第02話 : チームと少女とリーダの力
条一は目が点になり口をポカンと開け、目の前の青年を見る。
「どうなってるの……ほ、他の人達が消えた?」
いいえ、と青年は首を横に振る。
「違います。不正解です、少年。答えは我々が乗る"車両を変えた"のです」
うぇ、と条一が驚いたようだが、構わずに続ける。
「先ずは自己紹介から致しましょう。私の名は伊藤・ガゼ・ロベート。そして向かうは――、"風変わり"とも"異常"とも言える裏の駅」
さぁ外を御覧なさい、と窓を指差す。
条一は未だに点になった目を窓に、つまり外に向ける。
「え……っ! ど、どうなってんの?」
黒と白、灰色に塗りつぶされた景色。
空も雲も地面も建物も、窓の外にあるモノ全てが。
まるで白黒テレビでも見ているかのようだ。
「……スゲェー」
「フフフ。さぁ、着きましたよ」
ガゼの言葉と同時に電車はゆっくりと停車した。
そのままガゼが開いた扉から外に出ようとした時、
「ガゼさん」
「?」
どうかされました?、と首を傾げながら振り向く。
「俺は泉。泉条一と言います。歌空第三高校一年生!」
フッ、とガゼは笑い、
「泉 条一。我々の駅にようこそ――この駅に辿り着いたという事は、今から君は私達と"共通の繋がりを持つ仲間"であると同じ。まぁ、つまりは……これから宜しくお願いしますよ」
「――はいっ!」
――歌空中部駅。
表にあるのは何処にでもある"普通の駅"。
裏にあるのが超能力者のみが集まる"風変わりな駅"
物語は、少年と青年。二人の出会いから既に始まっていた。
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「きっひっひっひ、スゲェー! 誰もいなーい!」
乗った駅は歌空中部駅で着いた駅も歌空中部駅。何か不思議だなー、同じ駅から同じ駅に降りるなんて。
ちなみに、この駅は地上に駅舎、地下にプラットフォームと言う風に構成されている。
二つの駅の外見は同じだけれど中身が全く違う。
どういう風に違うのかと言うと。先ず人が誰もいない。
電車から降りたばかりの二人。プラットフォーム内を見渡すが確認できる人物は二人だけ。
条一とガゼ。
次に違うのは、色。先ほど窓から眺めた景色と同じく。
全てが黒と白と灰色なのだ。
物凄く違和感を感じるが、条一は素からそういうの気にしない子なので。
「駅舎に行きましょう。泉条一」
先を進むガゼが言う、
「上にはもっとビックリするような事がありますよ」
「本当?」
ガゼはそれに笑顔で頷く。
「おおぉー!」
条一はガゼを急かす様に言う、
「早く行こうよガゼさん!」
「はいはい」
二人は近くのエスカレーターで駅舎に上がる。
ソックリだけと全然違うなー、と呟きながら上がり終えると、
「ふざけんな! この野郎!」
「んだと!」
――刹那――
前方から聞こえる二人の男の罵声と共に、駅全体が揺れた。
――烈風により。
外側に吹き飛ばすような衝撃の風。
危うく条一はエスカレーターに落ちそうになるが、ガゼが支えてくれた。
「あ、ありがとう……ってうわっ!」
――衝撃っ!――
再び吹き荒れる風。
さっきとは比べ物にならないくらいに強い。
ガゼが支えていなければ条一はエスカレーターにダイブしていただろう。
「ど、どうなってんの?」
視線を前に向けると、駅舎の丁度真ん中に二人の男が互いに睨み合いながら罵声を言い合っていた。
「だーかーらー! パイと言えばアップルパイと相場が決まってんだよ! クソ野郎」
「テメェの脳内回路にバグがあるんじゃねえのか? アップルパイが相場だと? 夢と現実の区別くらいはつけれろ! チョコレートパイこそが最強!」
