第11話 妖怪大戦争
結衣ちゃんをベッドに寝かせた後、改めて雛香以外のメンバーに集まってもらって話し合いを始めた。
雛香? 雛香は難しい話はよくわからないから後でお兄ちゃん教えてねって言ってた。
まぁ、結衣ちゃんの近くに誰かいたほうがよかったし、この手の会話が苦手なのはわかってるから別にいいんだけどね。
「あたしの名前は朝倉雪乃。さっきも話した通りに雪女なのよ」
フェアリーの姿をしたまま雪女とか言われても違和感があるけど。まぁ、それはもう疑う余地はない。
「雪女ですか……流石に初めて見ましたね」
「確認。伝承としては残っていますが、正式確認されたのは初めてではないかと」
話し合いに参加した、里楽さん、ミミも突然の存在に驚いているようだ。
「いえ? 政府は私達のことを認識してたのよ? 警察に妖怪対策専門の部署もあるくらいだったのよ」
「えっ? それ本当ですか?」
マジか、現代日本って思ってた以上にファンタジーだったのか?
「うん、ほんとなのよ。まぁ、実際に何かあった時に動くのは警察じゃなくてそういう事の専門家なのよ」
専門家なんてのもいるのか……妖怪退治とかそういうのかな?
「ちなみに、大愛ちゃんの母親の家系、火宮家も妖怪退治の家系だったのよ?」
「えっ!?」
大愛さん知らなかったのかな?
「そういえば、さっき殺し合う関係とか言ってたっけ」
「そうなのよ。あの子が今のあなたくらいの歳の頃からあたしのことを追ってきててね。何度も戦ったわ。まぁ、あたしが負けるわけはなかったのよ」
「母が妖怪退治……全然聞いたことありませんでした」
「まぁ、あの子はあの子で妖怪退治に対して思うところがあったみたいなのよ。だから、あなたには関係ないところで過ごしてほしかったんじゃないかと思うのよ」
「そう……なんですかね?」
「ええ、何度も戦ったあたしが言うのだから間違いないのよ」
それ、どういう根拠なんだ?
でも、大愛さんはそれを聞いて納得していた。
「母が家について何かしら考えていたのは多分事実だと思います。なにせ、私は祖母や祖父の顔は全く見たことありませんでしたから」
実家とは距離を置いてたってことかな……
確かに関わりがあったのなら、結衣ちゃんや大愛さんをそのままにしておくとは思えないけど。
なにせ、結衣ちゃんは僕と出会う前は大変なことになっていたわけだし。
「まぁ、火宮家についてはまた後でね。とりあえず、妖怪は実在するってことだけ認識してほしいのよ」
「それは……はい」
まぁ、考えてみれば僕という存在に比べたら妖怪くらいなんのそのって気がする。
地球には魔力が溢れているし、何もいないほうが不自然なくらいだし。
「そして妖怪っていうのは、良い妖怪もいれば悪い妖怪もいるのよ。あっ、ちなみにあたしはいい妖怪なのよ!」
「雪女って男を惑わすみたいな妖怪だった気がしますけど……」
「確かに昔はそんなこともあったけど、心に決めた人がいるし娘だっているのよ。そういうのは卒業したのよ」
「昔はやってたことは否定しないんですね……」
「100年以上のことだし、とっくに時効なのよ!」
100年って……そりゃ確かに無理があるけど。
「今はあなたたちの味方ってことは間違いないのよ」
「まぁ、一応助けてもらいましたし、信じますよ。それで、あの襲ってきたやつはなんなんですか? 話の流れからするとあれが悪い妖怪ですか?」
あの一つ目小僧みたいなやつ。明らかにこっちに悪意があったよね。
「そうなのよ。あの一つ目小僧は悪側の妖怪の生き残りに違いないのよ。危ないところだったのよ」
あのままだとどうなっていたかはわからない。冷静になればもうちょっと僕の方でもどうにかできたと思うんだけど、突然のことでパニック状態になっていたし。
「うん? 生き残り?」
「そうなのよ。昔、人間と良い妖怪連合と悪い妖怪で戦いが起きて、良い妖怪側が勝ったのよ。でも、悪い妖怪が全部いなくなったわけじゃなかったのよ」
「まさかそんな妖怪大戦争が起こっていたなんて……」
ほんと日本って想像以上にファンタジー世界だったんだなぁ……
「あれ? ひょっとして、今回僕らが襲われたのって偶然じゃなかったりします?」
良い妖怪の娘の結衣ちゃん、妖怪退治の家系である大愛さん、僕はまぁ関係ないけど、偶然にしては出来すぎている。
「そうそう! そこなのよ! あたしの感覚だと最近になって妖怪が活性化してる気配がするのよ!」
「妖怪が活性化……?」
「そうなのよ。妖怪っていうのは、活動に妖気が必要なんだけど、それが最近世の中に溢れているのよ」
あっ、ひょっとして……妖気っていうのは、魔力と同じなのかな?
