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6.魔獣ヤバない?

 現在アルマス達が集められているのはあの巨大な石の塔の前である。


「はーい、注目してくださいね。」


 この演習の責任者である先生が前に出て話をしている。名はアララクであり、どうやら10年間この学校で教師をしているらしい。昔は冒険者として猛獣を狩っていたのだとか。

 話している内容としては、ケテルが言っていた通り、これから魔獣討伐をして貰うということ、ここで優秀な成績を残した班は春季大会に出場できるという話であった。また、この石塔の中で行われるのだが、この石塔は世界に三個しかない迷宮のひとつとして紹介された。


(迷宮ってあれ?素材の宝庫とか言う奴?)


(そうですね。現在では許可がないと入れないようになってますね。理由としては簡単に人が死に過ぎたからと言われてます。十年前の邪竜討伐も生還したのは10%だったとか。まあ、あれは百階層目まで行っていたのもあるでしょうし、許可貰ってよく乱獲してくる人もいると言われてますので、足切りラインがかなり高いという話だと思いますが。)


(そんな危険な場所に生徒送りこんで大丈夫なのか?)


(どうやら、一階層目は唯一完全に人間の領域にできたようなので、そこを利用するのかと。)


(なるほど。)


 イグテスの言う通り、今回の演習は一階層目で行われる。また以前まであ二階層で取ってきた魔獣を程よく調整していたが、今年からは完全シミュレーションのようだ。

 疑似的な空間を作り出し、そこで再現された魔獣と戦うようだ。死ぬようなことがあってもそれは全て空想と処理され現実に影響を及ぼすことは無い。ちなみにこの技術はこの石塔の一階層目のみで行うことが出来る。

 順序としてはアルマス達の班が最初のようだ。


「じゃ、やりますか。」


 そうケテルが意気込みを入れる。アルマス達は準備運動などを終え、装備を固めた。

 まず、アルマスの装備であるが、黒い外套と帽子を身につけ、トランクを持っている。腰には短剣を携えており、この短剣の持ち手も刀身も任意で伸縮するため、槍としても長剣としても使うことが可能である。肩には鴉となったイグテスが乗っており、常に周囲を警戒している。ちなみに、アルマスは外套の下に鎧を着こんでいる。

 次にケテルであるが、彼は完全に鎧を纏っているような状態であった。鎧と言ってもそれほど重装備という訳でもなく、多少薄く作られているため、それほど大きくまた重くない。しかし、刻印が刻まれており、魔力を通すだけで魔法の行使が可能であり、彼の物では強度の増加、結界を張るといった効果などがある。また、宝石も取り付けられているため、緊急事態にはそれを魔力として代用することが可能である。本人曰く、衝撃を増加させる効果なども入れているらしく、殴り合いは上等らしい。

 そして、スビンは銀狼への変身を前提にしているため軽装かと思いきや、しっかり鎧を着ている。腰には魔力を貯蔵しているタンクやナイフ、詠唱を省略簡略化するための陣や刻印の入ったベルトなどを身に付けていた。本人曰く、変身と同時に鎧も変形するように設計してあるらしい。

 最後にトーマスは普段は掛けていない眼鏡をしており、周囲には小さな球体が浮かんでいた。手には大きな杖を持っているが、杖には強度を上げたり、衝撃を増加させたりなどの効果を補助することに特化した刻印が入れられているため、こいつも殴る気満々だ。鎧もしっかり着ていて、三人の中では一番ごっつい。


(俺達の班って思ったより脳筋か?)


