プロローグ
今から数えると約10年前。
和歌山市の西部に位置する海。その上に一つの島、つまり人工島が造られた。
面積は和歌山市より一回り大きく。
ここはとある少年曰く「都会3割で田舎7割とまさに理想の楽園」だのコト。
まぁ、海と森と自然に囲まれて確かに綺麗で空気も美味しい。加えて生活で必要なモノは大都市並に入手できる。
それだと環境云々の問題はどうなのか? その点に関しては完璧と言える。
この街で作られた又は外部から支給されるモノは全て自然という環境に優しいのだ。
更に朝と夜は島はとても静かで物音が意外なほど耳に届く。
そんな人にも自然にも優しい、造られた島の名は、
――歌空島。
桜散る裏庭で二人の男女が向き合っていた。
男は何故か緊張気味で顔が赤く。「ダイジョーブだよリンゴくん」と呟いていた。
女は獲物を見つけた獣が如く口元が吊り上がっていた。
沈黙という名の空気が漂う。
それを壊したのは男の想い、
「貴方が好きです! 俺と付き合ってください!」
「却下」
即答。しかも、謝罪の言葉もなし。
「良く聞きなさい、少年A――」
名前さえ呼んでくれない。
「君みたいな地味で目立たぬ子が、何の努力という名のアプローチなどをせずに告白して成功する。何て夢の中でも有り得ないコトなのよ?」
次々に心に刺さる言葉の槍。
泣きそうなんだけど……。
「だから強くなりなさい。一度ならず失敗と成功を繰り返して生まれ変わるの。その時、もし君の気持ちが今と変わらぬなら再び私のところに来て」
もしかして気を使ってくれてるの?
言い方は遠まわし過ぎるけど、きっとそうなんだ。
やっぱり先輩は良い人だな。
「でもね人は一人だと何も出来ない生物なの。だから特別に私から試練を与えてあげる」
黒いトーンがのしかかった。
「君の告白失敗談を学校中にバラす」
「ええ? な、何でですか?試練とどう関係が?」
「安心して少年B。私なら僅か一日で学校中に流すことなんて朝飯前。何故なら、告白の一部始終はバッチリと録音済みよ」
スルー? スルーですか? しかもAからBに変わってる。
何故かグッジョブと親指を立てる先輩。ええ、何がグッジョブなの?
ヤバイ。この人はヤバイ。何でこんな人を好きになったんだと後悔する。
あ、せめて録音したモノだけでも。
ってアレ? 体が動かない。声も出ない。
どうなってるんだ?
「さぁ、決めたとなれば行動は早い方がいいわ。善は急げよ」
そう言うと体を180度回転してこの場から立ち去るように歩く。
ああ! 待ってよ! 先輩! それだけは止めてくださぁぁぁい!
――刹那――
「忘れるな」
声が頭に響くと同時に地面に大きな亀裂が入った。
ギシギシと音を立てて、少年の足元が崩れる。
(え? う……そ?)
そのまま少年は崩れていく足場に飲み込まれていく。
「絶対に忘れるな……条一」
(何をぉぉぉぉぉぉ)
浮遊感を感じながら少年は、暗黒の底へと落ちていく……。