第03話 : 能力者社会
――歌空中部駅。
島式ホーム2面4線で、地上に駅舎にプラットホームが地下に存在する鉄道駅だ。
一般的には地下駅の類にカテゴリされる駅構内をしている。
表面世界にあるのが何処にでもある"普通の駅"。
裏にあるのが超能力者のみが集まる"風変わりな"又は"異常な"駅。
表と裏、超能力者を除いて何が違うのか。
それは"人"と"色"。
超能力者のみが入場できるが故に普通の人々はいない。
裏は表と違い、空も地面も空気もモノも色がない。いや、厳密にはある。
黒と白と灰色。そう白黒テレビかのような。
そんな裏の歌空中部駅。
駅舎の中の丁度、真ん中あたりに二人の男が正座で座っていた。
ちなみに言うが二人は好きでこの様な体制で居るのではない。
目の前にいる青年に説教を食らわされている。
青年曰く、「反省会」。
その光景を半分バーと化したみどりの窓口でミルクを飲みながら眺めていた少年。
泉条一は「ガゼさん……コエー」と呟いた。
それもその筈だ。男達が何かを口にする度に、右腕を軽く振り回す。
普通なら軽く振り回すだけで何ビビってんの?とか言われそうだが。
忘れてはいけない、ここは超能力者が集まる裏の駅。
"風変わり"や"異常"とも言える駅で、そんな人達が集まる。
そう。つまりだ。今の青年の右腕も普通ではない。
一言で表すのなら。巨腕。それも4~5メートルはある。
それを目の前で振り回されたら、誰だって怖いと思うに決まっている。
条一は絶対にガゼを怒らせないと心に誓い、ミルクを飲み干す。
「ジョー君、お待たせぇー」
カウンターの中から小さなダンボール箱を片手で持ちながら少女が出てきた。
肩まである茶髪のショートヘアー。見た目も中身も明るくて優しい娘だ。
此処に来て最初に声を掛けてくれたのも彼女だったりする。
「ゴメンねぇー。探すのに手間取ったぁー」
リアン。それが彼女のコードネームだ。
何故にコードネームなのかと言うとリアン曰く「裏の住人って感じがするぅー」。
とのことなので此処に居る人達はコードネームを名乗っている。
まぁ、ガゼや他にも本名を名乗っている例外もいるのだが。
ちなみにジョーが条一のコードネームです。
ボクシングとは一切の無関係です。ハイ。
「チケットケースに……腕輪に……入隊祝の切符三枚っと」
「おおぉー、何か超能力者って感じがしますね! でも何で切符?」
「ん、切符? それは後の、お・た・の・し・みぃー♪」
「分かったよ、ありがとリアン」
「にははぁー、どういたしまして」
リアンが持ってきたのは所謂、入隊祝い品というヤツだ。
切符入れの小さな目のチケットケース。
DMGと赤い文字で書かれた皮革の腕輪。ちなみにこの腕輪が、ここを拠点とするリーダーガゼの超能力チーム、デイミングのメンバーである証でもある。
それと未使用切符三枚。
さくっ、とケースを腰に。腕輪をつけて、切符をケースに入れた。
条一は心の中で感動の涙を流す。
おおぉー、涙モノです!
天国のお父さんとお母さんと我が弟よ! 僕はなれたのです。超能力者に!
「似合ってるねぇー。んじゃー、後は待つだけだねぇー」
「早く来ないかな」
実は先程から、とある人物を待っていたりする。
条一のサポート役。
これは先ほどリアンに説明して貰った事だ。
5円で買える黒い切符(通称:5円切符)は超能力者を管理するギルドに登録した証である。
どう言う仕組かはリアンも分からないが、その登録をする事で初めて超能力を使う準備が整う。
んで、超能力者は基本的に3人以上6人以下でチームを組んで行動する。
このデイミングはメンバーが23人と大きい方らしく、拠点がある珍しいチーム。けれど本当に"デイミングとして活動"しているのはガゼを含めた5人だけらしい。
詳しい事を聞こうとしたが、「それ以上はリーダーから、ね♪」と言われた。
んで、条一はチームの基礎を学ぶために今から来てくれるサポート役の人と、ここのリーダー・伊藤・ガゼ・ロベートと仮のチームを作って数日の間だけ、早く今の状況に慣れるようにと行動を共にする。ということだ。
「早く超能力をバシバシ使いたいィィィィィ」
超能力! 超能力! 超能力と口にする度にテーブルを叩く。
「せっかちだなぁー、ジョー君はぁー」
リアンは自分のコップに水を入れる、
「そういう男はモテないぞぉー♪」
モテないぞーという言葉で条一の動きが止まる。
そして思い出す。一人の少女の事を。
今朝、見た夢。自分が一つ年上の少女に告白する夢。でも完膚無きまで拒絶された挙句に学校中に失敗談をバラすという悪夢。
今日のアクシデントであの夢は正夢じゃないのかと思ったりもした。
いやいや、そんな事ないないない。だから超能力で自分を変えるんだ。
この力を見れば彼女だって……あれ? フッと条一は思った。
そういえば。ガゼさんもリアンもこの駅は超能力者のみしか入れない云々と言っていたような。
「あのー、リアン。この駅って超能力者しか入れないんだよね?」
「もおぉー、ジョー君! それさっき言ったよぉー!」
条一の最後の砦が壊された。そんなバカなぁー。どうしてぇー。
何故に神は僕を見放すんだー! と心の中で叫ぶ。と、その時、
「あぁー遅いよぉー。藍っちぃー」
誰かがみどりの窓口に入ってきた。
たぶん、俺のサポート役って人かなと思うが、見向きもしない。
今は自分の計画が崩れ去った事で希望が無くなってしまったのだ。
ああー、俺はどうしたらいいのだろう……と誰にも聞こえぬよう呟く。
「この娘がジョー君のサポート役だよぉー」
「初めまして」
透き通った綺麗な声だった。けれどまるで感情が篭っていない。
でも……アレ? 何処かで聞いた声だな。
「サポート役の藍華。よろしく」
聞き間違えではない。これは……これは……この声は。
条一は伏せていた顔を上げる。
「加藤、先輩……っ!」
学校が終わって直ぐに此処に来たのか制服姿。
制服は紛れなく自分と同じ学校のモノだ。
しかも、ソレを着ているのが先ほど廊下でアクシデントに巻き込んでしまった。
腰まで届きそうな黒髪に、それと同じ黒い瞳。カワイイ感じの一つ年上の少女だった。
加藤藍華……(下の名前は初めて知る)。
「あれぇーお二人は知り合いなのかなぁー?」
「同じ学校なんだ。俺は一年だけど」
正直に言えば条一は焦っていた。あれ程、(まだ使い方さえ知らないが)超能力を使えることを自慢しようと此処に連れてくる事すら考えていた。
けれど、実際に会うと。気不味い。物凄く気まずい。
何故なら学校で"あんな事が有ったんだ"。
思い出すのは、先輩を押し倒した自分。
蘇るのは、右手から伝わった胸の感触。
(ヤバイです……これまでに何くらいにジョー君はヤバイ)
どうしよう、と考えていた所で藍華が口を開いた、
「……誰?」
色々な意味でショックです。