第一章 : 第04話 : 過去からの使者 - 発端
黒い雲が覆い尽くした。太陽は雲に隠れて彼此20分が経つ。
時々、青色と銀色が混ざった雷が、
――衝撃っ!――
地に落ちる。地響きを鳴らすと同時に駅全体を揺らした。
二人の男達は正座をしながら天からの声にただ頷くだけ。
「ですからして、喧嘩という仕様もない争いで超能力を使用するなど言語道断。以後気をつけてください」
空という名の青年はソレを告げて。
雷という名の自らの能力で生み出した青色と銀色で構成された巨腕を消す。
チラリと少しばかり後ろに振り向く。半分バーと化したら"みどりの窓口"。
視線は、その中にいる三人の男女に向けられていた。
やっと来ましたか。藍華。ではそろそろ私も。
「お二人さん。新人君を待たせているので」
「お、おうリーダー……」
「う、うむ。頑張れぇー……」
良い子で助かりました、と呟き二人の男に背を向ける。
その瞬間、再び二人の男が互いの(パイへの)想いをぶつけたのは余談である。
青年の名は。伊藤・ガゼ・ロベート。
超能力チームが一つデイミングを率いるリーダー。
--------------------------
――打撃っ!――
破壊されたのは道を立ち塞ぐ数多のモノ。
それは壁、床、天井。動物、人間も例外でもない。前にあるモノは全て消す。
――衝撃っ!――
ドォォンと音と鳴らし揺れる建物。
何故か?
破壊するのは拳。
拳に、両腕に纏う"銀色の腕"。
それは幾つもの光の粒が集まり構成された"異常な腕"。
全長約6メートルの巨腕。右と左。二つの腕を軽く振り回す。
只それだけで病院の建物は悲鳴をあげる。
けれど、少年は気にもとめない。
建物が揺れようと。壊れようと。
ケガや病気を抱えた人達が叫ぼうが。壊れようが。
――だって、彼の目的は一つだから。
「フフフ、見つけましたよ。目標者」
高温となった蒸気が燃える。"赤い"光を発した、ソレを背景にして言う。
同じ赤い色。けれど、液体。"ソレ"を浴び、全身が赤一色に染められた少年が。
目の前でコチラをビクビクと恐怖する二人の子供に。
怯えた目で"赤く染まった少年"を見る、10歳前後の男の子と女の子。
「わ、私が守るから……っ!」
女の子がそう言い、男の子を庇うように前に出て"赤い少年"を睨む。
「戦う必要はないよ。自分の事は構わないで、君だけ逃げて」
女の子は顔だけ振り向く。
瞳に映るモノは男の子の決意した表情だった。
全てを諦めることを決意した。生きる事を諦めた覚悟。
故に、自分自身の事さえも"コレ"と呼んでいる。
「話したよね? 僕は生まれながらにして"苦しみと死の運命"を背負っている事を」
聞き慣れた、そのセリフ。
思い出すのは、自分と彼が出会った時――3年前の事。
入院生活の日々で退屈気味だった女の子。
看護婦さんが自分より一個年下の、同じく入院してる男の子を紹介してくれた。
病院で初めて友達が出来るとワクワクしてその子に会ってみると、
(僕は苦しく育って、死ななくちゃ行けないんだ。だから忙しいから、あっち行って)
(嫌)
即答で答えた。
女の子はベットで座り込んでいた男の子に近づいて、言う。
(良く聞きなさい。電波くん――貴方がどんな風に育っても、死んだらダメ。お父さんやお母さんが泣いちゃうよ?)
(……な、泣かないよ。パパもママも一城だって……)
(うそでしょ、それ)
(嘘じゃないよっ!)
(なら、私が泣く)
(え?)
(変人くんが死んじゃったら、私が泣くから。生きて)
数ヶ月後、女の子は男の子を残し退院した。
けれど、時間があれば毎日のように、今日までお見舞いに来た。
最初は笑わなかった男の子は最近になって笑顔を見せてくる様になり。
「苦しみ」や「死の運命」は口にしなくなった。
――銀色の髪を持つ少年が現れるまでは。
嫌い。弱い自分が。
憎い。力がない自分が。
また、男の子に「運命」など口に出させた事が辛い。
だから、今はコレしか言えない、
「安心して電波くん。私なら僅か数分でアイツを片付けるなんて朝飯前。何故なら、貴方の終点駅はここじゃないからっ!」
これでいいんだ、と前を向く。
少年は、フンと鼻で笑う。
「アレほど力の差を分からせたと言うのに、まだ向かうと? 僕に立ち向かうと?」
「も、もち、ろんよ……」
女の子の声は震えていた。足も……震えていた。アイツが怖いから。
逃げろ、と心が訴えてきた。アイツには敵わないから。
でも男の子を、自分の大事な友達を守りたい。
守る? つまりアイツと戦わなければならない。アイツの狙いは自分の友達だから。
勝てる? 否。勝ち目がないと分かっているから恐怖を感じる。
逃げたいと思ってしまう。
――迷い。"命を賭けて守る"か、"自分の命を第一に考え逃げる"か。
「バカですかオメェは? 前線に出てから迷うな」
「……っ!」
――打撃っ!――
振り上げた巨腕が女の子を襲う。
けれど、顔前で止まった。
少年の意志に反して、勝手に動かなくった。
「どうなって……」
――消失――
銀色の光の粒で構成された巨人の両腕が消えた。
パリィン、とガラスが割る音を上げて。
なぁ、と少年は驚きの声を漏らすが。
直ぐ様に状況を把握した。
それは、
「貸切乗車券……貴方の能力、巨人の腕力を封じるっ!」
女の子の仕業だ。貸切……説明通り。一つの能力を使用禁止に出来る。
チッ、と舌打ちが出てしまった。
自分の能力は一つのみ。ソレを封じられた。
つまり戦う術が無くなったと言う事。
「今だっ!」
女の子はポケットから二枚の切符を取り出す。
それと同時に少年に向かい駆ける。
(迷う必要なんてあるの? ううん。私は彼を守るっ!)
右手に持つのは海南駅行きの片道乗車券。そこに眠る力と色は"超感覚の緑色"。
精神感応。
左手に持つのは黒江駅行きの往復乗車券。そこに眠る力と色は"念動力の赤色"。
発火能力。
そして念じる。
――発動、と。
宙に舞った切符は直ぐ様、小さく輝き消える。
少年の懐に入り込む。
左手を少年に向け、
――炎火っ!――
少年は体が、軽く数メートルは吹き飛ぶ。
女の子から発せられた炎の塊を受け。
「くっ……子供がっ!」
攻撃は受けた所に火傷の跡があるが、気にはしない。
ただ目の前にいる"敵"を見据える、だけ。
「抵抗しなければ見逃そうかと思いましたが……なるほど、それがオメェの答えですか」
「よ、余計なお世話よ。彼は私が守る、だから貴方を倒す。その為の対策もここに」
少年に見せる、"5枚の切符"と"右手に持つ緑の玉"。
「フフフ、なら楽しませて貰いましょうか?」