「ふざけんな! チョコ野郎!」
「んだと! テメェ!」
と同時に二人がそれぞれ左手で持っていた切符が宙を舞い、
一瞬だけピカーンと光り輝いて消える。
今度は右側に立つ男の左手を中心に内側に吸い寄せるような風が巻き起こった。
条一は又しても風の中に突っ込んでしまいそうになるが、ガゼに支えてもらう……ガゼさん何度もすみません、と心の中で謝っておく。
左手に集まった風は、段々と原型を留め風の大剣を生み出した。
左側に立つ男も同じ用に武器を作り出した。けれど、種類と属性が違う。
彼が左手に持つのは炎の槍。炎の熱は風と交わり熱風となり条一達を襲う。
「あつ……っ! あの、ガゼさん? もしやこれが噂に聞く超能力者? しかもそのバトル? スゲェーよ」
「はぁ~。全く恥ずかしいところを見せてしまった……」
喜ぶ条一だがガゼは深い溜息を付いて頭を抱えた、
「バトルというより仕様がない喧嘩です……」
「リーダーお帰りぃー」
リーダー? と条一は頭を傾げながら、3,4メートルほど離れた所からにこちらに手を降っている女性が見えた。
というか、今まで中央の二人に釘付けになって気付きもしなかった。けれど、周りを良く見えると駅の隅や端に結構な人数の人がいた。
でも、一人足りとも中央にいる二人など気にもとめないでいる……何で?
「ええ、ただいま。それより今度はどういう理由で?」
「"チョコが一番だぁー"! とか"最高なのはアップルぅー"! と好みのパイについてですぅー」
女性はガゼと条一に近寄り中央に立つ男達の喧嘩の理由を説明する。
肩までの茶髪ショートヘアー。パッと見た感じでは明るくて優しい感じだ。
「あれぇー? 新入りぃー?」
視線を条一に向けて訪ねる。
一瞬だが可愛いと思いドキッとしたのは余談である。
「え、えっと。はい。いず」
――斬撃っ!――
カキン、とまるでで金属同士がぶつかる様な音に遮られた。
二人の男が動いたのだ。
「アップルパイだァァァァァ! バカ野郎!」
「ふざけんな! チョコレートパイ万歳ィィィィィ!」
――斬撃っ!――
再びぶつかり合う、風と炎。剣と槍。
男達の(好みのパイへの)想い。
「自己紹介は後にしましょう。先ずはあの二人を止めます」
ガゼは前に出る、
「危ないので……ちょっと下がっていなさい」
「はぁーいぃー」
「ガゼさん……」
「大丈夫ですよ。それよりよく見ていなさい泉条一」
ガゼはコートのポケットから一枚の切符を取り出す。
その切符は黒い切符ではなく、何処にでもある普通の切符だった。
「我々、力あるモノの超能力を」
切符を手放す……が落ちない。
宙に浮いてる。
「そしてこれが、歌空中部駅を拠点とする"超能力チーム・デイミング"がリーダー」
二人の男達とは違い、輝かず。
まるで手で丸めていくかの様に小さくなる切符。
どんどん小さくなって小さくなって……更に小さくなったと思ったら、
――消えた。
そう。これがつまり超能力が発動したということ。
ガゼはスッと右手を振り上げると、右腕に集まる青色と銀色の光の粒。
それらが多数集まり徐々に形を作っていく。
後ろからそれを見ていた条一は「なっ……!」と口から驚きのセリフが漏れた。
それもそのはず、大きさが明らかにおかしい。見た感じだと4~5メートルはある。
まるでそれは巨人の腕だ。
「伊藤・ガゼ・ロベート。私が彼らに送る制裁の拳」
争っていた男たちは自分たちに向かってくる人を見て、「え? リーダー」とか「いつ戻って来たんスか」など口にしている。
しかし今ごろ気づいてももう遅い。
何故なら巨腕は既に振り下げられたいたからだ。
「巨人の腕力」
――打撃っ!――