第05話 : 超能力講座
何故か思い出してしまった。
忌まわしき、あの日の出来事を。
忘れたい。逃げたい。
自分が犯した罪を。
――けれど、何処まで行っても追いかけてくる。
否定するたび。
拒絶するたび。
心の底から這い上がる、"悲しみ"と"苦しみ"という名前の"感情"。
(私が守るから……っ!)
名は知らない。
何回も打ちのめした、女の子。
絶望的な力の差を与えても、幾度となく立ち上がった。
彼女との最後の戦い。
死ぬ寸前まで、諦めずに自分に向かってきた。
強い子。
(や、やめ……って。友達をイジメるなっ!)
女の子が守っていた男の子。
削除対象であった目標車。
彼の名前も知らない。
知っているのは"自分の生きる意味を見い出せないでいた"、という事。
超能力や特別な力がある訳でもなく。
ただの無力の子。
普通の人間。
弱くて脆い心を持った。
けれど、友達は自分の事より大事にしていた。
優しい子。
――あの日、自分に芽生えた芯。
互いを想い合っていた。
自分は、そんな二人をこ――、
「リーダー、何をボォーっとしてるのぉー?」
「うっ」
深く考え込んでいた為か。気付かぬ内に、みどりの窓口に到着していた。
リアンが、おーいぃー大丈夫かぁーと心配そうに顔を覗かせている。
というかリアン……顔を近付け過ぎです。
「ええ、ご安心を。それより、一先ず離れてくれますか」
「おおぉー」
人差し指をリアンにオデコに当て、押して顔を遠ざける。
私が来たことに漸く気づいたのか、何かを話していた泉条一と藍華が振り向く。
ハテ? 泉条一の顔が沈んでいるように見えるのは気のせいか。
「皆さん揃った事だ。表の駅に上がり能力と仕事の説明を致しましょう」
「……っ! やっと超能力が使えるんだ! なら早く行こうよ!」
能力という単語に反応して、急に明るくなった泉条一。
今日、彼をお会いした時にも思いましたが、喜怒哀楽が激しい子ですね。
フフフ……まぁ、だからこそ藍華を彼のサポート役に任命したのだが。
私の目に狂いが無ければ、救ってくれるはずだ。
そう、泉条一なら。
「先にプラントホームに行ってますねっ!」
泉条一は、そう言うと外へ駆ける。
我々に心を開いてくれるのは嬉しい限りですが。
しかし今日会ったばかりだというのに随分と……。
将来、変な人に引っ掛から無いか不安になってきましたよ。
「少年A。"プラント"じゃなくて、"プラット"フォーム」
藍華が静かにツッコミを入れる。
けれど藍華、貴方も……、
「藍華。少年Aではなく、泉条一です」
全く、幾つになっても人の名前が覚えられないとは。
そう思っていると、エスカレーターから二つの音が聞こえた。
一つ目はドォォンという何かが落ちる音。
二つ目が「いった~いっ!」という叫び声に近い音だ。
「泉条一、そんなに急がなくても超能力は逃げませんから」
とガゼも条一を追いかけるようにみどりの窓口を出る。
しかし先に行かれるとは、しかも走って……子供ですか、貴方は?