 黒いローブを身に纏い、杖や呪文が書かれた本などを装備している周りの班の人を見渡しながら、そう思った。


「さて、入学初っ端からそんなガチ装備をしてくる奴らが居て、偶然にもそういう奴らが固まった班が出来ちまったことには驚いたが、まあ、実用的だからいいか。じゃあ、準備はいいか!」


「問題無しです。」


 班を代表してケテルが答えた。


「じゃあ、思う存分、死んで来い!」


 アララクはそんなことを言ってアルマス達を魔獣の前に送り出す。眩い光がアルマス達を包み込み石塔の中へと彼らを招待した。

 彼らが飛ばされたのは巨大な草原。そして、四人と一羽は魔獣を前にして口を揃えてそう言った。


「「「「「は?、、マジで?」」」」」


 そこにいたのは単眼の猿。背丈はアルマスの三倍はあるだろうか。尻尾は長く、先端には棘のついた鉄球のようであった。アルマス達との距離は30メートル程であった。

 

「燃えろ」


 ケテルは早速、魔獣に手をかざして、大部分の詠唱を省いて、魔法を行使する。掌からは一気に炎が吹き出し、魔獣を炎で包んだ。

 トーマスは自身の周りに浮かんでいる球体の内の一つを自身の周りで回転させ、加速させていき、


「ショット!」


打ち出した。

 その瞬間、魔獣は動いた。球体を真正面から噛み砕き、トーマスの目の前に一瞬で移動し、その鋭い牙がトーマスの首を貫こうとした。


「甘い!」


 あと、数ミリで牙が首に触れそうな状態の魔獣に巨大な鳥となったイグテスが突進して吹き飛ばす。


(イグテス、出力落ちてないか?)


 吹っ飛んだ魔獣を見てアルマスはイグテスに聞く。


(ここには眼が届いていませんので。)


(クソが。完全に隔離された空間ってことかよ!)


 トーマスは何が起きたのか理解できず、その場に突っ立っている。次に動いたのはスビンだ。いつの間にか銀狼に変身していたスビンは空中に結界を展開して空中を走り、赤熱したその牙で魔獣の肩に喰らいつく。


「ガアアアアアア!!!!」


 魔獣は痛みのせいか、凄まじい咆哮をあげ、銀狼の腹を殴った。ゴキッと嫌な音が鳴った後、ドパンと赤い血が飛び散った。銀狼はその場に崩れ落ち、脇腹には風穴が空いていた。鎧やそれに施された魔法など、魔獣からしてみれば細事であった。


「ガアアアアアア!!!!!」


 魔獣は再び咆哮した。すると魔獣を中心に巨大な魔法陣が現れた。魔法陣は光輝きすぐに魔法を起動させる。ただの草原からは急激に木々が生え始め一瞬にしてこの場は森となった。地面は大きく動き、アルマス達は強制的に孤立させられた。


(規模がおかしいだろ!?)


 誰もこの状況の変化に思考が追い付いていない。木は永遠と成長を続け、標高を増していく。魔獣は木を蹴り移動する。魔獣の一蹴りで木は容易く折れ、地面には折れた木の雨が降り始めた。木は永遠と成長する。折られていても地面から離れていても関係ない。ただひたすらに木は成長する。


「この程度でやれると思うな!!!」


 魔獣はケテルの声を聞き一直線に突撃する。ケテルは身に纏っていた宝石含む鎧を魔力とし、魔法を行使した。


「暗黒なる国に日は昇り、光は満ちた。是の素なるは其の光の模倣。是なるは其れを束ねし光の槍。是なるは伝家の宝術が一つ。汝は魔、不浄なる物。故に死すべし。疑似再現、星槍アコーロン!」


 ケテルは一直線に突っ込んでくる魔獣に右手を突き出した。右手からは直径2メートルほどの光の束が放たれ、光は魔獣を貫いた。しかし、勝負は決まらなかった。

 バキャッと肉が千切れ、骨が砕け、付近が赤く血で染まる。そこに立っていたのは赤い口をした隻腕の魔獣であった。どうやら、間一髪で体を少し逸らして、致命傷を避けていたらしい。それでも、右腕をなくし、右足と尻尾は使い物にならないようだ。また、左肩には深くまで及んでいる大きな火傷があるため、スビンの噛みつきは無駄ではなかったようだ。


