第01話 : 5円で始める超能力
――告白拒否という恐ろしい夢を見たその放課後。
桜の並木が花びらを降らせつつある、ロマンチックな光景を背景にして。
少年は坂道を下りながら、一人の少女の姿を頭の中で何回もリピート再生していた。
友達に教えられた"とある噂"を考えながら。
(超能力者が集まる駅……か。これは挽回チャンスだぞ俺っ!)
その少女とは少年が通う高校の一つ年上の先輩の事だ。
先ほど学校で、廊下のど真ん中で転んでしまい。
"偶然"にも、前を歩いていた憧れの先輩を巻き込んでしまった。
しかも傍からの視点で見れば、所謂"押し倒した"状態になり。
まぁ、それだけならまだマシだったかも知れない。
右手が変な位置に来なければ。
伝わってくる柔らかい感触。それは手に余る大きいモノ。
そう。条一の右手が"憧れの先輩の胸を鷲掴みにしていた"。
(あれ? 意外にも大きい……。って、えっ? 俺の手が、先輩の胸を……ハッ!)
俺は何をやっているんだーっと急いで立ち上がり、頭を思いっきり下げる。
これはマズイ。かなりマズイぞ。何回も何回も謝罪の言葉と意を示すため頭を下げる。
けれど、先輩は一部始終ずっと無言のまま少年を睨んでいた。
(……絶対に嫌われたよー。あんなのが俺と先輩の初対面とか嫌だけど)
数十回も頭を下げ漸く彼女の口から「いいよ気にはしない」と言われた時は、ホッとしたのは言うまでもない。
(……でもアレ。よぉ~っく思い出してみると先輩の顔……ゼンゼン笑ってない! という新事実。内心じゃ絶対に……ブルブルっ考えたくもありません)
その後、自分の教室に戻ったときに「超能力の駅」云々の話を友達達がしていた。
何か面白そうだったので、というか何か楽しい話でも聞かないと挫けそうだったので、詳しく聞いてみた。
・元々は発売機で5円玉を突っ込んで切符を買うと不思議な切符が手に入るみたいな感じだったらしい。
・それが大きくなり、その不思議な切符は実は無制限乗り放題切符とか。
・実はそれらはカモフラージュで、本当は変な駅に行くためのモノ。
・その変な駅こそが超能力者のみが集まる駅だと言う事。
まぁ、友達曰く「所詮は噂だけどね」。確かにそうだ。
そんなモノが実際に存在するならば今ごろ世界中が大パニックだろう。
さすがにそんな噂を信じるのは今時の小学生でもそうはいない。
現代に生きる普通の少年が高校生にもなってさすがにそんな噂など、
「だから超能力の駅を見つけて先輩を招待するんだ!」
信じていました。ここに一人。
「きっひっひっひ、ダイジョーブだよリンゴくん。絶対にある!」
少年の名は泉条一。ピカピカの(高校)一年生です♪
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切符を買う前に、適当なお店で100円玉を20枚の5円玉に替えて貰い。
今、条一は券売機の前にいる。
何のために?
