7.つーかーれーたーー
アルマス達の後、順番に他の班がシュミレーションを行った。結果から言うと魔獣討伐に成功したのは、二つの班だけであった。
一つ目の班は勿論アルマス達の班であり、終了時点の状態はアルマスが生存、スビンも生存しているが虫の息、他二人は死亡という状態であった。
討伐までの流れとして魔獣の状態はスビンの噛みつきにより、左肩を損傷、左腕の大幅な弱体化。焦って森を作成したため、魔力線が一時的に焼き切れ、魔力の枯渇。ケテルによる右腕の全損、尻尾、右足の機能の事実上の停止。トーマスによる眼の損傷、全身の筋肉にしびれ。アルマスのよる全身の骨を粉砕、圧死という流れであった。
もう一つの班は全員生存。魔獣討伐までの時間は異例の一秒にも満たなかった。
「かなり厄介そうな相手だったので始めから少し全力でいかせて貰った。食糧に出来ないのが難点だな。」
魔獣を即殺したアデケイラはそう語る。今回の条件はあくまでも魔獣の討伐であったため、魔獣は原型をとどめていなかった。
後からの解析でわかったことだが、アデケイラはシミュレーションに入った瞬間、魔獣を認識して、首をもぎ取って握り潰し、残った胴体はかかと落としで四散させて殺したらしい。
勿論彼の班員は終始、何もわからない状態であった。
他の班は全員死亡という結果に終わった。何も出来ずにやられた班もあれば、惜しいところまで行った班もあった。
「すまん、焦って突っ込んじまった。まさか、あそこまで魔獣の皮膚が硬いとは思わなかった。」
アルマス達はシミュレーションが終わった後、他の班のシミュレーションの映像を見ながら反省会を始めた。
「まあ、それはそうだな。俺達も魔獣という未知なる生命体の攻撃力を侮っていた。誰でも、まさか、鎧を軽く破って来るとは思うまい。あの速度を目で追えていたのはアルマスとイグテスぐらいか?」
スビンは自身の軽率さを恥じ、ケテルはそれをフォローする。
「ああ、イグテスは目で追えていた。俺もイグテスとは視覚共有が出来るし、この帽子に思考を加速させる効果を付随させてたのも良かった。今回上手く行った一番の要因はスビンが魔獣に魔法を使わせたことだな。あんな大規模な魔法、魔力線が一時的に焼ききれたんだろう。あれ以降魔法を使ってこなかった。だから、ケテルやトーマス、俺の攻撃が直撃させることが出来た。もし、魔法があったら他の班と同様に容易く攻撃を避けられていただろう。」
アルマスは映像を見返しながら言う。三人も確かにと頷きながら映像を見返す。
「そういや、アルマス。トランクの重さって実際どれくらいあるんだ。」
トーマスはアルマスがトランクで魔獣を殴ったシーンを見ながら質問した。
「ああ、軽く五トン以上はあるだろうな。」
「「「五トン?!」」」
三人はトランクの重さに驚いた。
「このトランクの内部をとある部屋と同一化させていてな。普段は魔法で重さを軽減しているんだ。魔法は繋がっている部屋のある施設のほうで賄ってるから俺の負担はほぼゼロだぜ。」
三人はそれの説明に仕組みについては納得した。しかし、その説明だとまだ一つ解決していない問題がある。
「でも、空間を繋ぎ続けて尚且つ、重量を軽減する魔法を掛け続けるには莫大な魔力を消費する。そこはどうしているんだ?」
トーマスはアルマスに聞く。アルマスはどう答えようかと少し迷ったが答えた。
「企業秘密と言って誤魔化してもいいんだが、誤解されるのも嫌だし言っておくか。あれだ、日光を使ってるんだよ。人々は日々太陽の恩恵をもとに生きているだろ。太陽信仰とかあるぐらいだから神気も混ざってるし。まあ、価値があるんだよね。ということで、うまいこと変換のシステムが組めたら効率が結構良いんだよ。」
アルマスは若干自慢気に話し、ケテル達は素直に感心する。太陽を利用しようとする研究は最近少しずつ研究が進んでいる内容であり、既にそれを行っているというのはかなりの偉業なのだ。
「でも、やっぱ一番凄かったのはケテルのあれだな。星槍なんて羨ましいぞ。俺も高火力装備が欲しい。」
アルマスはこれ以上追及されたくないのか話題を変える。
「星槍アコーロンだな。我がカルス家の先祖は遥か昔に存在した大魔ルゴーリオを討ち滅ぼした者だ。彼が使っていた装備は戦いの後にどこかに返却されたらしいが、どうやらその後も魔獣退治のために同等の武器が欲しいとして、魔法で再現したらしい。その魔法は現在も現存しているが、まあ、十分に使いこなせる人が彼以降現れてないのが問題だな。」
ケテルは映像を見返す。過去の記録や魔法を解析した結果、今回のケテルの使用した魔力量ならば理論値としては少なくとも直径十メートルを超える光の槍をさらに高威力で放つことが可能らしい。
「貴族の家になるとやっぱそういうものを保持しているところも多いのか?」
トーマスはケテルに聞く。
「失伝している、させているところも多いだろうがまあ、結構あるんじゃないか。家ほど多いところは少ないと思うが。管理できずに暴走したなら次の大魔に成りかねない。」
