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レンアイごっこ

昔馴染みでつきあって

作者: 高谷咲希
掲載日:2026/04/21

「時間があったら遊ぼうよ」

そう、軽率に誘ったこと、とんでもなく後悔した。


久しぶりに来た、高校の最寄駅周辺。当時とは変わってしまったところもたくさんあったから、新鮮な気持ちで街を歩いていた。

「あぁ、あったあった」

なんでこんなところに来たかというと、オープンしたばかりのカフェがあるからだ。カフェ巡りが私の、唯一の趣味。店の前で少し看板を眺めた後、早速新しいカフェに入ることにした。

カフェの中は、オレンジの照明とモノトーンのインテリアが落ち着いた雰囲気を醸し出していた。お店の奥、合皮のソファ席に座って、コーヒーを飲みながら窓の外をぼんやりと眺める。有線から流れるクラシックが、ふと私の望郷の念を押し広げた。


"板橋なう“


昔の部活のグループにメッセージを送りつけると、すぐに1人既読がついた。全部で4人の小さいグループ、平日の真っ昼間だということもあるけど、既読は素直に嬉しかった。


"急にどしたし“


そう送ってきたのは、地元が一緒だった西島(にしじま) (りょう)。私の、ちょっと気になってた人。


"新しくカフェができたから久しぶりにきたの"


そう返して、私はスマホをポケットにしまった。彼のことは気にはなってけどアプローチも上手く行かなかったし、やりとりもそんな長く続いたこともなくて、脈がないなあと勝手に諦めてたからだった。だけど割とすぐに返事がきて、スマホが震える。


"へぇ、カフェなんてできたんだ"

"めっちゃおしゃれで居心地が良き"

"いいね“


しばらくそんなやりとりを二人でしてから、ふと思う。もしかして、暇なの?

私は個人のトーク画面を開いてから、手早く文章を打ち込む。


"もし時間あるなら遊ぼうよ“


そう送ってすぐだった。


"いいよ!"


返事が早い!早い方が予定が立てやすくって嬉しいけど!

なんて思いつつ、彼は仕事だったみたいなので、簡単に待ち合わせ場所と時間を決めた。その後、私は残っていたコーヒーを飲み干して、地元集合の為、時間までのんびりとショッピングをすることにした。


彼が待ち合わせ場所に来たのは、集合時間の30分後のことだった。

「りょーちゃん!」

「ごめん!お待たせ」

そう言いつつも笑っている彼の印象は、あの頃とはまるで違っていた。髪も染めていたし、服装も少し変わっていて、なんだかりょーちゃんじゃないみたい。

「大丈夫だよー」

私がそう笑うと、ほっとした様な表情に変わる。そこはやっぱり変わらなかった。

「どこにいく?」

聞くと、彼は少し目を逸らして考えるフリをする。これも変わらないな、なんて懐かしく見つめていたら、ぱちりと目が合う。

「お腹すいた?」

そう聞かれて、そう言えばご飯食べてないやと思い出した。素直にそれを伝えると、じゃあご飯行こうか、と彼は歩き出す。私もそれに続いて、隣を歩く。

だけど、駅前の賑わう街は、普通のご飯屋さんはあまりなくて。

「この辺居酒屋しかなくない?」

そう言うと、酒でも飲む?と聞き返されてしまった。

「え、飲む」

お酒が好きなもんで、思わずそう返すと、りょーちゃんが今日イチの顔で微笑む。え、めちゃイケメンでは???

「じゃあ居酒屋だね」

そう言って二人で入ったのは、半個室のチェーン店だった。


大人になってから同級生とお酒を飲むのが、まあ楽しいこと楽しいこと。だからかな、二人とも酔っ払ってたんだと思う。

「寒いねぇ」

「そうだねぇ」

流石に夜も更けて、お店を出た後はどこに行くでもなく、帰路につく二人。

「手、めっちゃ凍ってんだけど」

「え?ほんと?私の手あったかいよ?」

視界の端で握ったり開いたりを繰り返す君の手に、私の手を重ねてみる。

「え、ほんとだ!」

「でしょ?眠いからねぇ」

「あったか!」

君が私の手をぎゅっと、握りしめた。一瞬、息が詰まったけど、君はそのまま何事もなかったみたいに歩き出す。

「お、おお……」

にぎにぎと、思わず手の温もりを確かめた。それに気付いた君は、私の顔を覗き込む。

「嫌?」

「嫌ではない」

「離す?」

「……このままでいい」

目も合わせられずに答えると、君の目は丸くなる。

「いいの?」

「うん」

「いいんだ」

そう笑う君の顔が見れなくて、私はただひたすらに歩道を眺めていた。

手を繋ぐことなんて、もう何年もしてなくて。新鮮な気持ちと、ちょっとした胸の鼓動が、私の思考を停止させる。こーゆーことされると、簡単に惚れてしまうのが私の悪いところ。しかも、昔気になってた人だし。

「いえーい」

繋がれた手を振って、バカみたいにはしゃぐフリとかしてみたりして。ああ、きっと君は、呆れながら笑っているんだろうな。

「そういえば、りょーちゃんちどの辺だっけ?」

「え?あそこ、あの歩道橋のとこだよ」

手に伝わる体温から気持ちを逸らそうとしたのに、それはうまくは行かなかった。だって君の家、私の家の方向と一緒なんだもん。それって、まだしばらくこの手のままってことでしょ?

どうしようもないな、そう頭を抱えそうになった時、君の手の力が少しだけ強くなった。

「……どうしたの?」

そんな言葉は飲み込んで、私も少し強く握り返す。

「ん?寂しくなっちゃった」

私の目を見て、いたずらに笑った君。ほんっとまじこいつ、そーゆーとこだよ。

「私も、ちょっと寂しいな」

「一緒だね」

少しの沈黙と共に、私たちは立ち止まる。歩道橋の下、私と君は、ここでバイバイしなきゃいけないから。

「また一緒にご飯とか行こうよ、そしたら寂しくないね」

私がそういうと、君はそうだねって笑った。

どちらからともなく、ゆっくりと手を離す。君の温もりを無くさないように、私はその手をポケットにしまい込んだ。

「じゃ、またね!」

笑顔で別れを告げて、君に背を向けて歩き出す。


昔ね、君のことが好きだったよ。

手、繋げたのも嬉しかったな。

ねぇ、昔馴染みでもう少し、付き合ってよ。


そんな言葉は飲み込んで、懐かしい胸の鼓動を感じながら。

振り返ったその先、君の背中が、小さくなるまで見つめてしまったんだ。

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