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背神のミルローズ  作者: たみえ
|序《はじまり》
11/33

|道程《みちのり》 玖


 ビィイッッ!!


「待つあるヨ。これはちょっとした行き違いの誤解ネ!」


 ビィイッッ!!


「確かに黙って密入国したあるヨ。でも事前に袖の下は渡して許可貰ってたはずネ!」


 ビィイッッ!!


「や、やめるネ! それは大事な商売のタネあるヨ!」


 ビィイッッ!!


「ああっ! もっと丁寧に扱うネ! それはこの世でたった一つしか存在しない、お手製絶世美女目録最新版ネ!」


 散々あちこち連れ回して泥棒行為に巻き込んだ後、ほとぼりが冷めるまで高跳びするだなんだとほざき、やっと魔女に付き合うのに飽きて旅を再開させた神らに図々しくも勝手に同行してきていたスイセンが、途中で寄った島の入港直後に現れた魔女に首根っこを掴まれ、引っ立てられるように物々しい雰囲気の建物へと早々に消えていった。

 時折スイセンらしき悲鳴が遠くから聞こえてきたが、あの俗塗れで騒々しい魔女の顛末に興味などないため無視した。


『久しぶりだね、バンクシアちゃん!』

《ご無沙汰しております》


 先程、ビービーと笛を鳴らしながら強制的にスイセンをひっ捕らえて連行していったはずの魔女が、ぬるっと何事もなかったかのように神へと近付き、それに気付いた神が嬉しそうに愛想よく挨拶を交わした。

 バンクシアと呼ばれた魔女は、返事を地面に書くことで神へ応えた。


「この近くに鈴蘭様がいらっしゃると伺ったのですが、何か知りませんかバンクシア」

《はい、シャナラ。ここを一瞬ですが経由していかれましたので、当然把握しています》

「経由ですか。たったそれだけの接触で良くあの鈴蘭様の動向が分かりましたね」

《牡丹が供に居りましたので》

『ぼうたんくんってば、あれほど外を嫌がってたのに……』


 神と狐と魔女が、地面を覗き込むように車座になってしゃがみ込んでこそこそ会話する。道の邪魔だ。


「むむ、この方向は……」

《おそらく、バカンスかと》

『わあ。いいなあ。早く合流しないとね!』

「牡丹は真面目ちゃん筆頭ネ。会うと色々面倒あるヨ」


 ビィイッッ!!


「あ~れ~」


 しれっと戻って車座に加わったスイセンが、再び魔女に引っ立てられて即座に回収されていった。


『……あ。焼き芋が食べたいかも。食べれないけど』

「主よ、それはおそらく秋らしい風靡だからでしょう」

『侘び寂びかなあ』


 ……引っ立てられていくスイセンを何気なくぼんやりと見送っていた神が、変なことを言い出した。


 この旅の間中、何かあるたびに『あれがしたい』『これがしたい』とあっちこっちフラフラする神ではあったが、いくら神といえど実体の無い現状ではどうしても出来ない叶わないことはある。

 そして現状、人の実体ではなく狐の実体となっている魔女も同様の状況といっても過言ではない。つまり。


『はい、あーん』

「…………」


 他の魔女らが居る時は何とかなるが、居ない場合は逐次そのシワ寄せの全てがこのミルローズに降りかかってくる公算である。

 人の子たちの違う国を訪れる度、毎回の如くはしゃいだ神に服をあれこれと着せ替えさせられたことは多々あるが、その次に多いのが食関係であった。


 必要最低限の食物があれば、神から戴いたこのミルローズの実体の活動に支障は全く無い。無い、のだが――神が美味そうと目を付けた食物を神の代わりに食べてやらないと梃子でも動かなかった為、それに気づいてからは渋々代わりに食べて適当な感想を言ってやっていた。

 だが、効率重視でそうした行動をしているうちに何を都合良く勘違いしたのか、いつの間にか当然のように神のちょっとした想起であれこれと何が楽しいのか『これ美味しいから!』と詰め込むように食わされるようになっていた。

 食物の創造という神秘を不必要に行使して、力の無駄遣いも良いところである。この神が理解し難い。


『お口、あーん』

「…………」


 いつまでも無視していると神が拗ねてその場から動かなくなり非常に面倒なため、仕方なく口を開いて神が出して『ふぅふぅ』した「ホカホカのさつまいも」とやらをぱくりと口にして頬張る。

 ……まあまあだな。味は今まで食わされてきた中でも悪くないほうか。


 ビィイッッ!!


『あ。バンクシアちゃん……さつまいも、食べる? 私謹製だよ?』


 ビィイッッ!!


『私印でもダメですか、そうですか……ごめんなさい……っ』


 神が無駄にも抱えるほどに出した「ホカホカのさつまいも」とやらはその後、涙目で我が子を差し出すかのような様相の神にも無慈悲に、容赦無く全て魔女に回収処分された。

※おまけ情報※

差し入れとして職員が全て美味しく頂きました。

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