「ってことは俺みたいに自身の存在その物に刻まれてるわけではなく、外付けってことか?」
スビンはポンッと狼になって言う。
「ああ、一子相伝で生まれた後に親から肉体に刻まれる。俺に刻まれたのはこの星槍再現ともう一つあるがそっちは秘密ということで。時間だ、集合地点に行こう。」
ケテルは時計を指差す。時計は4時を指しており、急いで四人は先生のところに集まった。
十三組のクラスの生徒は既に集まっていて、アルマス達が最後であった。
「皆さん、お疲れさまでした。まず、大多数の人は擬似死亡体験したと思います。明日明後日は休日ですのでしっかり精神を休めてください。」
アララクはその後総評を話始めた。
「まず、今回初の試みで前の形式とは違いますが、昨年度までの生徒と比べて同レベル程度の実力はあると思いますので、即殺された人も落ち込み過ぎないようにしてください。また、後々習いますが、地上に現れる魔獣の平均スペックはあれよりも高いです。そうそう出る物でもありませんが気を付けるように。で、詳しいことは書面で渡すとして、皆さんが待っているであろうことを発表します。」
アララクはちょっとしっかりした紙を取り出す。
「春季大会に出場する者は、アデケイラ、アルマス=クロック、ケテル=カルス、スビン=ワーロン、シュウ=タケヨ、トーマス=カーバック、ナーニャ=ヘルレクス、ライク=ハンバグの八名です。」
アララクは空中に八名の名前を浮かび上がらせた。
「わかってはいると思いますが、魔法使いに重要なのは結果です。どれだけ素晴らしい過程であっても意味がないのです。運がなかったと諦めてください。もし、過程を重要視するなら科学者になってください。あちらの過程には意味があります。」
これで今日の講義を終わった。
◇ ◇ ◇
「あー、疲れた。」
アルマスは寮室のソファーでぐったりとしていた。
「そっちのクラスもシミュレーションしてたの?」
そんなアルマスに机に座って勉強しているカノンが聞く。
「ああ、何とか春季大会の切符は勝ち取ったぜ。細かいところで見ると俺達よりいい動きしていた人はいたんだが、そいつらは魔獣討伐は出来てなかったからな。」
「結果を重んじる学校っていうのが売りだからね。あと、私達も出場するわよ。」
カノンは何でもなさげに言う。
「へー、どうやって戦ったんだ?俺達は結果的に見ると一人一人が命と引き換えに削っていって俺が最後質量攻撃で殺ったんだが。」
「私達は空気に粘性を与えたわ。常識的に考えて魔獣なんて真正面から倒せる訳ないでしょ。アリスなんだけどね、水とかそっち系の才能があるらしいの。で私はそれを補助して、ひたすら空気を重くしたわ。魔獣って魔法に耐性があるらしいけどあくまでも私達がやったのは空気に対してだからね。私とアリスとあと一人でひたすら動きを封じて、最後にあと一人が一部だけその魔法を解いて魔法で一気に強化して剣でスパッとして殺したわ。」
「うわ~、すっげぇ作戦立ててやってんじゃん。俺達のところは完全無計画だったしな。第一、直前までシミュレーションでやるとか知らなかったし。」
アルマスは自虐から笑いながらカノン達の評価を上昇させ、カノンはため息をつきながらアルマスの評価を上げる。
「よくもまあ、あんなのを作戦なしで倒せたわね。実力はあるってことね。」
「運が良かったと言えばそれまでなんだが、魔獣に大魔法使わせて魔力線を封じたからな。」
「他の班のクラスのデータでいくつかあったけど、逆にあれでよく生き残れたわね。」
カノンはあの木々の成長に圧死させれていなかったことを評価した。
「俺達の班が結構脳筋だったからな。強化して殴ったら壊せるし、第一あの木々は魔獣によって生み出されたものであって、所有権は特になかったから魔法を上書きも出来るだろ?実際ケテルとトーマスはそうしてたし。」
「普通の生徒はそんな発想しないわ。実践慣れでもしてるのかしら。、、っていうか、ケテルってあの公爵家の!??」
カノンはケテルという名に驚き、アルマスもその反応にビックリする。
「びっくりした。なんだ、公爵家ってそんなに凄いのか?」
カノンは信じられない物を見たような顔になる。
「凄いに決まってるでしょ!貴族の最上位の位よ。」
アルマスはそうだったと手を叩いた。
「へぇー、あいつそんな凄いところの坊っちゃんなのか。でも、やっぱ、血ってそんなに重要なのか?お金持ってたり、先祖の功績が凄かったりしてその再現がしやすかったりするだけだろ?」
カノンはため息を吐いた。
「自分でその凄いところを言ってるじゃない。救国の英雄の再現が出来る。これだけで大きな力になるじゃない。」
カノンはあきれたように言う。
「そうか、そうだな。」
アルマスは簡単な相づちを打つ。
「疲れてるなら寝なさい。かなりの無理してるんでしょ。」
カノンの声を聞くことなく、アルマスの意識は闇に落ちていた。