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閑話 とある街の噂話2

瓜生雛香視点


「すみませーん! ちょっと、お話を……あれ?」


 街を歩いていたら急に声をかけられた。しまったなぁ。あんまり人に見られたくない状況だからできるだけ人の少ない場所を選んだのに。

 余計な詮索をされる前に逃げ……


「……ひょっとして、ヒヨコさんじゃないですか?」


「えっ?」


 ヒヨコっていうのは雛香のダンジョン用の名前。


「うーん? どこかで会ったことある?」


 ダンジョンには確かにずっと潜ってるけど、あんまり他の人とは入っていないんだけど。


「あ、あの、マルチが追加された時に一緒にダンジョンを攻略しました、葵です」


「葵……」


 名前を言われてもあんまり覚えてない。というか、雛香はあんまりお兄ちゃん以外の人に興味ないんだよね。

 ってことは、多分お兄ちゃん関連じゃないとは思うけど。


「そうですよね。ヒヨコさん強そうでしたし、私たちの事とか覚えてないですよね」


 うーん、マルチの時かぁ……あの時はその後に色々とあったからあの辺りの記憶が曖昧なんだよね。


「そうだ! 配信してた2人組ってことなら覚えてないですか?」


「配信……あー! 思い出した!」


 いたいた! こんな2人組!


「雛香のことを外国人だと思って混乱しちゃってた子たちだよね!」


 そうそう、フィン兄とマルチダンジョンに入って初めてマッチングした子達だ。

 後でお兄ちゃんに話したから覚えてるよ。

 というか、連絡先まで交換した気がする。今まですっかり忘れてた!


「そうです! そうです! あの時はどうもお世話になりました」


「いやいや、特に何かした覚えはないから」


 2人と会ったことは覚えてるけど、ダンジョンで何をしたかは覚えていないのは秘密。


「雛香さん? お知り合いですか?」


「あっ……やばっ」


 しまった、こうしてる場合じゃなかった。しかも、配信者ってことはやばいじゃん!


「ちょ、ちょっと待って! ひょっとして今って配信してる!?」


 されてたらやばいんだけど!?


「えっ? いえ、今はしてませんけど……」


「セーフ!」


 配信してないなら大丈夫。この2人の口を塞げば……

 いや、それはそれでお兄ちゃんに迷惑がかかる可能性が……そうなるとちゃんと話し合う必要があるか。


「あのさっきから気になってたんですけど、後ろの子は……」


 まぁ、気になるよね。


「えっと、この子は知り合いの子で……」


 ってそれじゃないよね……困った。こういう考えなきゃいけないの苦手なんだけど……


「あの、雛香さん。大丈夫ですよ」


「えっ?」


 困っていると、私の後ろにいた子が少し身体をずらして顔を出した。


「どうも、朝倉結衣です。雛香さんとはえっと、姉を通じての知り合いです」


 結衣ちゃんのきっちりと頭を下げた立派な自己紹介だった。この子、やっぱり年齢誤魔化してたりしない?



 改めてその場で自己紹介をし合った。


「雛香はヒヨコじゃなくて雛香だよ」


 そもそも、雛香もちゃんと名乗ってすらいなかった。


「葵ちゃんと渚ちゃんね。よし、覚えた」


 覚えた、少なくとも今は……


「結衣です。こう見えても雛香さんと同じ歳です」


 えっ!? と思わず口に出しそうになって、ギリギリで留まった。結衣ちゃんがこちらを意味深な目で見ていたから。


「とても、そうは見えないけど……あっ……」


「ひょっとして……苦労してきたんですね……」


「いえ、お気になさらずに」


 あー、なんか勝手に勘違いしてくれてなんとかなった。結衣ちゃんはこれを狙っていたのね。


「……」


「……」


 まぁ、大分気まずい空気になっちゃったけど。


「ところで、2人はどうして配信もせずにこんなところで何をしてたの?」


 ひとまず話を変えておこう。


「そ、そうですね! 私たちはえっと、神隠しの噂を追ってまして!」


「……神隠し?」


 話を変えるだけのつもりだったんだけど、興味深いワードが飛び出してきたね。


「はい、私たちも仲間から聞いた話なんですけど……」


 葵ちゃんが語ってくれたのは、確かに興味深い話だった。


「うーん、ダンジョン内で行方不明者ねぇ」


 そんなのあるかな? いや、ないとは言わないけど、そんなことあったらお兄ちゃんやミミが気がつくはず。

 いや……もしかしたら、何か異変があってまだ気がついていない可能性も……


「……もし報告したらお兄ちゃんが喜ぶよね……」


「雛香さん?」


 お兄ちゃんから 「雛香がいてくれて良かったよ」 なんて言われちゃったり……


「決めた! 雛香たちもその調査を手伝うよ!」


「えっ!」


「結衣ちゃんもいいよね? 一通り案内は終えたところだし」


「はい。大丈夫ですよ。私も気になりますし」


 結衣ちゃんからしてもお姉ちゃんが関わっているわけだし、他人事じゃないもんね。


「えっと、手伝ってくれるのはありがたいですけど、いいんですか?」


「いいの、いいの。あ、一応雛香たちのことは後で放送のネタにする時には秘密でお願いね」


 そうじゃないと、結衣ちゃんが困るからね。


「もちろんです。それじゃあ手分けをしましょうか」


 うん、人手があるからって言っても、一緒に行動する必要はないからね。


「それじゃあ、私と渚はこっちに……渚……?」


 うん? 渚ちゃん、どっかを見て固まってる? そういえばさっき自己紹介した時から喋ってなかったけど……


「渚? どうしたの?」


「……葵……あれ……」


「あれ?」


 渚ちゃんが指差す方向に釣られて視線を向ける。

 そこには1人の女の子がいた。

 結衣ちゃんくらいの年齢の、おかっぱ頭で赤い着物を着た女の子。

 それだけでも異様なのに、その女の子にはもっと異様な点があった。


「……透けてる?」


 まるで幽霊みたいに身体が透けている。


「ふふっ」


 その女の子は雛香たちの方を見ると、意味深に笑ってそのまま走っていってしまった。


「ま、待って!」


 葵ちゃんがその女の子を追いかけ。


「葵!」


 渚ちゃんがその葵ちゃんを追いかけ。


「結衣ちゃん、雛香たちも行こう!」


「はい!」


 雛香たちもそれを追いかけたのだった。



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