というか、高校生なんですよね、彼は。
「リアン、後は頼みました。そして藍華、我々も行きますよ」
「はぁーいぃー。任されたぁー♪」
「うん、ガゼ兄」
二人は頷き。
リアンはその場で、いってらっしゃいぃーっと手を振り。
藍華はガゼの隣を歩く。
--------------------------
――歌空中部駅。
今回は裏から表に出発する。
つまり"風変わり"又は"異常な"駅から"普通の駅"に行く、ということだ。
表裏の違いは以前にも説明した通り。
裏の駅は表の駅とは違い。超能力者のみが集まり、人を除いた全てのモノの色が黒白灰色。白黒テレビが如く。
表から裏に向かった時は、電車に乗るコト僅か数秒後に周りに居た人達が突如と消えた。まるで初めからそこの居なかったかのように。
まぁ、実は消えたのは"条一達"の方であり。
ガゼ曰く「"超能力者専用車両"に乗り換えた、だけ」らしく。
で、裏から表に向かう時は、最初から"超能力者専用車両"に乗らなくてはならない。
けれど、実際に裏の駅に来た電車は外からじゃ"普通の電車"と変わらず、というか全く同じであるので。何処が専用車両なのか見分けが付かない。
ハテ? どうしたモノかと悩んでいたら、
「裏の駅に居るときは、何処から乗車しようと、そこが"専用車両"ですよ」
つまり、普通に乗れば良いってことだね? と納得して電車に乗った。
ここに来るときは気付きもしなかったけれど、誰もいない電車ってちょっと不気味、だと条一が思ったのは余談です。
それから、来た時と殆ど同じ時間を掛けて、元の表の駅に到着する。
"誰もいない電車"から降りた瞬間に条一は驚いた。
扉から出ると同時に後ろから人が波のように押し寄せてきたのだ。
その所為でガゼと藍華と別れてしまったが、駅舎内で直ぐに合流できた。
いきなり人の波に襲われたことを話したら、
「申し訳ない、最初に教えて差し上げれば良かった。専用車両から出ると普通の車両に戻されるのです。フフフ、他にも戻る方法があるのですけれどね」
「……な、なるほど、スゲー」
一拍の間を置いて、条一が言った。感心したような口調だが、今日は色々な事が起こりすぎて、頭の整理が追い付けないでいた。"今から超能力を習うのに大丈夫だろか? 不安になって来たよ。いや、僕なら出来るっ! ダイジョーブだよリンゴ君"と頭に書いてある。
「それじゃ、ガゼ師匠!」
「え?」
条一が何の前置きもなくガゼを師匠と呼んだ。
あまりにも突然過ぎて、首を傾げる。けれど、直ぐ様に意味を理解した。
ガゼが条一に超能力を教えるから、”師匠”。
条一に、「はい何でしょう」、と頷く。
「どうやったら超能力を使えるのですか師匠っ!」
「先ずは切符を購入してください。今回は練習なので1000円まで。分かりましたか?」
人差し指で券売機を指しながら、ガゼは言った。
「え?」
先程の出来事を見ていたので超能力に切符は必要かな、と思ってはいた。
けれど、超能力の使い方を尋ねて、真っ先に切符が出てくるとは考えもしなかった。
だから条一は驚いた。
「切符=超能力。コレ常識」
「うェェェェェェ?」
カッコいいのか、カッコ悪いのか、反応に困って色々な意味でショックです。
--------------------------
「では私は仕事を貰いに行くので……藍華、泉条一に超能力と切符の説明を頼みますよ」
「了解」
今、条一達は券売機の前にいる。
何のために?
それは勿論、切符という名の超能力を買う為に決まっている。
ガゼは一人で何処かに行くので。彼が戻るまでに条一は藍華に詳しい説明を教えてもらうのだ。
(……でもアレ? よぉ~っく考えてみると……先輩と二人きり! だという新事実)
美少女とも言える彼女と、向かい合うだけで緊張も倍増した。
地味な条一とは向かい合っているだけで不釣合である。
でも、何かと条一は嬉しかったりする。
「どうしたの?」
ぼうっとしたまま動かない条一を見て、藍華が首を傾げた。
「説明するから。きちんと聞いてね」
「は、はい」
「先ず。超能力を大まかに分けると二種類」
右手を条一に見せて、ブイの字を作る。いや、二だ。
「共通能力と個別能力。この二つの違いは、”発動の仕方”と”扱える能力”。
因みに、能力者の9割は共通能力しか使えない」
藍華は条一に合わせているのか、ゆっくりと説明してくれる。
けれど、
(ヤバイです。専門用語ばかりで分からないです。折角、先輩が直々に説明してくれてるのにぃー! 俺のバーカァァァァァ!)
心の中で自分の頭の悪さにツッコミを入れてました。