「ショット!」


 魔獣には休みなく、次の相手が現れた。刻印が刻まれた球体が亜音速で飛んでくる。球体は着弾と同時に針地獄へと変化し、その先端からは雷が放たれた。魔獣は雷に打たれ動きが止まる。そこをトーマスは強化しまくった大質量の杖で思いっ切り殴り付けた。

 グキャッと骨が折れる音がした。音のもとは、折れていたと言うより、吹き飛んでいたのはトーマスの首であった。ドサっとトーマスの胴体は崩れ落ちる。杖は魔獣の頭に直撃していたが、ひるむほどのダメージでもなく、雷にも耐性がついてきていたので、その隙に魔獣は余っていた左手でトーマスの頭を殴ったのだろう。

 この領域にアルマス達が来てまだ一分、早くも残りはアルマスとイグテスだけになった。

 際限無く森は成長を続ける。この領域が木で埋まるのも時間の問題であろう。

 そして、現在、アルマスは巨大な鳥となったイグテスの背にのって、ただひたすらに上を目指した。森の成長速度は異常であり、イグテスの飛行速度を超えているようだ。

 木々は次々と自重に耐えられないようになり根元から折れる。イグテスは器用にそれを避けて上を目指す。


(ふざけてやがる。自覚はないだろうが契約でこの技を一度きりの魔法にしてやがるな。)


 アルマスは魔獣の行使したこの魔法を考察しつつ、トランクから大量の爆弾を取り出しばらまく。


「ガアアアア!!」


 下からは魔獣の咆哮が響き、爆弾は一気に爆発した。魔獣の咆哮は木々を傷付け、倒木の増加を促進した。


(イグテス、速度は上げられるか?追いつかれるぞ!)


(こんなところで速度を上げれば僕はすぐに燃料切れを起こすけどいい?何より木々に突っ込む可能性があるけど。)


(じゃあ、旋回して下に向かえ!)


(わかった。合図を頼む。)


 魔獣は片足でも容易く木を蹴って、アルマスに迫る。距離にして百メートル。三秒もあれば容易く迫れる距離であり、一蹴りで到達できる距離でもあった。魔獣は木に足を付け最後の一蹴りを行った。


(今!)


 アルマスはその動作に合わせてイグテスに指示する。イグテスはその場に自身の向きだけを反対にしてその場に転移する。

 魔獣は完全に虚をつかれた。魔獣は大した準備も出来ずにアルマス達と接触する事になる。アルマスはトランクを振り上げており、それで魔獣を殴り付け、その後、イグテスの突進で仕留めるつもりなのだろうと魔獣は本能で認識した。

 ここまで認識してしまえば、アルマスもまた、ケテルの二の舞となることが確定する。魔獣の目的は人間の殺害であり、自己の生存は気にしていない。トランクの質量、イグテスの速度、自身の状態、トランクの衝突は避けられないがこの状態から相討ちに持っていける手などいくらでもあるのだ。

 魔獣は少し体を捻って、カウンターの体勢となる。それをアルマスは想定していると知らずに。


(イグテス、重量軽減解除)


 アルマスの指示でイグテスはトランクに掛けていた魔法を解除する。これにより、トランクの質量の前提が崩れた。

 バキャッと音がする。トランクと魔獣が衝突したのだ。


(クロ!)


 魔獣は想定以上の力を受ける。前提が崩れた以上、カウンターは失敗する。追い討ちを掛けるようにトランクの中から黒い何かが魔獣に纏わりついてトランクと魔獣を密着させる。魔獣の残骸からアルマスを守るためだ。

 最後にトランクごと魔獣はイグテスに地面に向けて吹き飛ばされる。

 魔獣は地面とトランクに挟まれ潰される。傷口にはクロがねじ込んでいき、ぐちゃぐちゃの体をさらに崩していく。結果、魔獣は絶命した。

 こうしてシュミレーションは終了した。

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