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第06話 : サディスト兄妹

「先ず。超能力は二種類」


 右手を条一に見せて、ブイの字を作る。

 いや、二の字(?)だ。


共通能力(コモン)個別能力(パーソナル)。二つの違いは、”発動の仕方”と”扱える能力”」


 藍華は条一に合わせているのか、ゆっくりと説明してくれる。

 当の本人は頭を整理しつつ忙しかったりするのだが。


「一人に付き使用可能の超能力は一つだけ。コモンかパーソナル。二つはない。

因みに、能力者の9割は共通能力(コモン)しか使えない」


 分かる? と藍華が首を傾げて問う。

 条一はニコニコと笑いながら3、4回と首を縦に振り、


「わ、分かりますっ!」


 思わず大声を出してしまった。周りの人達が眉をひそめ、こちらを睨む。


「……続ける」


 一拍の間を置いて、藍華が言った。

 普段から吊り気味の目が、更に釣り上がって見えるのは気のせいだろうか。


――スゥィ


「?」


 藍華が急に条一に右手を差し伸べる。

 ハテ? 何をするのだろか、と考えていると。

 藍華が視線を逸らした。


「良く聞きなさい、矢吹。君の能力判定する。5円切符を出して私の手を握って」

「っ!」


 条一の頭の中に一線の閃光が走った。


(せ、先輩とっ! 俺がっ! 俺がっ! 先輩の? てててて、手をに、握る?)


 今の今まで想像や妄想という名のシミュレーション上でしか体験できなかった事が、現実で体感できる、だと? 条一は夢にさえ思っていなかった事に心の中で歓喜を上げる。

 が、直ぐに静まった。


 何故か?


 藍華の様子がおかしい事に気づいたからだ。

 先程から目を釣り上がらせて、まるで"怒っている"感じがする。

 加えて目も合わせてくれない。これでは、まるで――、


――嫌々やっている、みたいではないか。


(もしかして俺って、嫌われてる……?)


 ネガティブに考えだすと次か次への考えもネガティブになってくる。


「はやく」

「あ、はい」


 いつも通りの藍華の声。感情が篭っていない、透き通った綺麗な声。

 けれど今は"怒"が込められている、みたいに聞こえる。


(ええい! 俺のバカっ! もっとポジティブに考えよ!)

「……!」


 藍華が、顔を強ばらせた。

 条一の指先が、藍華の手に触れたのだ。藍華の反応を見て思わずまた手を離してしまうが、勇気を出して彼女の右手を自らの左手で握った。

 刹那、女の子特有の柔らかい手の感触を感じる。

 それが更に憧れの先輩のモノだから心臓の鼓動がいつも以上に早いのが分かった。


--------------------------


 ガゼ兄に頼まれた。

 サポート役を。

 私こと藍華が。


 誰の?


 目の前にいる私の手を握ろうと躊躇している少年の。

 本当は嫌だった。サポート役になるの。ガゼ兄以外の人とチームを組む事が。


 別に彼が嫌い、という訳ではない。

 唯単に私が他の人達を好きになれない、だけのコト。

 だからコレが終わったら直ぐに、さようなする。


 分かってる。ガゼ兄が私のコレを治そうとしてることくらい。

 自分一人だけ依頼(クエスト)を受けに行ったのは、二人きりにするってコトくらい。


「……!」


 少年……(名前なんだっけ?)の左手が私の右手に触れた。


――刹那、握った。


 能力確認の為とは言え、好きじゃない。

 だって、他人と触れなきゃダメだから。

 コレが最初で最後なんだから、ガゼ兄……。


「あっ!」


 自分の手を握る人物に聞こえないように呟いた。


――良いコト思いついた。


 私にこんな事をさせたんだから。

 ”罰”は受けて貰わないとね。


 考えただけで、心の中で笑っている自分がいるのが分かる。

 その所為か、口元が気付かぬうちにニヤリと吊り上がっていた。

 私は視線をゆっくりと上げて少年を見る。

 身長差があるので、必然的に上目遣い見上げる事になる。


「……」

「……」


 少年と目が合った。

 瞬間、私はわざと顔を真っ赤に染める。

 演じる役は誘拐されそうなか弱い女の子。

 演劇部であるから。楽勝だったり。

 あれ? 少年も顔が赤い。何でだろう?

 そう思いつつ次にステップに移す。


「きゃあっ!」

「うェ?」


 悲鳴を上げて、その場に崩れるように座る。

 少年は奇妙な声を漏らしながら、あたふたしている。

 よし。ここまでは計算の内。

 次が本場だ――。


「や、やめて下さい! 離してっ!」


 表情も歪めて、今にも泣きそうな顔を作る。


「ちょ、せ、先輩? 急にどうしたんですか?」


 騒ぎを嗅ぎつけて野次馬が集まってくる。

 その度に少年は焦り。動こうとするが、私が強く彼の手を握る。離さない為に。

 傍から見れば、少年が少女を無理やり何処かに連れて行く感じだろう。


「私、私は……」


 泣く。

 勿論、嘘泣き。


「だ、誰か助けてっ!」


 警備の人が漸く気づいたのか、コチラに向かってくるのが見える。


――計画通りっ!


 横目で少年を見ると、何故かボゥーと私を見つめていた。

 だから、心の中で謝る。

 名もなき少年、ごめんね。


「たわけ」


――打撃――


「いたっ」


 軽い衝撃が頭に響いた。

 頭を抑えながら後ろを振り向くと、


「俺は君をそんな風に育てた覚えはないぞ、我が妹」

「うっ……ヲタ兄」


実の兄が、私を上から見下していた。


――打撃――


「いたっ」


 また叩かれた。

 しかも拳で。


「家でも外でもオタクと言うな。全く君は頭が良い。けれど人の名前の一つもまともに言えずに社会に出れると思うか? 答えは否だ。自分に都合が悪い事や嫌な事が有ると得意な演劇で他人に迷惑を掛けた挙句に逃げるなど言語道断。兄として恥ずかしいぞ?」


 口調は少しきつめ。でも本当は優しくて誰からも頼りにされている人。

 オタクなのに……。


 けれど、自分ワールドを展開すると熱弁したり話がいちいち長くなるのが欠点。

 オタクが故に……。


 加藤摩(かとうさする)。それが私の兄の名前。

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