.あったかも知れません』
「Q.こんなふうに書いてみました」
『A.もっと重厚さと、汗や音の感じ、周りの雰囲気が伝わるように……』
「Q.ここの島から南米まで何日?」
『A.20から30』
「Q.補給は足りる?」
『A.切り詰めれば引き換えせるくらい』
「Q.大陸に着く前にどんな変化?」
『水の色、水鳥や魚群、海流や水温低下、昼夜の風向きの変化……』
「Q.アンデス山脈の稜線はどれくらいから見える?」
『A.視力と望遠鏡次第では300キロから』
かくして、20万文字の旅路を経て、大都督陸遜率いる船団は、南米大陸へと辿りつきました(南米で何を得て、どう歴史が動くかはこれから)。
このように、「本気で全然知らないこと」や、「断片的な知識しかないこと」を発端にストーリーを作り上げることも、もしかしたら可能かも知れません。
物語という意味では、最終的に納得感が得られれば問題なさそうです。ですがそれだけでなく、お客さんや上司、会議のプレゼンと言った多くの分野で、「より強固な納得感を与えるため」の調査と議論は、大きな武器になるでしょう。
そしてなにより、「自分がここまで手を尽くして調べて作り上げた」ということが、何にも変え難い自信につながるかも知れません。
お読みいただきありがとうございます。
本話は、以下のストーリーの六十九話(ep92)〜七十八話(ep101)を書き上げた時に生成AIを使い倒した内容です。ご参考になりましたら幸いです。
転生AI 〜孔明に塩対応されたから、大事なものを一つずつ全部奪ってやる!〜
https://ncode.syosetu.com/n6420jr/