それは勿論、噂と戦うために決まっている。
「よ、よし始めますか」
ゴクリと唾を飲み、財布から5円玉を1枚取り出す。
5円玉をゆっくりと硬貨投入口に近づけてから、中に突っ込ませる。
――そして"とある事"に条一は気づいた。
それは。入れた後にどうするか、だ。
顔を上げて路線図を見る。
しかし、超能力者が集まる駅らしい記述すらない(当たり前)。
「ま、まさか騙されたのか?」
誰も騙してはおりません。最初から噂と仰ってました。
「友を信じた俺がバカだった……」
周りの視線を気にも止めずに大げさに地面に崩れる。
「確かにさ普通に考えたら有り得もしないよ。超能力の駅なんて全く信じてなかったし期待もしなかったよ」
ゆっくりと立ち上がり、その場から離れながら呟く、
「たださ俺ひとりの力じゃ好きな人を振り向かせることも出来ないから……」
誰もがする小さな悩み。けれど少年にとっては大きな事だ。
気になる人。好きな人に嫌われる。
望みもしなかった展開を少年は先ほど体験したから。
だから探した。超能力という絶対的な力を。
――トン、と肩を叩かれた。
後ろを向くと、白いトップハットと白いコートを来た銀髪の外国人が立っていた。
ハテ、どうしたモノか。誰にでも胸を張って言えるが、条一は英語が苦手なのだ。
会話など自分の名前を言うくらいしか出来ない。
中学の英語教師にも「お前は永遠に鎖国してろ。外国の人に失礼だ」と判印も貰っている。
故に目の前にいる何処の国かも分からない人に何か言われたら……ブルブルっ想像したくない。
なのに何で俺に俺はムリぃー英語は話せないよぉーっとうろたえていたら、
「少年」
外国の人は条一がいた券売機を指差し、
「切符を取るの忘れてますよ」
「……」
日本語ペラペラでした。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。以後気を付けてください」
若手緊張しながらも言い、切符を取りに戻る。
やっぱり日本語バッシチグーだな。自分より上手ではないのか。
というか俺ってバカだな。家に帰るのには結局は電車に乗らないと行けないの――っとそこまで考えて思った。
(あれ? 切符……買ったけ? いや、5円玉しか入れてないような……)
見ると、確かに切符が出ていた。
他とは明らかに違う色の切符が。
(何これ……?)
裏表どちらも黒一色で塗りつぶされていた。何も書かれてないただ黒い切符。
というか切符と呼べるのかさえ怪しい。
けれどそこでとある事が頭を遮った。
――超能力者が集まる駅
もしやこれでは無いのかと。試してみる価値はある。
改札口に切符を入れる……まるで他と同じ普通の切符ですとでも言いたげ問題なく通れた。
「や……った……。もしかしてもしかしたら。ホンモノ?」
口元が気持ち悪いくらいにニヤリと歪ませいるのが自分でも分かった。
でも仕方ないじゃん。だって……だって……本当だったんだもん!
条一は心の中で友達に謝る。
ごめんダチよ。騙されたぁーとか言って。お前らは良いやつだ。君たちの事は絶対に忘れない。さらばー。
電車が目の前に止まり。ここでフッ、と思う。
――どこ行きの電車に乗れば……っ!
(くぅ……っ! せっかく切符を手にいれたのに……)
その時、
「その切符を持つのなら、どの電車に乗っても同じですよ……少年」
「さ、さっきの外国の人さん……」
日本語ペラペラな銀髪な外国の青年だった。
あの時は忘れていたけれど、今は春なんだけどその格好は熱くない?
と心でツッコミを入れてみる。
「フフフ、奇妙な名を付けられましたね」
「うわぁー、ごめんなさい」
そういえば、名前を知らない(初対面ですから当たり前)。
「いや、気にしないでください。さぁ、それよりその電車に乗りましょう」
「うぇ? というかこの切符の事を知ってるの、おじさん?」
「お、じさん……"それを含めた詳しいお話"は着いてから、ということで」
青年はさぁ、と言いながら条一と電車に乗る。
「あのぉ~着いてからって何処に?」
さすがに行く先が分からないのでは不安になってしまう。
しかも知らない人に連れられてとか。
「ご安心を。この切符を持つモノが向かう先はただ一つです」
青年は周りを指さしながら言う、
「さぁ、御覧なさい。少年」
「周りを指ささないでくださいよ、みんなこっちを……っ!」
――刹那――
条一と青年が乗っている車両の人達が全員が突如と消えた。
まるで最初からそこには誰も居なかったかのように。
「どうなってるの……ほ、他の人達が消えた?」
「違います。不正解です少年。答えは我々が乗る車両を変えたのです」
うぇ、と条一が驚がそれに構わず続ける、
「私の名は伊藤・ガゼ・ロベート。そして向かうは――超能力者のみ集まる駅」