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背神のミルローズ  作者: たみえ
|序《はじまり》
6/33

|道程《みちのり》 肆


 ――どうやら、そろそろアホな魔女の本体が存在する国に近付いていたらしい。


 それが分かったのは最も広い大地へ無事に降り立ち、荷物として詰め込んでいたトランクから取り出してやった際に、無駄に何かに怯えるような演技でぶるぶると震えながら「や、闇が世界の全てを覆って、常夏の噴火にお浸しされたパサパサパエリアにマエストロされて……」などと、全くもって理解不能で意味不明な妄言を呟きながら何かに怯えたようにわざとらしくチラチラと周囲にうるさい視線を寄越すアホな魔女が、最後に「おうちかえりたい。ぐすん」といかにもわざとらしく鳴いて、それにノリノリで乗った神によしよしと慰められていた際に、神が「そういえばシャナラちゃんのお家ってここから近いよね」と思い出したようにわざとらしくチラチラと視線を寄越しながら告げてくれたおかげだ。実に分かりやすくわざとらしい。


 ここに至るまで。いくら不慣れな実体の身であれど、無駄に遠回りをさせられていることには最初から気付いていた。何故、そんな無駄な遠回りをさせようとしているのかはやはり理解出来ないが、是が非でも付いて行くしかない。

 ……己に生じた有り得ないほどあまりに不都合な、もはやとても致命的ともいえる欠陥さえなければ……おそらく、もうとっくの昔にアホな神と魔女をそこらに放置してもっと先に進めていたはずだ。間違いない。

 だから、――。


「――あっはっはぁ、あのゆっきーがオペラグローブぅ? ふっふ、ぅひぃっひっひ、マジウケるぅ~」


 きゃらきゃらと、間延びしたような変な語調で身体を二つに折って爆笑する新手の魔女に会うという、実に無駄極まりないことに時間を費やすことも無かっただろう。絶対に。

 アホな魔女と神が乗りたい乗りたいと耳元でうるさく騒ぐので、大人しく言われるがまま乗ったゴンドラという乗り物。そこに途中乗船した新手の魔女は、アホな魔女の妹らしい。


 聞いてもいないのに、アホな魔女にこれでもかと()()()()魔女である妹について自慢げに語られた。全くもって興味ない。

 今までの旅路について、アホな魔女と神に聞いた新手の魔女の名はディプラデニアだと神が囁く。そこに補足説明するように、アホな魔女が「でも普段はディプラデニアって呼び名が嫌いだから、ラディちゃんって呼んであげてください」と聞いてないのに入れ知恵してきた。だから興味ないと……。


「うっふ。ならぁ、あたしはぁ、――使()()()くらいがちょーどいいんじゃなぁ~い?」

『おお! さっすが我らがラディちゃん! よっ! 分かってるぅ! ひゅうひゅう!』

「――主よ。ならば武器はいかがします?」

「それならぁ、鎌とかよくなぁい? 絵的に」

『天才! 採用! 天才!』

「ではそのように承りました、主よ」


 こそこそと集まって、いつも通り意味不明な議論を目の前で交わしていたようだが……このミルローズの実体性能の前ではこそこそする意味はまるで無い。全て丸聞こえだ。

 しかしおそらくはそれも全て分かった上で、きっと構ってほしくてわざわざ分かりやすくわざとこちらの目の前でやっている。ので、構う必要性はやはり全くない。


 だからそれを察しても、さらに鼻で笑ってから無心で流れる水面を眺めて無駄な時間を潰していた。と、何故か近くに妹のほうが近付いてきた。面倒だ。

 ちらりと見ると、とっくに神とアホな魔女は二人できゃっきゃとゴンドラを勝手に操作してあっちこっち移動しては、独りでに動く謎の幽霊船に人々を驚かせて腰を抜かせるごっこ遊びに興じていた。

 ……人間について学んだ知識と照らし合わせると、実にはた迷惑な上にアホらしい遊びだ。付き合ってられない。


「あはぁ。……ミルっちってば愛されてんねぇ」

「――ぁ?」

「うっふ。気に障ったぁ? ごめぇんちょ?」

「…………」


 言葉の最後に、にやにやと両手の人差し指をくっつけてから対照的な動きで「☆」の形を指先だけで描いた。……何故かその指の動きに眉が勝手にぴくりと動いて、鼻に皺が一瞬だけ寄ってしまった。実体の反射反応は稀に不可解だ。

 そうしてこちらの反応の何かに気を良くしたのか、続けて「まぁーあ? 今はいいけどぉ、いずれ後悔しないようにねぇ?」などと意味不明な言葉だけをわざわざ残し、きゃっきゃと騒いで遊ぶ神たちの輪に加わった。何を言いたいのか、理解出来ない。


 ――後悔とは、人の子がすることだ。

※おまけ情報※

はしゃぐゴンドラとしてSNSでバズったもよう。

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