第08話 : 過去からの使者 - 魔手
条一が涙でクシャクシャになった顔を洗いに行き。
二人の男達がベンチに残された。
片方、右に座る銀髪の青年は言う、
「フフフ、お久し振りですね、カス。君にまた会える日が訪れるとは思いも掛けなかった」
伊藤・ガゼ・ロベートだ。
白いトップハットと白いコートという格好をしている。
全身を白一色に染めているが、この白は光に認められた白ではなく。
闇から追い出され、行き場を無くした影の色。
裏の顔は、”超能力グループ”デイミングを率いるリーダ。
――通称、赤腕。
もう片方、左に座る兄妹揃って同じ黒髪の青年は言う、
「カスと言うな、たわけ。それに最後のはどう言う意味だ?」
加藤摩。
黒いティーシャツと黒いジーンジというガゼと対照的な格好をしている。
だからか、ガゼとは逆。黒一色なのは、光に拒絶されたからだ。
光の世界に留まれず、辿り着いたのが裏の色。
加藤藍華という妹を持ち。彼女はガゼと同じ超能力且つ同じグループだったりする。
「ハテ、そのままの意味ですか? 藍華によれば四六時中、部屋に篭り二次元の世界を堪能していると聞きましたので」
「そして君はそれに頷いたと?」
「ええ」
「少しは否定しろ」
この二人は同じ高校に通っていた。
行動する時は、ガゼと摩と、”もう一人”と常に一緒だった。
まぁ、最初は仲が良かった訳じゃなく。
別に嫌いだった訳でもない。
”とある事件”を切っ掛けに今の関係を築いたのだ。
「それよりもだ、ガゼ。あの泉条一という俺の大事な妹を狙う輩は、”アイツが言っていた、あの泉条一”で間違いないのか?」
「私の目に狂いはない。だから、間違いありません。けれど……まさか、ヘタレや泣き虫という彼特有の特殊機能まで受け継いでいた、というのは予想外でありますけどね」
フフフ、とガゼは笑う。
思い出すのは、自分達二人を変えた人物であり。
いつも行動を共にしていた、もう一人の男。
「……そうか? 受け継がれたというより真似事だ。それに似てるようで似ていない」
「フフフ、相変わらず厳しいですね、カス」
「カス言うなっ!」
「ああ、そういえば。リアンは裏の駅にいました。呼びます?」
「なぁっ……よ、呼ばなくていい。というか、呼ぶな」
リアンという言葉を聞いただけで顔が真っ赤になる。
ガゼは心の中で思う。
全く私の周りの人は、何故にこうも解りやすいのだろうか。
「……ガゼ兄、カス兄」
二人を呼ぶ声が丁度前から聞こえた。
視線をそこに向けなくても、この二人の事を”兄”と呼ぶ人間は一人しかいない。
「何で。二人が雑談してるの?」
「うむ、元同級生であり親友なのだ。会えば話はするのは当たり前ではないか」
「私としてはカスが妹に抱く異常な愛の話はうんざりしてきますよ……」
「お、俺がいつそんな話をしたっ! 嘘を付くのは止めろっ!」
「”俺の大事な妹を狙う輩”、というセリフを聞いたのですが?」
「き、君はなに都合が良い所だけを切り取っているのだっ!」
「フフフ、その言葉は、”貴方がその発言をした事を認めたと同然”ですな」
「た、たわけぇーっ!」
藍華は目の前で繰り広げられている戦いを眺めていた。
先ほど、自分が一生懸命に探しているのに。何で此処でゆっくりと会話している?
と聞こうとしたがタイミングを失ってしまった。
会話が苦手というのもあるけれど、この二人が放つ固有の空気に近づき難い。
二人ともズルイよ……。
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一方同時刻。
歌空中部駅に3人の男女の群れが入った。
たったの3人。何処にでもいる普通の男女。
――あくまで見掛けは、だ。
1人の男は、背が大きい。身長は190cmを軽く超えているだろう。
しかし巨体だが、彼が放つ雰囲気は”優しいモノ”だ。
というのも、何故か常にニコニコ笑っている。
嬉しい事も楽しい事も有った訳でもない。
唯、笑う。それだけ。
一人の女は、巨男の隣を歩く故に小さな身長が更に小さく見える。
身長はざっと、145cm。リアンより5cm低い。
髪の色は”銀”。”白いワンピースに白いパーカー”という格好。
他の二人と比べると、普通に分類される。
そして二人の前を歩く男。
殺気を放ちながら仲間を引き連れて進む。
ガゼと同じ銀色の髪を持ち。
ガゼと同じ蒼い瞳を持つ。
ボタンが開かれた茶色のテーラードジャケット。
藍色のジーンジを着込んでいる。
ガゼと同じ髪を持つ狂気に満ちた少年は、口元をニヤリと歪ませ言う、
「フクククゥ……ガゼェ兄さん、殺しィに参りましたァ」
少年の名前は、
――ヴォミク・ロベート。
6年前、少年が二人の子供を消した後に。
殺した、実の弟だ。