正確には魔素のことかな? 呼び方が違うだけな気がする。
「それに今日のあの場所は他と比べて妖気が安定していたから妖怪が活動するのに適した場所だったのよ」
「今日のあの場所っていうのはダンジョンのことですかね?」
あー、確かにダンジョンの中は他と比べたら魔素が整っているかもしれない。
「……あれ? つまりあのダンジョンは妖怪の巣窟になる可能性が……?」
「その可能性は大なのよ!」
あっ、これはやばい事態かもしれないぞ。
「今すぐにあのダンジョンを崩したらどうにかなりますか?」
「わからないのよ。でも、あの場所からは既に多くの妖怪の気配を感じたのよ。きっと他の場所から集まってきているのよ」
となると、ダンジョンを消去しても駄目か……むしろ、ダンジョンっていう空間に限定したほうがそれ以外が安全かもしれない。
「飛鳥さんの能力でダンジョン内の妖怪を全て消せないんですか?」
里楽さんが聞いてきたけど。
「あー、どうだろ……多分抵抗されるんじゃないかな?」
そもそも、その妖気だっけ? それがどういう能力なのかわかっていない。今日攻撃を受けた感じだとちょっと僕の知っている魔法とは違う感覚だったんだよね。
「そうなると地道に一体一体消していくしかないってことですか……」
「どのくらいの妖怪がいるかわかればどうにかなりそうだけど」
それすらもわからないんだよなぁ。
「大丈夫なのよ! こっちにはあたしと火宮家の人間がいるのよ!」
雪乃さんは大愛さんの肩に飛び乗った。
「えっ!? 私ですか!? 私、さっきも言った通り何も知らないんですけど!」
「大丈夫大丈夫! あたしが修行するのよ! 一流の妖怪退治専門家に育ててみせるのよ!」
「えー……」
困ったようにこちらをみる大愛さん。
「……大愛さんじゃないと無理なんですか? それこそさっき言ってたような政府の組織とかそういうのに任せるとか」
「連絡がつくならいいのよ! 警察に妖怪が出たから退治して欲しいなんて言ってもまともに扱われないのよ!」
それは……そうかも……
「……一応父に話はしておきますね」
「うん、お願い」
確かに真田さん経由が一番早そう。
「それに、大愛ちゃんに選択肢はないのよ! もう今日の件であっち側には目をつけられちゃってるかもしれないのよ! 結衣ちゃんも一緒なのよ!」
「私と結衣が!?」
「そうなのよ! 自衛のためにも学んでおいて損はないのよ!」
「そうですか……」
悩んでいた大愛さんだったけど、最終的には、
「結衣のためならば……」
ということで、大愛さんの修行がスタートしたのだった。
まぁ、僕は多分あんまりできることないけど……修行に使う安全な場所を作ることくらいはしておこうかな。